青天の霹靂
昭夫にとっての自分は長年共に過ごしてきても特に心のふれあいが有ったとは思えない相手だったのだろう。お互い様だろうけど、使い捨てにして構わない存在に過ぎないのではひどすぎる…存在の耐えられない軽さ、とつぶやいて薄ら笑った。
「入会金28万円~」どこにそんな余裕が。しかも~の意味が分からない。
次の瞬間、節子は今まで完全に忘れていた物を思い出した。
亡くなった姑の預金が口座名義の死亡届も出さないまま、葬祭費用を引き出したきり手付かずで置いてある。残高は元々の預金に節子達が渡していた生活費の残り年金が貯まり続けて二千万円近いはず。
相続人は一人息子の昭夫だけだから、彼が何に使おうと自由だ。しかし、その内訳には姑に毎月渡していた生活費の一部が含まれている。節子が日々の厳しい節約とパート収入から捻出してきたものだ。
節子に離婚成立まで生活費を援助すると言うのも姑の口座から出す気なのだ。
「紹介人数により月会費スライド式」
血の気が引き、冷たくなった指先で節子はカタログのページをめくり続けた。
翌朝、気が重いまま出勤すると、課長がこちらを見るなりぞんざいに手招きしていた。
面談に使う部屋に通され契約解除は呆気なかった。
「今月末で更新ですが今回更新しません。」と告げられてクビは決まった。更新するもしまいも、私を雇っているのは課長ではないだろうに。
喉元で声にならなかった。この課長が転勤して来てから虫が好かないと言うだけで上席に嫌われて働く辛さがこたえていた。
コンテストや試験、モニター調査で評価されると表彰内容と名前を支店内に回覧で回す。節子は表彰者の常連だが、この課長が来てからは節子の時だけ回覧板の表紙に回覧不要とスタンプが押されては葬られていることを知っている。クレーム処理や面倒なやり直しの時だけ押し付けられても気付かない顔で働いてきた。しかし、もう、クビで終わって良いではないかと節子は力が抜けるままに書類を受け取った。