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最終話「出航の旅」

こうべを上げよ」


 謁見の間。騎士たちが並ぶ最奥に、威厳のある声で、一人喋る男がいる。

 彼は王。人間界の頂点に立ちし者。


「此度の勇者試験、よく頑張った。

 差し当たって、お前たちに褒美を出そう」


 一つの身じろぎも許されない空間で、王は続ける。


「魔界へと続く魔法陣だ。

 お前たちには、魔界の真の姿を見届ける使命がある。

 決して戸惑うな。それは、お前たちが進むべき道なのだ」


 ◆


「はぁ~、疲れたにゃ」

「肩が凝っちゃうね。王様と会うのは二度目だけど、やっぱり緊張するなぁ」

「は!? 二度目にゃ!?」

「いや、まぁ……。父さん経由で」

「なるほどにゃ」


 イケメンさんな王と謁見した俺たち。

 エニフィは一時的に騎士団を抜け、一躍勇者パーティとして有名になった。

 今や、勇者フォールの名を知らない者はいない。それほどまでに、俺たちは英雄視されていた。


「魔法陣の紙、誰が持っておきます?」

「僕が持っておこう。これでも勇者なんだから」


 試験に受かった。

 合格祈願はしていなくても、俺たちは勝利したのだ。

 最初は嫌味で呼んでいたけれど、フォールは正真正銘の「勇者」となった。


「……魔法陣を渡す王の顔は、どこか憂いを含んでいたような気がした」

「なんか小説の一文みたいな言い方ですわね」


 レインさんが真面目な顔で言うも、エニフィに突っ込まれる。


「本当だ。

 なんだか……とても、嫌がっているような」


 レインさんは、何かを探るように、王宮の部屋を出て行った。


 ◆


「何かが違う」


 試験に合格して、あたしたちは王宮へととどまることになった。

 今や、『勇者パーティ特権』は常習文句である。どの店に言っても無料ただで食べられて、無料ただで利用できる。お店の人に悪いような気もするが、みんな優しく迎え入れてくれる。

 ――それでも。


「魔王を倒す為のパーティなのに、凄く嫌そうだった」


 多分、あたし以外にはわからなかったと思う。

 でも、ひしひしと感じていた。王座付近から感じる悪感情を。


「……書庫に、行こう」


 機密の書庫に。

 どうしても、胸にひっかかっていた。

 どうしても、あたしの直感が、何かを感じ取っていた。


 ◆


「そろそろ、出発の時が来たね」

「待ちわびていたにゃ」

「大丈夫ですわよね……」

「…………」


 仕切りの奥には、俺たちを見送る民衆たちがいる。

 はちきれんばかりの声援が、沢山聞こえてきた。


 ――よし。


「せーの、で行くにゃ!」


『せーのっ!』


 「せーの」の掛け声で、俺たちは足を踏み出した。


 人がいる。

 エルフがいる。

 妖精がいる。

 獣人がいる。


 沢山のヒトが、そこにいる。


「僕たちは、今から魔王を倒しに旅に出ます!」

「あたくしたちは、絶対に負けません。どうか信じて、待っていてください!」

「どうか、あたしたちを応援してくれ」

「あちしは魔王を討ち取るにゃ!」


 あくまでも自分本位で。

 それでも俺は、未知へ進む。


 ◆


 魔界へ行く準備が完了した。

 今いる場所は、転移魔法陣を発動させる部屋である。


「……お疲れ様、勇者一行よ」

「おっ、王様ですわ!

 ヤバイですわ、早く頭を下げないと! ほら、皆さん!」


 エニフィ は こんらんしている!

 まあ、頭を下げないといけないのは当たり前である。言うまでもなく、俺たちは膝をついた。


「まあまあ、気楽にして良い。

 俺から一つだけ、言いたいことが残っていた」


 謁見よりも軽い口調で、王は言う。


「例えば、期待と予想から外れていることはあるだろう。

 例えば、失望して、諦めてしまうことはあるだろう。

 俺はいつでもそうだったし、王という立場上難しいものもあった。

 ……だから、決して混乱するなよ。これは忠告だ」


 それだけを言って、王は立ち去っていく。

 コツ、コツ、と。足音は、俺の心臓の音と、同じ鼓動を刻んでいた。


「それじゃあ……行こうか」

「にゃ」

「ええ」

「……ああ」


 俺たちは、魔法陣に向かって、魔力を注ぐ。

 色とりどりの光が、魔法陣へと収束する。

 光の中に飛び込む。

 全員で手をつないだ。

 

