大人の宿題
「物件、一回、下見にいかへん?物件。どう?」
畳み掛けるように問うと、
「私らも一緒に連れて行ってくれると言うこと?」
母親が聞きにくそうに口を開く。
「香織ちゃんの引っ越しに付いていっても良いって言う意味?」
母親は一瞬、マンションに住めると期待したが、或いは自分の勘違いで香織1人で自分用に1人住まいのマンションを買って親許を出るのかと判断しかねたようだった。
その、取り残されるというショックと不安な眼差しに胸を衝かれた。
50才にもなる年齢で今更、親を傾いた家に取り残して独り立ちも無いだろう。
「もちろん、三人で一緒にマンションに行こうよ」
機嫌をとるように、励ますように明るく言ってみる。
「きっと気に入るよ」
間取り図を2人の前に置いて見せる。
父が終始、無言で渋面なのは、娘の家に世話になる事への抵抗感なのか、いつまでも子供じみている娘の決断を危うんでいるのか。
結局、母親だけが、香織と共にもう一度先方に連絡を取り、下見させてもらうことになった。
当日の朝から母親の機嫌はまるで遠足に行く子供の用にはしゃいだものだった。
浮き足立っていることを見せまいと顔を引き締めているらしいが、知らず知らず声は人が振り返るほど大きく、聞きかじった不動産情報を香織に教えようとしてくる。
久し振りに母親の鬱陶しい部分を見て香織はどんどん苛ついた。




