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寂しい理由  作者: ケイコ クロスロード
75/80

おとなの宿題

イラつき、面倒臭そうに足早になる香織を美枝子が制するように

「お母さん、不動産のこと、よく勉強されて、頭が下がりますわ」

と愛想よく母親に気を使ってくれる。

「お母さん、ここですよ。高さが15階有りましてね」

ガラス張りのエントランスを通り広々と明るいロビーに入ると母親の顔つきが一気に緊張したように見える。

香織も美枝子を見習い、母親の肩に手をのせて

「上手く行けばここが我が家になるねんよ」

なるべく優しい声音で話しかけてみるが母親の表情は固く、返事はなかった。

「エレベーターも広くて明るくてボタンも大きくて扱いやすいやろ。膝が痛い日に階段昇り降りしなくてよくなるで」

気持ちを引き立てようと香織は話し続けた。

目的の部屋の前に着き、

「これ見て、この玄関ポーチ、角部屋だけの広いポーチやで」

言いながら、又あの部屋が見られる、と再び香織の気持ちは母親そっちのけで浮かれ始める。

インターフォンを押すとオーナーの奥さんの

「はあ〜い」と言う謳うように明るい声がして、盛大にドアが開け放たれた。

「いらっしゃい、どうぞ」

(この人、こんな笑顔やったなあ)と香織は見惚れながら

「何度もお邪魔してすみません」と偶然、美枝子と同時に言いながら頭を下げた。

「いえ、いえ、何を仰いますやら。ご遠慮なさらずにね」

母親は無言で美枝子と香織の後ろから部屋に入り、隅々を見て回り、時々、壁を叩いたりクローゼットの中を覗いたりしている。それはどうにも感じが良いとは言えない仕草だった。







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