晴天の霹靂
「ごめんねぇ。急に帰って来て。研修で天満まできて、そのまま、ちょっと寄ってみてん。何か食べさせてくれる?」
絵里の瞳はにっこり笑うと三日月のように細くなる。
その笑顔を見たら、ぐっと泣けて来そうになる。
このタイミングで夫婦の危機を聞かせて許されるだろうか。
食欲が失せると分かっている話をするより先に夕食を二人で先に食べることにした。
家事の中で一番料理が好きな節子は楽しんで献立を考える。料理をストレス解消にしているおかげで食卓には安価な材料ながら、自身を含めて毎日、食卓に座る人を歓迎するかの心尽くしの品々が並べられている。今夜はヒレカツで揚げる前に生姜と酒と醤油に漬けて下味をつけた肉に青ジソを巻いて衣をまぶした和風カツだ。
パン粉のキツネ色に色づく香ばしい匂いに包まれて付け合わせや汁物を無心に作っている時だけは昨夜からの息苦しさも紛れるようだった。
絵里の会社の女性管理職の噂話などを取りとめなく聞きながら食事が終わるのを見計らい、節子は昨夜の事件を話し始めた。
絵里は途中まで黙って聞いていたが、
「だからお父さん家に居てないの?おばあちゃんの家に行ったんかな。気に入らん事があるとすぐにあそこに行くやんか」
と、怒り顔で言った。
姑の住まいは近所に別にあり、独居だった彼女が半年前に亡くなってからは掃除に通うだけの空き家になっている。
昭夫の実家で最初に米穀店が営まれていた場所だ。
今の店舗兼住宅を建てた時に義父母は実家に残ったのだった。
義父が亡くなってからは昭夫が頻繁に独居の母の元に通っていた。
昭夫が何くれと母の面倒を見ていたお陰で節子はあまり顔を出すこともなかった。
姑が亡くなってからも昭夫はちょくちょく実家に泊まっていたが、これからは節子を避けて実家から店に通うつもりなのだろうか。