おとなの宿題
香織より一回り年上で、香織が入社したときにはまだ40才を過ぎたばかりだったが、実際はもっと老けて見えた。
しかし、この20年間、彼女は年を取らず印象は変わらないままで、最近では見かけ年齢を実年齢が追い越したように見える。
「美枝子さん」入社したときにこう呼ぶように言われ、ずっと名前で呼んでいる。
「この物件なんですけど」
美枝子は香織の持っている間取り図に気付くと首から下げている老眼鏡を掛けて手を差し出した。
チラッと一目見て
「ああ、これ。なかなかいいでしょう。築年数は古いけどね、立地も間取りも使いやすいし、お値段も妥当でね。行ってみたら、なかなか上品なマンションやったわよ」
と珍しく一回で返事を返してきた。
余っ程、印象に残った物件だったのか、いつもなら、なかなか適当な返事一つ返さない人なのだ。
「私に売ってもらえませんか」
香織の申し出が突然すぎたのか、美枝子は中途半端な間を空けた後、
「買ってどうすんの」
と普通に聞いてきた。
見慣れた筈の美枝子の間の抜けた表情に今日はイラついた。
60過ぎて何も考えずに思ったことだけゆっくりゆっくり喋っている。
「だから!…買って引っ越して住むんです」
美枝子の鈍い返答にイラついた時は「だから」を頭に付けて察しの悪さを知らせるようにしている。
「えっ、ああ、ちょっとびっくりしたから。話が急やったからね。浦川さん、以前から考えてたん?マンション買うとか」
さっき思いついたとはさすがに言えず
「あっ、まあ、そんな感じです。今住んでる家も古いし」




