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二話「未知(美少女)との遭遇」

「く、くそですわ。今度こそは通過してやるのですわ! あたくしは負け知らずのエニフィード・ユリアス! くそくそくそですわ――!」


拳を振り上げて、金髪縦ロールは笑う。

 「うふふふふふ……、うふ、ふ、ふふ、あーっはっはっはっは!」と、まるで悪役のような三段笑いで。



「……で? 仲間探しとやらの条件を教えてくれると嬉しいのにゃ」

「美少女で強い子だよ」

「こここ、この変態!」

「なんで僕が罵られなければいけないんだ?」


 目尻にうっすら涙を浮かべて、軽蔑を孕んだ視線を寄越してくる彼女こそ、アレク。父さんによると、ああいう人種は「ドS」というらしい。

 何はともあれ、勇者試験の第一条件、四人以上のパーティを組むこと。それを達成せねば、父さんの期待に応えられない。


「まずはこちらが雇用できる美人さんを探しだす。強さは二の次でいい……のかな」

「『のかな』って! あんたが言い出したんでしょうにゃ」


 そうは言われても……父さんがそう言っていた。そうとしか言いようがない。


「それじゃあ、まずはギルドに申請を出そう。話はそこからだな」

「申請? にゃーにそれ」

「依頼として、一時的に雇うのさ。勇者試験に随伴してほしい、ってね」

「え……一時的に?」

「でも、お金さえあれば何日間でも何年間でも、それこそ一生分でも雇えるかもしれない。うちの財力を持ってすれば」


 父さんの貯金は計り知れない。僕が興味本位で覗いてみた金庫には、床が抜けるほどの金貨が積まれていた。時折、天井からお金が降ってくることがあったのだけど、ようやくその理由がわかった瞬間だった。


「で、でも。その人がお金を持ってる貴族だったら」

「もしも相手がお金を必要としないのならば……求めざるを得ないような状況をこっちが作り出せばいい」

「腹黒にゃ…………」


 父さんの受け売りである。



「ターゲット確認。 追跡中ですにゃ」

『了解。今現在、こちらの準備が完了した。あとはアレク、きみが発破をかけるだけだ』

「合点承知。3、2、1……突撃開始!」


 念話を切ったのを合図に、俺は哀れなターゲットの前に姿を表した。

 ターゲット01……勇者曰く、貧乏な美少女僧侶ちゃん。シスター服を着込んだ彼女ならば、すぐに契約を結んでくれることだろう。


「あ、あの……ちょっと話を聞いてくれませんかにゃ」


 ボロボロの服と首輪をつけた、いかにも奴隷らしい獣人少女。しかも美少女。つまりは、俺のことだ。


「は、はいー……? なんでしょーか?」


 怪訝そうな顔で、こっちをチラチラと見る僧侶ちゃん。まあ、姿だけ見りゃ怪しいよなぁ。


「じ、実はご主人様からあなたに用がある、と……。連れてこなければ、あちしの命が危ないんです。お願いします! どうか、どうかご慈悲を!」

「……。猫女ごときがオレに命令だとぉ? 奴隷もえらくなったもんだなぁ、くっさいからどっかいけよ、草むらにションベンでもしてることだな、ギャハハハハ!」


 なにこの僧侶ちゃん怖い。

 


「もう一度、もう一度行かせてにゃ! 納得いかんのにゃ」

『……仕方ない。アレク、キミにはもう一度だけチャンスをあげよう』

「分かったにゃ! じゃあ行ってくるにゃ」


 あからさまに機嫌が悪そうなターゲット01に、俺はこっそりと近づいた。背中をつん、とつつく。彼女からは、「あ゛ぁ゛!?」とガラの悪いヤンキーのような反応が帰ってきた。こわいよ。


