おとなの宿題
このマンションを所有したのは二年前。別に住まいが有るのでリフォームしたきり、ほとんど生活していない。
と、オーナー夫人は、香織にまだ新品同様のキッチンや浴室を見せて、全然使ってないし、そのまま使えますからね、と笑いかけた。
「投機用に買われたんですか?…」
美枝子の問いに「結果的にはそうなりましたね」とポットのコーヒーを三人分注ぎ分けながら続けた。
「このマンションは結構気に入って、将来、自分達が住んでもいいし、息子夫婦が住んでもいいなと思って買ったんですよ。でも遊ばせてる内に案外値上がりしたので売ることにしたんです。これまでに、そんな風にして気に入って買って何年かたって値上がりして、ろくに住まないで売却したマンションはここでまだ、3件目ですよ。だから偶然みたいなものでそんなに投機というほど熱心じゃないですよ」
そこで、それまで美枝子に向けていた顔を香織に向けて、
「あなたがお買いになるの?勿論まだ決めてないでしょうけど」と尋ねた。
香織が頷くと、「ここなら築年数が古いけど、売りたくなった時にはすぐに売れますよ。立地も建物も良いから」とまた安心感を与える笑顔で言った。
…買う前から売る話をするとは…香織は心の中で苦笑しながら、折角買った家に住まず、息子夫婦も飛びついたりしないとは、この奥さんとご家族のところにはお金が余ってるんやなあ、と感嘆した。
そして、ここの人達は、そのお金の流れ方が分かっているのだ。出すべき時に出せば又、流れ込んで来る。
ただ一つの家をボロボロに朽ちるまで必死に守って住んできた自分達とは違う。
真似しようとして出来ることではないが。




