おとなの宿題
そうして居たかと思えば
「何でこの部屋を売りに出されてるんですかね?」
突然口を開いてオーナー夫人に問いかける。
「何か手放す理由があるんですかね」
母親の口調は物件に重大な瑕疵が有るのではないか、いわくつきの部屋ではないかと疑っていた。
香織はかっとなって間髪入れずに母親を制した。
「だから、それは昨日言ったやん。ここの人は余裕が有るねん。誰も住まず遊ばせていた家をただ、売るだけの話。失礼な聞き方せんといて」
その後の
(私らみたいに一つの家にしがみついて生きている人種とは違うねん)
と言う言葉はさすがに飲み込んだ。
しかしオーナー夫人は気を悪くするでもなく
「余裕が有るかは分かりませんが娘さんの言う通りです。ここを気に入って買いましたが家は別に有るので結局誰も住まず、売りに出すことにしたまでのことです。借金に追われているとか、誰かが不審な死に方をしたんだとか、そう言ったことは一つも有りません。縁起の悪い家でないことは確かですよ」
笑顔を崩さずに母親の問いに答える姿には富裕層の貫禄が漂っている。
美枝子が意味の無い愛想笑いをして、その場は和やかな雰囲気に戻った。
母親が一通り部屋と水回りをぐるりと見た後、気に入った素振りを見せたので、マンションを出てすぐに美枝子に話を進めてくれるように頼んだ。
母親と二人の帰り道、一仕事終えたようにホッと肩の力が抜けるように並んで歩いていると、何となく気になっていた事を母親の方から口にした。




