乾いた水
京都で短い遠足を楽しんだ一月後、九時に関西空港を発ち、仁川空港からソウル市内に到着したのはまだ午前中だった。
陽介の誘いでわずか一泊の韓国旅行を決めたのだ。
早朝に関西空港を発ち、夕方にソウルを出るなら一泊でも結構遊べるよ、と説得され、付いてきたのだ。
最初に連れて行かれた劇場で、人気の高い調理器具を使った激しいリズムのパフォーマンスショーに浮き立ち、夢中になると、置いてきた家庭の不安は遠退いた。
日暮れから漢江のクルーズに乗り込んで川からソウルの夜景をキョロキョロ見る。
目の前に橋の欄干から七色の巨大な噴水が滝のように落ちている。陽介が中に入ろう、と促しても、みちるは噴水に近づいていく船に興奮してデッキに留まった。
まさかそのまま噴水で自分がずぶ濡れにされるとは知らずに。
慌てて水しぶきを上げながら船内に逃げ戻ったみちるを見て陽介は笑いながら自分の上着をかけてくれた。
陽介の胸に体を預け涙が出てくる。どうしたの?と髪を撫でる陽介に、楽しくて幸せで涙が出てくると言えなかった。
生演奏のジャズバーに寄り、ソウルを一望する高台のホテルに泊まった。
腕枕をしながら「おっちょこちょいで泣き虫なみちる、このまま、あなたを独り占めしたい」と言ったのはデッキでずぶ濡れになって泣いた時のことだろう。今みちるは陽介の言葉を全て額面通りに信じ、愛されていると実感している。
翌日は王族の居宅を改装したレストランで王宮料理のコースを食べ辛くない味付けに驚き、伝統家屋の並ぶ街並みを散策し帰路についた。
夕食ギリギリに帰宅しあらかじめ冷凍しておいた料理に手を加えて手早く食卓を整える。
実家の母と四国へ墓参りに一泊したことになっているのだ。




