青天の霹靂
仕事に入ると行員たちは節子を見ても透明人間を前にしたような態度で無視した。
遅刻、居眠り常習犯でも課長に気に入られているお嬢様行員とすれ違った時は一度の無断欠勤で裁かれた我が身の不運を嘆きかけて頭を振った。
やってしまったことは許されないことだ。
これも、一つの解放だと考えよう。
気持ちを切り換えて来月から早速働けるところを探そうと思える強さが自分にはある。
子供の頃から一切甘やかさず、女子でも「働かざる者、食うべからず」を叩き込んだ父に感謝すべきかも知れない。
それが単なる父のケチ根性から来た持論だったとしても。
昼休みの食堂で弁当を広げていると同じパートの岡田良子が駆け寄ってきた。
捧げ持った食堂の定食のトレイからデザートの桜餅を節子の弁当の蓋の上にポンとのせる。甘い物がついているといつも節子にくれるのだ。
「辞めるってほんまなん?」
「って言うかクビやねん」もらった餅をモグモグさせながら呑気に言う事とも思えないが「契約切られてん」と続けた。
「先にクビにした方がいい行員が何人もおるやろ。行員だけは守られてるよな。竹下さんが居なくなったら私、今以上に忙しくなるわ」
お互いに気を利かせ合って仕事を片付けて来た仲だけに良子の負担が増すのは目に見えている。
1支店あたりの従業員を減らしていく為に退職者が
出ても滅多に補充はされないからだ。
「私が辞めるって誰に聞いたん?」
「井森さんに決まってるやん。今朝聞いて信じられへんかってん。朝一番から言いふらしてたで。何かと腹立つわ、あの人。」と良子は自分で自分に頷く。
井森は同じ40代のパートだが、あからさまに課長に好かれているせいで、行員からも気を使ってもらえる。
昇給テストやモニター調査の採点があるたびに、受けた本人より結果を先に知っているのは課長が漏らしているからなのだ。
いくら井森をお気に入りでも、個々の成績まで聞かせるとは、内輪ではコンプライアンスも個人情報も何も有ったもんじゃない。
節子をクビにすると言うのも井森だけは当の節子より先に昨日の内に知っていた筈だ。




