乾いた水
読書家のみちるにとって、陽介からの誘いは雷に撃たれたような抗い難い痺れを感じさせる衝撃だった。
約束の日がメールの翌日だった事も迷う暇がなかった。
まず何を着て行くか。
着ていく候補の服は幾らでも有った。
生活は常にひっ迫していたが、装うことが好きで、服や靴バッグには出費を惜しまなかった。
アパレル会社のファミリーセールやアウトレットを利
用し、気に入った服は時には正規の値段で思い切った買い物を自分に許した。
私大に通う娘の学費、自宅マンションのローンに汲々とし、賃貸している駐車場代の振り込み日に慌てる時も有るほどだった。
だからと言って、家事をこなし、パート収入まで生活費の補填に消えるのでは生きている気がしなかった。
ある時から、自分の少ない給料を家計に捧げるのを止めて好きな服を買うようになった。
スタイルも顔もそこまで美しいとは思わないし、誰に見せる訳でもないが、装う事で慎ましいだけの人生が明るさを帯びたと思える。
スカートはすぐに決まった。
濃紺の光沢の有る生地の膝丈のタイトで裾の部分に百合が手書き風に描かれたプリント柄。陽介にもらったカードのイラストの百合を意識したつもりだった。
薄いピンクのシルクのニットを合わせ、ハイヒールはピンクとグレーのツートーン、紺の小ぶりのハンドバッグを合わせた。
陽介が普段接している人々はもっとお金持ちでセンスがいいかも知れないし、妻は美しい女優さんだと思うと、服に迷うなど虚無と言わずして…と笑いかけたが気にせず楽しむことを選んだ。




