裏表
一方で、父親の方は順風満帆な会社人生を送り、豪奢な披露宴でさつきを嫁がせた。定年後は悠々自適な生活が保証されているはずだった。
ところが好景気に乗って退職金と貯蓄の殆どを投資に回して居たために呆気ない景気の暴落を見て資産額は桁違いに少なく400万円の残高を残すのみの損失を被った。
勧められるままに入った生命保険も保険会社の倒産で証書は紙切れとなった。保険会社の商品と言えど内訳の大半が投資の性格を持っていた為に保証の対象からも外れ救済はされなかった。
折しも家事全般を支えてきた祖母が80才を過ぎて玄関で滑り、大腿骨を骨折、入院中に認知症の症状が出始めていた。
「おばあちゃん、変じゃない?」最初に気付いたのは病室を見舞っていたさつきだった。
さつきも既に結婚し、育ち盛りの子を持つ主婦となっていた。
病室での祖母は世間話にはそつなく興じるが、入院中という現状もその原因も理解出来て居ない様子だった。
かつては息子と孫を捨て去った嫁に負けまいと家事を切り盛りし、会社人間の息子に替わり、年頃のさつきが、高校、大学、そして社会人となり、嫁ぐまで見守った祖母であった。
力尽きたように祖母の精神世界は現在と過去をシンクロしながら衰退していった。




