おとなの宿題
「だから家に寄りつかず顔も出さへんのはお姉ちゃんのせいじゃないって言ってるねん。
私らがお姉ちゃんに冷たくするからやん。
家族として引っ越しの経過もちゃんと丁寧に伝えなあかん。
でないと私らはほんまにお姉ちゃんをこき使って追い出したままで終わってしまうよ」
母親だけを悪者にしている訳ではないと何度も(私ら)と言いながら諭すように話しても返された言葉はまたもや
「あんたにそんな目で見られてたとは思わへんかった。
傷ついたわ」と堂々巡りであった。
電車に乗っても母親は
「あんた達2人を平等に育ててきたのに今になって、私を鬼のようにせめるのか」と言い募る。
香織は母親の言い分を聞きながらこの人は本気で自分自身を信用しているのだろうかと不安になっていた。
1日たつと昨日のことなど忘れてケロッとしている人が居るが、確かに母親はそんなタイプだ。
だからと言って、来る日も来る日も姉をえげつなく怒鳴り散らして育てながら、朝が来る度にきれいさっぱり忘れていたのだろうか。
そして、かつての自分の言動など思い出す事すらないのだろうか。
家に辿り着く頃には母親は涙目で
「もう、さっきのマンションには引っ越しなどする気はない」とヒステリックな裏声になっていた。
建て付けの悪く狭い玄関を激しい音をたて、上がるやいなや、テレビを見ている父親に向かって、
「もう、やめる。うちは行かへんで」
と切り口上に投げつけるように
言う。




