晴天の霹靂
今頃は支店中に知れ渡っているだろう。
もう、こんなパート、未練も何も無いわ。
後二年、定年まで頑張ったら花束の一つも抱いてパート仲間に送別会を開いてもらい、笑顔で去るだろうとイメージしていた。そんな当たり前の慣例すら受けられない自分にもガッカリだが、井森を羨むことはしたくないのだ。
だから、わざとサバサバした口調で話続ける。
「契約は一応今月末まで。でも、残っている有給全部取るから出勤するのは今週で終わりやわ」
「当然の権利やん」つぶやく良子の目に滲んだ涙がこの日、節子にとって唯一の慰めになった。
居心地の悪い長い一日が終わり、更衣室に上がると津村春奈からメールが来ていた。
絵里が幼稚園に通っていた頃からのママ友で今も年に数回会っている。
今朝の朝刊の星占いに「旧知の友に連絡すると吉」とあったので春奈を思い出し節子からメールしていた。
春奈の実家は母親が小さな不動産業を営んでいる。
主に賃貸の仲介で学生や単身赴任者向けの物件を得意としていた。中年過ぎた女1人が部屋を借りるのは難しいのではないかと春奈に相談したくなったのだ。返信には「今日、お茶出来る?会って直接話聞くよ」と駅前のコーヒーチェーンを指定していた。
禁煙席から手招きする春奈は会う度に印象が変わる。今日は桜の花びらを散らせた柄のショールがよく似合っている。
毛先を軽くカットし前に会った時より一段明るく染めているのも若く華やいで見える。
余裕のある生活を楽しんでいると一目でわかる春奈に自分の窮状を打ち明けるのが急に躊躇われた。
「趣味の為の独立した部屋を借りたい」とか適当な嘘をつきたくなったが、それも無意味なことに違いない。
順序立てて身に起こったことを話し始めたが十分も立たない内に何も話すことは無くなってしまった。
自分には青天の霹靂の大事件も言葉にして誰かに伝えようとすると、良くある熟年離婚やリストラの話でしかない。
「熟年離婚して単身入居する女の人、最近多いねん」と春奈は言い、慌てて「でも離婚するわけじゃなかったね」と付け加えた。
「この時期は出入りが結構あるから紹介出来そうな手頃な物件は色々あると思うよ。母に伝えておくわ。」と、その場で携帯を取り出し母親と話し始めた。




