乾いた水
陽介に照らされる自分が輝いて見え、初めて自分を誇らしく思え、陽介の前で自由に振る舞う自分を好きだと思えた。
陽介は会う度、みちるの装いを嬉しそうに眺めてはセンスを賞賛してくれる。
着る物が好きで自分を表現する唯一の方法がファッションだったが陽介を喜ばせる目的に変わりつつ有った。
2人でいる間中、会話は常に途切れない。
みちるは陽介が投げかけるどんな話題にもついていけた。
これまでのジャンルを問わない膨大な読書量と見てきた映画から得た知識に過ぎないが、自分なりの感想や好み、予見まで打って響くように会話は弾んだ。
陽介は時にみちるの意見を求め、分析を聞きたがった。
いくら話しても飽きない、いつまでも話していたいと言ってくれた。
そして、これまで関西に馴染みの薄かった陽介の笑いの沸点は極端に低く、みちるの何でもない表現や言い回しに簡単に笑い転げる。
歴史上の大変な事件も国家の問題もあなたにかかるとまるで身近な話になってしまう、呆れた人だ。と、いつまでも笑い続けた。
雲の上の人だと信じていた人が自分の言葉に笑ってくれる姿は心が満たされ熱くなる経験だった。
ふと、陽介の妻で女優の泊美玲が映画の宣伝の為に出演したクイズ番組で相当な無知ぶりを披露していたことを思い出した。
確かに彼女との会話は物足りないのかも知れない、と察したこともある。
だが、みちるは泊美玲の長年のファンでも有る。
最近は有名大学卒の高学歴や芸術面などの他の特技で注目される女優も多いが、泊美玲は美しさと演技力以外で勝負する必要のない本物の女優であるとみちるは思っている。
類い希な美貌と演技によって顔筋の動きまで使い分け、声も別人のように変えるのは泊美玲以外に居ないからだ。
だから、陽介からベッドに誘われた時、泊美玲の顔が浮かばなかった訳はない。
50才目前という自分の肉体にも引け目が有った。
陽介を失望させて、恥をかくのも考えただけで辛かった。




