反撃
驚きとやっぱりの両方の感情がぶつかりあった。
「どこが悪いの?肺?」冷ややかでも無く、かと言って心配しているでもない、普通の口調が自然に出てくる。
それに反して昭夫の「そうなんや。お前よく肺やとすぐ分かったな」と言う口調には自分の体を節子が知ってくれているという安堵が見て取れた。病身となった今、棄てようとした妻に頼れる可能性を見た気がしているのだろう。
節子にしてみれば昭夫の毎朝の汚い咳払いと痰を吐く姿から肺と言ってみたまでのことだ。
昭夫の話では、だるさと熱が下がらず診察を受けた総合病院で即検査入院の流れになったと言う。最近では検査の前にどんな病気を疑っての検査なのか入念に説明される。結果によっては癌の告知となる。電話口で昭夫は不安気に説明した。
節子はそれ以上聞く気も失せ、駆け付ける気持ちもさらさらなかった。
家を出る準備で忙しいので病院には行けないと切り捨てると昭夫は返す言葉も失ったようだった。
入院に必要な物はほとんど病院内の売店の品物で間に合うから自分で買うように言い含めて電話を切る。後ろめたさも何も無かった。
昭夫はもしかしたら癌かもしれないなと淡々と思う。
数日前の歯科医からの検査結果を伝えようとする慌てた様子の電話が不吉に思わせているのだろうか。病名がいずれにしろ、昭夫はもう自分のしがらみでは無い。




