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一話「(自称)勇者との出会い」

「魔法使いを探しているんだ」

「それならあちらに丁度いい人材がおりますよ」

「詳しく教えてくれ」

「獣人で体も丈夫、魔力もそれなりに。しかし、頭の方はちょっと……」

「分かった。話を付けてくるよ」



 ここは、冒険者の集まるギルド。また今日も、ガタイのいいガチムチたちが背に大剣を担いでホモホモしい酒宴を繰り広げていた。


「……で、何故勇者さんとやらがあちしに用だと?」

「魔法使いを探していた」

「あ、あちしはまだまだ未熟者だし……魔王は倒せないっていうか……」

「そんないじらしい所もかわいいね」

「なに初っ端から口説きにきてんだにゃ! きもいにゃ」

「あはは、酷いなあ。でも珍しいよね、獣人で魔法使いって」

「うるさいにゃ! とにかくあちしは魔王を倒すなんて無理無理。他にあたるんだにゃ!」


 勇者はにこにことした笑みを張り付け、獣人の少女に迫る。少女はというと、その体を抱きしめながら、顔を青く染め上げていた。


「なぜキミがそこまで僕を怖がるのか……その理由は検討もつかないけど、僕は一つだけ思う。

 ――その「にゃ」っていう語尾、とってもかわいいよ」

「はあ……。気持ち悪いにゃ。つーか、好きで言ってる訳じゃないにゃ」

「なるほど。そうだキミ、僕には今山ほどのお金があるんだけど……どうかな?」

「一生付いていくにゃ!」


 まくし立てるように叫んだ少女の顔は、これまでにないほど輝いていたという。



「しめしめ……ハーレム要因確保だな」


 父さんの言葉に従い、美少女で強い仲間を集めに旅に出た。

 勇者試験を通り抜けるには、数人のパーティが必要である。言わずと知れた掟だ。


(しかし……何故父さんは、あんなに沢山の『母さん』を持っているんだろう? それを聞いても、『転生してイケメンになったのならば、ハーレムを作るのは宿命だろう?』とか、ドヤ顔で言うしさあ……よくわからないよ、我が父ながら)


 そもそも、ハーレムという言葉さえよく分かっていない僕だ。ハーレムとはつまり、女の子たちの好意を一人の男児の元に集めることらしいが……そんな不埒なものがあっていいのか?

 いいや。数々の危機を乗り越え、人間界中にその勇姿を広めた父さんだ。不埒なもの、という認識がおかしかったのだろう。そう結論づけ、宿へと足を進めた。


 獣人の少女――アレクは、なんでも実家が貧乏なのだそう。相当の我慢を強いられていたのは、その今にも泣きそうな顔が物語っていた。


 ひとまず今日は宿に止まって、明日から仲間探しの旅に出発しよう、と、余るほどの資金をほんのちょっと宿代に使った。……なんで父さんはこんなに金持ちなんだろう? 貴族じゃないのに。


 僕が路地裏で気持ちを落ち着かせている間、アレクには宿で待ってもらうことにした。最近、魔物の襲撃が増えている。怪我でもされたらひとたまりもない。


 なぜ路地裏だって? 単純に、好きだからだ。誰もいない、何もない、見つからない。常に英雄の息子という色眼鏡をかけて見られてきた僕だからこそ、たまにはゆっくりとしたいものなのだ。


