乾いた水
待ち合わせ場所の大阪駅時空の広場はホームを見下ろす場所に有る。
エスカレーターで広場に上がると、みちるを見つけて陽介が歩み寄って来た。ああ、格好いい人だ、と会う度に思い、彼を包む空気が輝いて見える。
何度も交わしたメールのせいで憧れは抑えがたい激情となっていた。
陽介から京都伏見の酒造に誘われていたので、和装を選んだ。
服をあれこれ買い始めた頃から装うことの楽しさが昂じて和服にも手を出し着付けまで習っていた。
淡い桃色の紬の着物に茶色の帯は、くっきりとした個性的な柄の刺繍。知る人には一目で分かる織元、捨松の帯を締めてきた。帯締めや帯揚げといった小物の選択にも抜かりは無い。草履の鼻緒も帯に合わせて誂えたものだ。髪は自分で簡単にアップにして螺鈿細工のかんざしでクルリと留めた。嫌みのない、まとめ髪は美容室で仕上げたような完璧さはなく自然でさり気ない。
一流品だけれども普段着に格付けされるコーディネートは着慣れた者だけの着こなしだ。
陽介の目が驚きと喜びを放っている。「綺麗だよ。着物で着てくれるとは思いもかけなかったよ。自分で着たの?後ろも見せて」みちるの姿を笑顔で確認する陽介を他の人々がチラッと気にしている。
「人目の有るところで私と待ち合わせたり出歩いたりして大丈夫なんですか?」
電車に乗り込んでから陽介に遠慮がちに聞くと「全く。僕は色んな出版社に小説を書いているから、週刊誌は僕を書き立てたりしないよ」と無邪気にみちるの肩を抱いてみせた。




