裏表
父を引っ越しさせる為に春菜は一時的にさつきと団結せざるを得なかった。とうの昔に離婚して父とは他人になっている母を巻き添えに出来なかったし、血のつながりのある自分までが他人の顔は出来なかった。
家財の処分や引っ越しのために春菜は初めてさつきに30万円を差し出した。
これは、この頃、自宅ネイルサロンがヨチヨチと黒字を出し始めた半年分の収益の合計であった。
少女の頃に親の離婚から姉妹別々の生活が始まり、お互いに結婚するまではずっと、さつきの方が苦労なく生きてきたと思っていた。
結婚後は春菜の夫、啓一郎が経済アナリストとして、高収入を得ていることから、春菜の生活のグレードは格段に上がった。
庭付きの一戸建てに高級車、海外旅行、経験したことの無い専業主婦の優雅な暮らしが開けていた。
反比例するように姉さつきの生活は父の資産形成の失敗に巻き込まれ、加えて祖母の介護とその死まで自宅と実家の往復に追われるものとなっていた。
さつきの夫は平均的なサラリーマンで貧乏でもなければ裕福でもなく、これといって個性のない人との個性の無い暮らし向きであった。
自宅の庭に面した明るく広い一室でネイルサロンを開く春菜の変化を知るにつれ、結局私は貧乏くじを引いたと愚痴るさつきとはコインの表と裏のように明暗が入れ替わっていた。
しかし、最初の現金をさつきに託した時から2人の苦労は決して入れ替わったりしない、裏しかない手品のコインになっていた。




