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寂しい理由  作者: ケイコ クロスロード
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晴天の霹靂

こんな言い分がまかり通ると思っている昭夫という男は高校を卒業し、他人に使われる経験を一度もする事無く、すぐに父親の米屋を継いで来たせいで、世間のバランスと感覚がずれている。

大体、簡単に生活費は出すと言うが年々先細りになる商売でどこにそんな余裕があると言うのか。

追い出すだけ追い出してあとは知らぬ振りをする可能性大有りだ。

こんな、のんびり散策なんてしている場合じゃない。さっさと帰って昭夫に逆襲しなければ。

勢いよく踵を返したのは一瞬で、帰り着いた駅から家までの慣れた道のりがよそよそしく思われ、心細く足取りは重くなる。

さっきまでの闘争心はどこかへ消え去ってしまった。嫁いで間もない時の落ち着かない感じがそのまま戻ったように見知らぬ土地に感じた。

町だけでなく「竹下米穀店」の看板の前に立っても他人の家に見える。

中に昭夫が座っていると思うと入るのも躊躇われたが、そんな自分の弱気に腹を立てながら店のガラス扉を開ける。

正面のレジカウンターの椅子を定位置にしている昭夫の姿はなかった。

店を開けたままどこ行ったんやろう。

替わりに節子はそこに座り、重い調子で勤務先

に電話をかけ始めた。

携帯に銀行の着信記録が一件。無断欠勤した今朝から連絡もしていない。呼び出し音を聞きながら「クビやな」とつぶやく。

「竹下です」と名乗るなり女子行員から課長の声に変わった。

「無責任でしょう。携帯にも出ないし家に電話したらご主人がいつも通りに出勤したと言うし、どういうつもり?」といつもの標準語でわざとらしく溜め息をつき「明日、事情聞きますから」と忙しさをアピールしながら一方的に切られる。

たまたま転勤してきた上役に嫌われ風向きの悪いときに大胆な無断欠勤してしまった。

パートの存在といえど、行員と変わらぬ仕事を十数年続けたプライドもある。

節子の迅速で正確な事務処理は支店間で評価を競う点数制度にも自店の上位入賞に大きく貢献してきた。定期的に行われるテストも、覆面モニターによる電話応答チェックも毎回満点に近い評価で自店の順位を上げてきた。

しかし、今月であっさり雇用契約の更新は打ち切られるだろう。

離婚を迫られ、その上失業する。

太平洋ひとりぼっち、の心境だ…古い。

夕食の支度を終えても昭夫は帰らない。

替わりに娘の絵里が十日ぶりに顔を見せた。

「お母さん、居るぅ?」

誰に似たのか手足は長く、ほっそりした首には艶やかな黒髪に縁取られた白い小さな顔がちょこんとのっている。

顔立ちも今、人気の朝ドラの新人女優に似てると何度も言われるようだから幸せなことだ。


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