「アレク、戻ったよー」

「な、なんだにゃ。この外道め、このあちしを惚れさせて犯そうという魂胆なのね! 鍵までかけて、これだから男は信用ならないにゃ!」

「こっちこそなんだだよ。ていうか、鍵は机の上に置いてあるよ。そもそも、鍵なんて掛けてないし、内部から開けられるんだけどね。窓も開くし」

「はぁ!? 嘘つけ、あちしは簡単に引っかからないにゃ! って、……あ」


 アレクは目をぱちくりさせ、急に恐ろしい腕力で僕に飛びかかってきた。

 両手で押し合いへし合い。アレクの口から、ギチギチと歯ぎしり音がこぼれた。


「く、こんのっ。オマエの目的はにゃんだ!? あちしに恥をかかせることか? それとも……体?」

「な、なにを勘違いしているのか知らないけど、僕は紳士で勇者だ。それに……お金の件も」

「お、お金っ!?」


 「お金」と口にした瞬間、アレクの馬鹿力が一瞬だけ緩む。僕をそこを付け込み、一気に押し返した。

 その衝撃のせいか、今、僕の体勢はアレクを押し倒すかたちになっている。

 ……これはちょっとまずいんじゃないか。うん、まずい。


「や、やっぱり体目当てなのね! くっ、騙されたにゃ。さっさと退散すべきだったかにゃ」

「あ、暴れるなって! コラ、そこを蹴るな!」


 僕の拘束から逃れようと手足をじたばたさせるアレクは、急所やらナニやらを蹴ってくる。

 ……あ、やばい。倒れる。


「な、な、なななにゃにをっ!?」

「アレク、キミのせいだよ!」


 更に暴れだすアレクと、痛みに悶絶して倒れこむ僕。

 その状態に気付いたのは、手の中にあるむにゅんとした感覚からだった。


「こ、これがラッキースケベ……父さんが言っていたよ」

「バカなこと言うにゃ――ッ! 死ね、死ね、このヤロ――!」

「いでっ、いててっ! だから蹴るなって!」


 アレクは胸を揉まれたまま、僕のエクスカリバーに一発入れた。

 僕の意識はそこで途切れた。



「はー、世知辛い世の中にゃ」


 グラスのビールを一気に飲み干し、すぐに咳き込む。お酒は嫌いだが、雰囲気は出したい。俺の精一杯の背伸びだった。


「つぅーか普通、喋る度に「にゃ」と「あちし」がつく呪いが生来のモノだと知って、普通はどうするにゃ!? どう考えてもおかしいだろー! 神様のばかやろーにゃ! ばーかばーか!」

「お前さんの馬鹿には負けるがな」

「ししし、知らにゃいし。しかもあちし、馬鹿じゃないし! 馬鹿って言ったほうが馬鹿にゃ!」

「じゃあ俺もお前さんも馬鹿だな」

「ムキーッ!」


 腹が立つ。

 こいつと話すと腹が立つ。まるで子供扱いされているようで、更に腹が立つ。イライラする。

 これでも前世の記憶持ちなんだよ。お前よりかは精神年齢上なんだぞ。ちょっとは敬え。

 こんな時こそビールを飲むのがいい。ウェイターの女の子に追加注文を頼む。しかし遅い。すぐ来ない。


「おしゃけー! おしゃけ早く!」

「うっせーよ、今は混んでるんだ。いいから黙って待っとけ」

「子供扱いするにゃ」

「子供だからな、そりゃあするさ」

「むむむむむ……!」


 酒はまだ届かない。が、『こいつ』は俺のグラスにチョボチョボと水を注ぎ、俺に手渡した。


「ちょっと頭冷やしてこい。相当酔ってるぞ?」

「そんなこと知ってるにゃ」


 水の力で、俺は少し冷静になる。

 胃の妙な気持ち悪さを覚え、席をたった。


「おうおう、思う存分吐いてけよ。お前さんの酒癖が悪いのは、いつものことだからな」

「失礼な。あちしはアンタよりは酒に強いにゃ」


 捨て台詞を残すと、とことこと出口に向かう。15年間この世界で生きてきて、運命を共にした尻尾と猫耳。邪魔だったのは最初だけ、3才で慣れて、今では愛おしいまである。

 親元を離れて、どこか寂しかった。でも、今はいろんな人がいてくれて、その日常が幸せだった。

 

「しっかし……う゛~、気持ち悪いにゃあ」


 早く吐き出したい。もう喉まで出かかっているのが分かる。ちょっとヤバイかも。


「あの」


 しかし、その願いは叶わず。ドン、とぶつかったイケメンに声を掛けられた。

 ……もしかして、ナンパ?


「僕は勇者なんだけど……一緒に付いてきてくれないか? 魔王を倒す仲間として」

「は?」



 聞くと、彼はなんでも勇者試験での優勝を目指しているらしい。

 騙しの手口に使えそうで、いかにも怪しい男である。


「あ、あちしはまだまだ未熟者だし……魔王は倒せないっていうか……」

「そんないじらしい所もかわいいね」


 !?

 こいつまさか……あちしが油断した所で隙を突いて、奴隷として売りさばこうとか思ってたりしてるのか!?

 それはまずい。非常にまずい。ということなので、騙された振りをしておこう、うん。


「そうだキミ、僕には今山ほどのお金があるんだけど……どうかな?」


 か……かかか金だとぉッ!

 乗るしか無いな。お金ほど価値が有るものはない。つまり、こいつは信じられる!


「一生付いていくにゃ!」


 思えば、この時俺は調子に乗っていたのかもしれない。

 え、元々?



「宿に待っとけって言われても……暇にゃ暇にゃ暇ー! つまんないにゃ」


 自称、未来の勇者……フォールから待つように言われて、高そうな宿に待機中。

 はっきり言って、暇です。


「……うぅ~、なんか急に気分悪くなってきたにゃぁ」


 うぐぐ、これが吐き気というやつか。まさか、さっき吐かなかったことの代償!? 

