乾いた水
夫、浩二は暴力はおろか声を荒げることも無いおとなしい夫だったが、自分からみちるに話しかけることは滅多になく、疲れた嫌な顔しか見たことがない。
彼なりに楽しみも有るのだろうがそれをみちるに見せることは無かった。
力仕事や何か手助けを頼むなど出来ない難しい男である。
うっかり頼み事…重い家具の組み立てや、高熱が出たときに手伝いを頼んでしまい、その後の強烈な不機嫌に遭遇し、懲りて何も期待出来なくなった。
若い主婦の頃は、仕事のストレスに潰れそうな浩二を支えようと懸命で、子どもたち二の次で泣く子を後回しにして浩二優先で生活を回した。
しかし、返ってくる浩二の態度からは妻子の存在を負担に思っているのが見て取れた。
コミュニケーションを取るタイミングを計り、浩二の顔色を見ることが習い性となっていた。
離婚して自立の道を探り、けじめをつけようとしなかったのはそれでも未練がましく浩二を愛した情けない自分のせいだと腹をたてていた。
陽介の宿泊しているホテルの部屋に招かれたのは三度目の約束の日だった。
陽介は「何故か昔からあなたを知っているような気がするよ。
僕は若いときのあなたから今のあなたまで全て知っているようだ」とみちるを抱きしめて囁いた。
「読書家で1人で見る映画が好きで、桜の花と紅葉を追いかけるのが楽しみで、旅行が好きで。そうやってささやかな日々を大切に生きてきたでしょ、あなたは。慎ましく辛抱強く自分を楽しませることを忘れずに生きている、そんな女性が僕と共に人生を歩み、支えてくれたらと、想像することがよくあったんだ。あなたはその僕の想像にぴったりの女性だったんだ」
と陽介は自然な態度でみちるを求めた。
陽介に脱がされた服を再び身につけているとき「会う度にあなたが何を着てくるのか楽しみにしてるんだよ」と目を細めて全身を眺めた。




