おとなの宿題
思わず「又、そんな言い方をする」と心底嫌気がさした口調を母親にぶつけた。
母親は、わざとらしく立ち止まり驚いた顔になる。
「私が?どんな言い方したん?又ってどういう意味?」
瞬時に怒りに燃え始めた姿に香織は途端に相手をするのが面倒になる。
「いい加減、お姉ちゃんの悪口言うの止めたら?自分の娘やろ。ずっと私ら3人でお姉ちゃんをこき使って文句言って、とうとう追い出してしまったのは私らやん」
母親の驚いた顔からわざとらしさが消え本気で血の気が引いていく様子が分かる。
今、驚いているのは母親だけではない、言っている香織自身が初めて生まれた感情、姉に対する申し訳なさと後悔、母親から姉を庇おうとすることに戸惑っていた。
自分には誰かを庇ったり、守ろうとしたこと自体、余り記憶にないのだ。
それがよりによって、身近に居ながらにして無関心で、この十数年はまるで無関係のように想い出すこともなく生きてきた姉を守ろうとしている。
「香織ちゃんには裏切られたわ。私がお姉ちゃんを差別して苛めたみたいに思ってたんか。2人しかいてへん娘が同じように可愛いに決まってるやろ」
それは違う、と香織は思う。
母親は決して同じように自分たち姉妹を見てはいない。
姉に接する母親は声からして怖かった。
金のないストレス、時間に追われるストレス、終わらない家事へのストレス、全てを罪のない姉にぶつけたではないか。
自分を猫可愛がりしたのは反動だろう。ペットを可愛がるような癒やしを自分に求めたのだと今なら分かる。