 ちょっと宿を出るぐらい、別にいいよね。

 この異世界にはトイレがない。だからといって路地裏にべちょんべちょんに捨ててあるということでもなし、しかしトイレはない。

 ちなみに俺は、猫らしく普通に草むらとかにする。う●こする時とかは、尻尾が汚れないように手で上に上げてる。え? 尻尾が性感帯? ないない。触られるの嫌いだし。


「ステルスモード発動! にゃ」


 吐いてる現場を誰かに見られたら嫌だろう。これは実体験から言えることだ。

 ……そうだよ、見られたんだよ。

 窓を開けて、ひょいっと飛び立った。


「到着っと。って、あれは自称勇者サマ?」


 薄暗い路地裏に、誰かが体育座りで座っていた。

 顔をよく見ると、ありゃ自称勇者じゃないか。ナニやってるんだ、こんなとこで?


「しめしめ……ハーレム要因確保だな」


 勇者はいかにもあくどい顔で呟く。何かを企んでいそうな彼の顔は、暗がりからもニヤニヤしているように見えた。

 は、ハーレム? そんな言葉はこの世界にはなかったはず……。

 つまりこいつも転生者、ハーレム作れりと奮闘しているチート勇者だったのだ!


「許せぬ……許せぬぞ、このアレク! あちしをモノ扱いする勇者など……許さぬ! …………ヴぇぇ」


 ゴウゴウと燃えていた俺に、急な吐き気が襲ってきた。

 やべぇ。これは早く戻してしまわないと、死ぬ。

 あ、勇者がこっちに来てる! くんな、早く逃げないと!

 きっとバレたら、そのチートな戦闘力で俺をボコボコにして強引に惚れさせるんだ、きっとそうに違いない。


「こういう時は、獣人の身体能力にっ、感謝せざるをえない――にゃ!」


 家々を飛び越えて、宿の方向へと翔ける。体が軽い、もう何も恐くない!


「ふいー、付いたのさ。さっすが獣人にゃ。本当惚れ惚れしちゃうにゃよ」


 あっという間に部屋の中。一応言っておくが、俺は魔法使いでもあるのだ。宿の付近まで来たら、一気に転移魔法でピョン! だ。楽勝。


「あっ、でも……考えてみたら、結局アイツから逃げないと、ニコポやらナデポとかで強制的に惚れさせられるにゃ。つまり……選択肢は、この部屋から脱出するしかないんだと」


 脱出方法、その一。魔法で転移。


「転移!」


 できない。


「転移!!!」


 できない。


「転移!!!!!」


 で き な い。

 探索魔法を掛けてみる。すると、この宿全体に掛けられた術式に、「内部からの魔法使用は禁止」とか超絶邪魔なヤツがあった。つーか外からはいいのかよ。おーい宿主さん、抜け道がありますよー。


「どうしよう……。他に何か、逃げる手立てはないのかにゃ!?」


 脱出方法、その二。力技で粉砕。


「よーし……いっくにゃ!」


 ガーン! ガーン!

 蹴る、殴る、蹴る、殴る。それでも扉は傷ひとつつかない。


「ええい、次は窓にゃ!」


 ガシャ! ガシャ!

 殴る、殴る、殴る、殴る。傷は愚か、ちっとも動かないガラス。


「バカなのかにゃ!? なんでこんなに頑丈なのにゃ!」


 この宿が高級だから、で説明がつくはずがない。

 もしかして――これも勇者の策略? 俺が転生者ということを見抜き、この術式を宿全体に仕掛けた……!?


「そんなバカにゃ……ま、あちしはバカじゃないけどにゃ」


 ――とにかく。これで俺は、ここから逃げる手段を失った。他に考えつくものは……なにも、ない。

 その時、不意のノック音で、勇者のお帰りを察する。思わずぐっと身構え、警戒レベルを最大まで引き上げた。


「絶対に惚れないにゃ!」



 気がついたら、押し倒されておっぱいをもまれていた。

 なんでや。


「ひ、ひどいじゃあないか。なにもここまでする必要があったのか?」

「当然の報いにゃ! 変態は死ぬべきにゃぁ」


 俺の目の前でぐるぐる巻きされている変態こそが、自称勇者のフォールである。

 いわゆる、お仕置きというやつだ。因果応報、まさに真理。


「フン、オマエはここで一生反省してろ。あと、あちしのアレを受けろにゃ!」

「あ、アレって……?」

「もちろん、嘔吐物にゃー」

「えっ」


 この後無茶苦茶吐いた。

?「らーぶらーぶ!」

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