反撃
帰宅するとレジの定位置に昭夫が座っている。
「あっ、居てた。」
嫌みのつもりもない嫌みが口から滑り出て決まり悪さに愛想笑いを浮かべる。
無表情に昭夫が奥の部屋を向いて顎でしゃくって中に入れという素振りを見せた。
2人で中に入ると、いきなりメモ用紙を節子の前に突き出した。
引っ越し及び当座の準備金として15万円。
離婚成立までの生活援助としてつき8万円。これは離婚成立の時点で停止する。
慰謝料・財産分与は相談。
適当な紙切れの上をミミズがのたくった様な手書きだ。
「これで、前向きに考えて欲しい。慰謝料と財産分与は俺の出せる金額としては合計で三百万位まで応じるつもりや。ただし、長引くと払える金額も目減りするで。」
「はあ~あ?」絵里の一人暮らしの引っ越しの時でさえ最低限の家財道具を揃えるだけでもこんな金額では済まなかった。
生活費月8万円なんて家賃にも足りない。
はした金で追い出されて私の老後の生活設計はどうしてくれる、と言いかけて節子は自分と言う人間に生活設計が有ったのか初めて疑った。
十数年勤めた銀行も所詮はパートでしかなかった。
だから簡単にクビにされたのだ。
この家に住み続け定年もなく米屋を守ると思い込んでいたが先細りする一方の商売は最初から当てにならなかったのではないか。
贅沢せず真面目にやっていれば生活していけると常識のように信じてきたことが甘かったのだろう。
夫から足元を救われるなど、思いもせず、一人で生きる術を準備して来なかった事が怠慢なのか。
馬鹿みたいに正直に働いた報酬をザルで水をくむように家計に投入してきた。せめて自分名義の預金に十数年分の給料をせっせと貯める工夫をするべきだったのだ。
そうしておけば、こんなファックス用紙にミミズ書体で書き付けられたケチな金額を穴のあくほど見つめて途方に暮れることも無かった。