「”発動"」 


 その一言で、俺たちは魔界へ旅立った。


 ◆


「…………へ?」


 俺とフォールとエニフィの声が、重なった。


 魔界。

 忌々しい魔物がいる世界。


 魔界。

 朽ち果てた秘境。


 魔界。

 お化けが出てきそうで怖い。


 ――魔界。

 普通は、普通に街があって、普通にヒトが暮らしていて、普通にある魔界だなんて、想いもしないだろう。


「まさか、転移に失敗した……?」


 フォールがつぶやく。

 その可能性も否定はできない。

 だって、ここは。


「どう見ても、ただの街にゃ」


 しばらくの沈黙のあと、レインさんは言葉を発した。


「……あたしは、機密の書庫で本を読んだ。

 歴史の本だった」


 手をにぎにぎしながら、レインさんは言う。


「この世界は、もともと一つだったらしい。

 一つの世界に、二つの国――勢力があった。

 その二つは、ぶつかり合い、競い合い、戦いあった」


 レインさんの話に、俺は聴き入っていた。


「ある日、二つの勢力は、世界を分けた。

 二度と争いをしないように、二度と会えないように。

 それでも、世界を作り替えることは、完璧とまではいかない」


 世界を、作り替える。

 そんな芸当、できるものなのか。


「作り替えたのは、神だ。

 でも、神は、完璧じゃないし、完全じゃない。そこで、歪みを創りだしてしまったんだ。

 ――それが、魔物」


 魔物の正体は、世界を作り替えた神の手違いだった、という事か?


「でも、双方には誤解が生じていた。

 魔物が出てきたのは、相手のせいだ、と。

 相手が阻害しようとしてきたんだ、とね」


 まあ、普通はそう考える。

 今まで敵対していた相手なんだから。


「それかららしい。お互い、王を「魔王」と言い、討伐せよ、討伐せよ、と言い張り始めたのは。

 どうやら、あの王は真実を知っていたようだが……」


 え?


「あたしは王に会った。そして、話を聞いた。

 彼は、ランカスター・アヴィドに真実を教えてもらったらしい。

 だから、必死に勇者試験の難易度を高くしたそうだ。

 その上で通過したあたしたちは、強かった」


 えっ、と。話を要約すると。


 『戦争をしていた二つの国が二つの世界に別れちゃって、勝手に魔界とか魔王とか両方から呼び合ってたけど、実際はそんなことなくて、そんな風に勘違いした原因である魔物は神様が間違えて創りだしちゃったでした、テヘペロ』


 みたいな?


「あの王は、この世界と国交を回復したいそうだ。

 なんでも、ここは資源が豊富らしいし」


 俺の魔王討伐の旅は、魔王交流の旅に突如変化した。


 ◆


 あれから一年。すっかりと、俺たちを取り巻く環境は変わっていった。

 魔界……ではなく、あっちの人間界でも、こっちの技術を積極的に取り入れたい、と、交流がさかんになる。こっちの世界では資源を得られて、あっちの世界の技術も取り入れられて、一石二鳥だ。

 あっちの王と掛け合ったのは、紛れも無い俺たちだ。

 それと、留学生が増えた。平民のための教育機関に、多くの留学生たちが入学した。


 フォール。独立して貴族の称号を与えられた。

 エニフィ。フォールの家で家事手伝い中。チキンな彼女のことだから、きっとフォールに未だに告白もできていないのだろう。

 レインさん。フォールの屋敷に妖精たちを呼んで、一人の居候として過ごしている。


 そして、俺は。


「……まだまだ遅い。

 私に追いつきたい? 甘ったれた事を言うな。

 精々、あと百年は修行しろ」

「黙れ……にゃっ!」

「フン」

「にゃあああー」


 剣と一緒に吹き飛ばされた。


 俺は、騎士団のひとりになった。

 何度も何度も挑んで、何度も負けた。

 何回に一回かは死んだ。でも、ランカスター・アヴィドに生き返らせてもらった。

 目の前の悪魔。名前は、確か――。『アレグロ・サントノーレ』といったか。


「貴様が強さを求める理由はなんだ? まさか戦う理由もなく修行をつけられているということはなかろう」

「言うまでもないにゃ。オマエに勝つためにゃ」

「その程度で私に勝つ、だと。笑わせるな」


 何度も剣で突撃しても、悪魔は微笑みを崩さない。

 怖い。幾度それを思ったことか。

 悪魔は俺の隊の隊長。

 本音を言うと、さっさと騎士団を抜けたい。だって怖いから。


 でも、俺は戦いたい。


「お金と美少女と、あと勇者が欲しいから!」


 -fin-

俺たちの戦いはこれからだ!


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