「いいにゃ? あちしは人間にゃ。人間なのよ。あちしは人間。まあそれはいいんにゃが……」

「はぁ? うざいんだけど。つーかオマエ、さっきの猫女だろ? マジイラつく。やめてくんない?」

「はは、猫女? 誰それ。あちしは知らないにゃ。

 それはそうと――お金あげるから、付いてきてくれにゃ」

「あー、そういうのいいから。今イライラしてんの、邪魔。どいて」

「に゛ゃッ!?」


 僧侶ちゃんに押されて、今まで猫耳を隠すためにかぶっていた帽子がポロリととれた。


「チッ。猫のくせして、態度でけぇんだよ」


 僧侶ちゃんは、ギラッと俺を睨んだあと、人混みに混じって消えていった。

 ……ひえー。



「やっっっぱり、納得いかないにゃ!」

「まあ、またターゲット01に話を吹っ掛けてもこちらになびくことはないと見ていいだろうね」

「っていうか、アンタが行けにゃ! あちしはあくまで勇者“候補”の仲間。言いなりにはならないにゃ」

「そうかい。じゃあ僕が行くよ」

「えっ」


 ――数時間後。

 勇者は可愛い女の子をとっ捕まえて、宿に帰宅。


「って、納得いかにゃぁぁぁい!」

「静かに。この宿に止まっているお客さんに迷惑だろう」

「そういう問題じゃねぇにゃ!」


ひぃ、はぁ、と息を落ち着かせて、勇者に問いただす。


「その子の詳細を求むにゃ」

「彼女はレイン・ラベンド。戦士で、武器は斧。

 身長162cm、筋肉質な肉体に反しその胸は豊満。腰まで伸びる髪の毛は赤紫色で、この世界でも珍しい部類に入るね。

 体重は筋肉に比例し56.7kgだ。あとは……」

「も、もういいにゃ。レインさん、にゃ? あちしはアレクにゃ。よろしく」

「ああ、よろしく」


 見事な変態性を披露してくれた勇者に視線を向けると、ニコッと微笑んできた。きもい。


「これで3人が揃ったわけだけど……。あと一人は、主に回復役かな。アレクは魔法使いとしての腕も良いみたいだし、レインの戦闘力は飛び抜けている。……と来たら、あとは美少女の僧侶を探せばいい」

「そうか。所でフォール、美少女を集める理由は何だ? そんな条件を付け足した位で、勇者試験の合格率が上がるとは思えないが」


 レインさんが勇者に、的確なツッコミを入れる。

 うん、うん。レインさんよく言った! 褒めて差し上げたいよ。

 勇者は三秒間の沈黙のあと、呑気な顔で言った。


「実は、勇者試験について、ある噂が流れているんだ。美男美女のパーティは、試験会場で能力が上昇する、というね」

「? しかしそれでは、魔王討伐の旅に出る際、能力が元に戻ってしまうではないか」

「それがね……。試験会場で上昇した能力は、その後も継続するらしい。僕は父さんからするとイケメンらしいし、まあ集めてみようかなあ、と」

「成程。思慮深いお人なのだな」


 ちがーう! 違うんだってば、レインさん! 勘違いなさらないで!


「どうしたアレク。まさか敵襲か!?」


 違います、レインさん。



  あたしは、人間が嫌いだった。

 口を開けば文句ばかり、閉じても文句。

 人は皆、『平均』というものを好む、と学んだ時は、結構後になってからだ。

 それもこれも、あたしを育ててくれた妖精が悪い。妖精の世界の価値観に、すっかり縛られてしまっていた。

 妖精たちは優しくて、とても綺麗だ。

 何だかんだ言って、あたしは妖精が好きだ。 


「……なんだ。あたしに何か用か?」

「用がある。キミを雇いたい。お金ならいくらでもある」


 ――金。あたしが人間社会に馴染むにあたって、一番苦労したものこそ、金稼ぎである。

 つまりあたしは、その人間に着いて行くことに決めた。


「まずはキミの実力を見たいんだ。一度街の外にでようか」

「分かった」


 人間の後を追う。付いた場所は、べちゃべちゃな地面の湿地だった。

 水の出所は、茶色く濁った川。……つまり。


「スライム系の魔物退治、か?」

「そうだね。噂によると、ここのスライムはかなり手こずるようだ」

「……そうか」


 一般的に、スライムは水から発生すると言われている。

 例外もあるそうだ。何もない草原から発生する場合は、魔力だけで発生した可能性が高いらしい。

 魔力は大気中に漂っていて、それを扱うことのできる人種を魔法使いと呼ぶ。

 そもそも魔物とは、草や木、動物などに魔力が付加され、人に害を与えるようになった異生物全般の事を言う。人型種族に従属する魔物もいる。しかし、それは魔物とは言わない。ただの使い魔だ。

