裏表
さつきから祖母の現状を聞いた春菜は、骨折のショックと生活環境の変化から来る一時的な見当識障害ですぐ元に戻ると楽観的だった。
自分の家庭を空けて祖母を見舞うさつきの話を聞いていると認知症患者だからこその感受性の鋭さがあるように感じられた。
看護師から赤ちゃん扱いされるベイビートークに祖母が明らかに気分を害しているのが分かったが祖母はそれを隠していたと言う。
自分の会話が前後不覚になることも自覚し、苦しんでいるらしい。
面会に来たさつきの子ども達が、自分に対してちょっと戸惑った表情や言い回しをすると、直感で察して傷付いたし、周囲が下手な演技で適当に話を合わせていることに感づくと黙り込んだ。
その自尊心の高さにさつきは感動することがしばしば有ったと言う。
そして何十年と忘れたことなく、祖母が胸に刻みつけた、出て行った嫁への怒りと恨み、失望を遂に忘れた様子を知った時には認知症も悪いことばかりではないと思えた。
祖母にストレートに甘えられるさつきと違い春菜にとってはどこか敷居の高い祖母であった。
離婚した母について以来、母を憎んでいる人だと思うに付け、他人に近い祖母となっていった。その憎しみを祖母自身が忘れているなら、重いこだわりがほぐれるようだった。
それに較べて父親ときたら、築き上げた資産を無くし、母の病状を嘆き、弱り目に祟り目を愚痴ることしか知らないらしい。
かつて、母と自分が逃げ出した程に家族に君臨していた姿はどこに行ったのか。
母は張り子の虎を本物と信じ怖れて鬱寸前まで追い詰められ離婚までしたのか。
祖母は車椅子のまま退院し、水回りや室内をバリアフリーにリフォームしたことで、父親の手持ちの現金は減る一方だった。
さつきから日中、父親と祖母の様子を見に週に幾度か通っている、と聞いても春菜は自分も顔を出すとは一度も言わなかった。




