乾いた水
新聞や雑誌の書評は意味が解るので、本選びの参考にしますけど、文学賞の選評はいつまでたっても、全く分かるようになりません。
自分なりに物語に感動したり、綴られた文章そのものを美しいと感じたり、面白いとか哀しいとか憧れるとか不快だとか、感想は色々有るのに、何故、賞の選評を理解出来ないのか自分でも不思議です。
でも、だからこそ、私は良き読者なんだと思うんです。
陽介はそんなみちるの話を黙って頷いて聞いていた。
陽介と彼の泊まるホテルのカフェでお茶を飲んで別れた帰り道、みちるは躁状態から急激に落ち込むのを感じていた。
人に会った後は程度の差は有れ必ずそうなる。
人の嫌がる事をしなかったか、気分を害することを言わなかったかと不安にとらわれる。
今回は特別、起伏が激しかった。
相手は忙しい著名人なのに、つまらない話を1人でピエロのようにはしゃぎ喋り続けた。
ひとしきり、落ち込んだら徐々に浮き上がり始めるのもいつもの習慣だ。もういい、二度と関わらない人やから、気にしないでいよう、と。
そう思った矢先、陽介からのメールが入った。
自分の誘いに付き合ってくれたことへの丁寧なお礼と楽しかったという感想、そして最後に「あなたに魅了されました。別れ際、手を振ってくれた姿が目に焼き付いています」
と打たれていた。
その日から2人のメールは頻繁に交わされるようになった。
陽介の作品のジャンルは多岐に渡り、和製スティーブン・キングとも評されている。純愛小説、ミステリー、ハードボイルド、歴史小説、ホラー小説、事件を取材したノンフィクション…みちるが彼の作品で特に好むのはこの事件のノンフィクション物だ。
凶悪事件を取材しても、淡々とした文章ながら言葉は事件に関係した人々への慈愛に満ちており、いつもみちるを感動させた。
彼がみちるに寄越すメールはシンプルな文章で、時にロマンティックで優しさに溢れていた。




