裏表
商売の儲けに走らない、と言う啓一郎との約束を守り、専業主婦の自己実現の趣味として収益は自然に生まれたものだけにしてきた。そのために、これまで、プライベートサロンにこだわり、客と言えばネイル教室を開講した頃からのママ友と元々の知り合いの紹介客に限って来た。
一見の客は避けて来たが父の生活を支えるため、予約は積極的に受ける方針に変えた。
ネイルアートの価格設定も大雑把なものから収益に反映するよう、細かく設定し直した。
それによって、客の方でもオーダーし易くなったのか、目に見えて工夫は報われた。
今までごく普通にサンプルから色を選ぶ程度だった人が新しいメニューを見ながら、不意に「EMILIO PUCCIみたいな柄を描いてもらえる?」と首を傾げた。メニューに書き添えた「オリジナルイラストご相談のうえ描きます」の一文が目に留まったのだ。
エミリオ・プッチの鮮やかな色使いと大胆な曲線で知られる美しいプリント柄はブランドの中でも春菜も嫌いではない。
時々この人がプッチのTシャツやスカートを上品に着こなしていることを思い出した。
指によって暖色系と寒色系のバリエーションに変えることにして、ピーコックと言う孔雀の柄を描く要領で、丹念に施していく。どうせなら、本物の柄ソックリにしようとノリノリになっていた。
エレガントな釦のような出来上がりには春菜もつい自画自賛したくなる。
指先を幾度も笑顔の前でヒラヒラさせたその人はいつもの五割増しの料金を満足気に払ってくれて、幾人かの友人にサロンを紹介してくれた。
望まぬ方向転換だったが新しい張り合いが開けたことを感じても居た。




