晴天の霹靂
「お母さんはどうしたいの?」
「どうしたいって…。行くところも無いし、お母さん実は銀行もクビになりそうやねん。旦那に愛想尽かされて失業して、ほんまダメ人間やわ」
「…ダメ人間って久し振りに聞いたけど、えっ、マジで?ええやん、別に辞めても。前から辞めたい~、しんどい~って言ってたやん。心機一転、転職したら?」
絵里の若く性急なアドバイスに弱った頭はついて行けそうに無かったが
「別居したからと言っても離婚を承諾する訳じゃないし生活費も今まで通り受け取る権利がある」と重ねる絵里の言葉に動かされた。
帰宅した時に感じたこの家の冷たさが尾を引いていた。いつまでも馴染むことのないまま、住み続けるより愛着の持てる自分の部屋を持ってみたいと思い始めていた。
考えのまとまらない節子を気遣いながら絵里は自分のマンションに帰って行った。帰り際の「いつでも私の部屋に来て」という言葉が有り難かった。
その夜、昭夫は帰らなかった。
眠れないままに家の中を目に付いたところから片づけ始める。
まさか昭夫の意のままに追い出されるつもりでも無いが衝動的に自分の持ち物を身軽にしたくなった。
キャビネットの引き出しにたまり放題のダイレクトメールやメモの類を捨て始めた下から昭夫宛の中身の重い上質の大判の封筒が現れた。
中を見ると結婚相手紹介と書かれたカタログ、熟年層専門の紹介システムだった。
カタログ表紙には五十代富裕層カップルを思わせる装いの男女の熟年モデルがリゾート地を背景に笑顔で見つめ合っている写真。
「第2の人生のパートナー」
昭夫の言う自由な生活とは独身に戻り遠慮なく女性を紹介してもらい、疑似恋愛を楽しむことなのか。