おとなの宿題
姉がさっさと結婚を決めて出ていった時には羨ましいとも何とも思わなかった。
ろくに男と付き合った経験もない姉が叔父に紹介された男とあっと言う間に結婚を決心した姿は自分の将来に何も期待していないように見えた。
結婚を焦るほどの年齢でもないのに、みすみす苦労が見えている自営業の長男、しかも容姿まで貧相な男に早業で嫁いでいった。
家族としての連絡も付き合いも途絶えて久しいが家業の米穀店の切り盛りに加えてパート勤めで家計を支えていると苦労話だけが耳に入る。
姉がそんな釣り合わない不利とも言える結婚に甘んじたのも両親が自己評価の低い人間に育てたせいじゃないかと思う。
多分姉は女性としての自分の魅力を見限っていたのだ。
そして自分も又、姉とは対称的に両親から自己評価の高すぎる人間に育てられたせいで、誰とも結婚出来なかったのではないか。
根拠の無い自信に溺れていて世間が自分に下す評価が何も見えていなかったのだ。
デパート勤務を辞めると毎日友人が飲み相手をしてくれる訳でもなく求職活動以外、家に居る生活が更に気を滅入らせた。
正社員の働き口は少なく、デパートの待遇より大幅に下回るものばかりであった。
貯金が少しでも目減りし始めると猛烈に焦り、取り敢えずで短期のバイトで小金を稼いだ。
劣悪な条件の会社で正社員になって時間を無駄にしたくなかった。妥当な転職先を見つけられぬまま、小さな不動産会社の契約社員に目を付けた。
安い時給で働くのには抵抗が有ったが次の就職までの繋ぎのつもりでマイペースで働くには
十分な待遇だった。
それが、仕事に慣れるにつれ、存外、心地良くいつの間にか転職の目的など忘れたように、居ついてしまい、20年に渡って働くとは誰が考えただろうか。




