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寂しい理由  作者: ケイコ クロスロード
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乾いた水

誰かが2人が交わすメールの文面だけを見たなら深い関係の男女だと信じ込むだろう。

陽介とのメールの交換にのめり込んだみちるには、ネット上で知り合った男女が会った事もないまま結婚の約束までしてしまう心理が理解出来る気がした。

植物園の入館案内カウンターで働いた帰り、植物園を囲む自然公園で1人みちるは陽介からのメールを読む。

「並木道のベンチに掛けるあなたの愛おしい姿が目に浮かびます」

「食事を楽しんだ日の夜、雲間から覗いていた満月がもう半分に欠けていました。可愛らしいあなたの顔が早く見たい」

「1日に何度もあなたの弾む声と笑顔を思い浮かべる」

みちるは忙しいであろう筈の著名な作家が何故、自分にこんなメールを寄越すのか戸惑い畏れた。

しかし、乾燥し固まった海綿に水分が浸透するように、すぐにみちるの心は陽介から送られる言葉を吸収し、柔らかく滑らかに変わっていった。

陽介の言葉に敏感に呼応し、急速に傾斜していった。

全ての時間が陽介への夢想で占められた。

こうなってみて初めてこれまでの自分が50才目前になるまで月並みなときめきというものを知らずに生きてきたのか分かる。

大した特技も才能もなく、望まれて結婚し、長男を妊娠後は家庭に入りキャリアを積むこともしなかった。

周りには家事と育児を両立し、コツコツと仕事で昇進や役職まで手にする人もいる。

そこまで達しなくても勤続年数に見合う昇級をし、家計に貢献し、目標の定年まで働く意気込みの女性もいる。

自分は息子の成長に合わせてパートの職場を見つけて働いてきたに過ぎず、フルタイムで勤める転機も有ったには有ったが踏ん切りがつかなかった。

仕事でなくとも続けてきた趣味の分野で、永年積み上げた努力で腕を一角のものにまで成長させる女性もいる。

それに較べて読書や映画、服を買う以外にさしたる趣味もなく、ただ年を取ってきた中途半端な自分であった。

夫との関係も信頼関係を築き上げたと言えなかった。

強い自己主張もせず、控えめで慎ましく細やかに夫の身辺を整えることは愛情なくして出来ることではない。

しかしそれはとても地味な営みで夫にとっては惰性としか認識されなかった。

そんな夫の態度に失望し、夫を只の同居人と位置付け生活する人も居るが、みちるは変わらず自分の真心を一筋に捧げてきた。夫や息子から日々使い捨てられる真心であった。

誇りを持てない自分と付き合う半生が陽介の介入で突如として色彩を帯び始めた。









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