乾いた水
梅田のホテルに泊まっているという陽介と空中庭園の展望台で昼食をとった。
顔を合わせてすぐに「ホテルのレストランで食事するつもりでしたが、他にあなたのお勧めはありますか?」と問われて、大阪に住んでいる自分がどこか提案した方が気が利いているような気して案内したのだ。
眺望の良い中華レストランでのランチコースを楽しんだ…食べやすく美しい料理の割に高過ぎず安過ぎず気を使わない賢い値段だと予め知って居た。
その後は地上に降りて小さな庭園や玩具の里山のようなビオトープの畑を散策した。
限られた時間を過ごすには適していると思い、ここまで歩いてきた。
梅田にこんな静かな所があるとは知らなかったと陽介は寛いだ表情を見せ、隣接するホテルを見つけ、次からここに泊まるのも良さそうだな、この畑の周りを早朝ジョギングも出来そうだし、と付け足した。
この端正な三田村邦彦似の小説家との待ち合わせ時間直前まで、みちるを悩ませた、会えばどんな話をするのが望ましいのか、どう振る舞うのが正解か、という不安。
それら実際すぐに忘れていた。
みちるは好きな読書、死ぬほど好きな映画のシーン、パートの話、自由に話題はあちこちに飛びながら喋りまくった。
お行儀よくしよう、と思ったのも束の間、陽介にとって、一般人のサンプルみたいな自分の話は多分珍しいだろう、楽しく普通に普段の自分を見せた方が喜ばれそうだと思い直したら、瞬時に打ち解けたのだった。
陽介は食事中、手を止めて、あなたは本当に沢山の本を読んでいるね、と驚嘆して真っ直ぐにみちるの目を見た。
何故かその時みちるは聞かれてもいない自分の本に抱く愛情を陽介に向かって喋らずに居られなかった。
私はどこまでも良き読者なんです。
純粋に読書を楽しみ、心の糧にしますけど、文学が何なのか今も知らず、ましてや論じたり批評したりしません。
小説を書いてみようとも思いません。
そこに描かれた文章の世界に感動と驚き、共感があるだけです。