 まあ、要は、人に害をなすだけで魔物、直接的な被害をもたらさない場合は使い魔。

 魔王との関係性は、魔物を支配しているだとか、結構不確かなものが多かったりする。

 何故人類が魔王をここまで敵対視するのか……。きっと、貴族の上層部ならば鍵を握っているのだろう。

 「延々と説明してくれるのは嬉しいけど、いい加減長くない」? すまない。あたしにもちょっと事情があるんだ。

 ――スライム、来ないんですけど。


「……遅い」

「ま、呼んですぐ来るようなモノじゃないしね」

「喧嘩を売りに来たのか?」

「まさか。僕はキミの実力を見たい、そう言っただけじゃないか」

「……」


 こいつ、イイトコのお坊ちゃんか? 人を待たせておいて、なんて言い様だ。

 いや待て、こいつもあたしと一緒に魔物が出るのを待っている。それに、言い出したのはこいつの方で、更にそれを了承したのはあたしだ。つまり、どちらも悪くない。あたしの一方的な早とちりだった、という訳だ。


「……すまなかった」

「? まあ、いいよ」

「聞いてもいいか――」

「ああ」

「優しさとは、何だと思う?」


 優しさ。

 妖精たちが接してくれたような優しさ。

 人を思いやる心。

 誰もが持ち合わせる感情。

 あたしは、人間と触れ合い、妖精たちとの価値観の違いに迷った。その理由の一つに、人間の二面性があった。

 妖精たちは、まるで神様だ。いじわるしても気にせず、泣いたら慰めてくれた。

 あたしは、彼の応えを待った。


「僕は……

 心の内を晒さないこと、かな」

「心の内を?」

「人は色々な事を感じる。嬉しい、怖い、哀しい、嫌いとかね。でも、それを素直に伝えたとことで、いい反応が返ってくる訳じゃない。

 だから、他人の期待に応える為にも、僕たち人類は仮面を付けるのさ。……ある意味、僕にとってのあこがれは、『素直な人』なのかもね」

「……素直な人、か」


 ◆


 そういう意味あいでは、妖精たちも仮面をかぶっていたのだろう。

 種族が違うだけで、あたしは勘違いしていたらしい。妖精たちの『仮面』は完璧だった。

 あたしがドジをしてしまった時、もしかすると妖精はいらだちを感じていたのかもしれない。


 一時間待ち伏せして、ようやく現れたスライムを一瞬で倒すと、せっせと彼の旅に付き添う準備を始めた。それが今だ。


「ありがとう――フォール。こんなに良い仕事を紹介してくれて」

「いやいや。僕にはありったけの金があるだけさ」

「そうだ、フォール。貴様は勇者になりたいそうじゃないか。

 もしも試験に合格したならば――あたしを、魔王が息絶えるまで雇わせてくれてもいい」

「それはどうも。お金の可能性は計り知れないね……。

 あっ、でも、魔王を倒せるかどうかは保証できないよ。それでもいいかい?」

「十分だ」


 我儘だったのは、きっとあたしの方だった。だから、もう少しだけ人間と仲良くしようと思った。



「ぶるにゃぁ……」

「よしよし、よしよし」


 ブラッシング、なでなで、毛繕い。似ているようで微妙に違う言葉である。

 その施しを受ける猫耳美少女こそ、この俺、アレクちゃんなのだ。

 レインさん、思った以上に上手かった。尻尾を触られるのは嫌いだったが、レインさんに触られるなら嫌じゃない。性的な意味で反応しそうだった。いや、してないけどね。


「……アレク。少し聞きたいことが」

「うん? なんだにゃ」


 頭を撫でながら、レインさんは真剣な眼差しを向けてきた。


「アレクは、人と話すときに仮面を被るのか?」

「……仮面?」

「そう。仮面だ」


 仮面、仮面か、仮面ねぇ……。いや、普通は仮面とか付けないっしょ。そもそも持ってないし、見ての通りだろう。

 俺は、思ったままの言葉を言った。


「そうか……。貴様はもしかすると、フォール――勇者の『あこがれ』なのかもしれないな」

「んにゃ? なーに言ってるんだにゃあ。あちしはあんなクソ勇者なんて、これっぽちもなんとも全然思ってないにゃ」

「……そうだな。あたしも、『そういった』関係は、二人には似合わない、と思う」

「当然にゃ! で、そういった……って、なんにゃ?」


 胸を張って答えると、レインさんは口をわずかにほころばせた。

 レインさんは、微笑ましい子供を見るような目で俺を見てきた。……なんかバカにされたような気がする。いや、してますよね。


「手が痛い。そろそろやめてもいいか?」

「や、やめるにゃ!」

「そうか」

「そ、そういう意味じゃないにゃ! やめるにゃ、ってことにゃ」

「? やめているぞ」

「そうじゃないにゃ!」



「……さっきから、僕のことはガン無視かい?」

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