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7.5

*引き続き際どい表現あります。

どうしよう。


―――テスト明けまで。それ以上は一秒たりとも待たない。


昨日の春樹の発言が頭から離れない。

冗談とかじゃないのだろう、あの状況では。

じゃあ、こういうことか。

私はあと二週間も経たないうちに所謂、その…してしまうという…春樹と。


「うわー、無理無理…」


そんなことを春樹としてしまうと考えただけで、果てしなくいたたまれない気持ちになるんだけど。

すごく恥ずかしいんだけど。


第一、私達まだ高校生だ。そんなことをしていいのか。

良くない。十中八九父は泣くと思う。

勝手に期限を決めたのもどうかと思う。短すぎるし。二週間なんてあっという間じゃないか。そのうちに覚悟を決めるとか。割と結構鬼畜。


そもそも決定事項みたいに押し付けられていいものなのか。

分からない、全然分からない。


どうしよう。本当にどうしよう。

二週間後いったい私はどうなっているんだろう…?



「あんたさぁ、さっきから本当なんなの。顔赤くなったり青くなったりして。かなり相当不審なんだけど」



その声にハッと我に返る。見上げると須藤がいつものように私の机の上に座っていた。

そしてちょっと真顔になった須藤に顔を覗きこまれる。


「なに何かあったの」


「別に…」


こんなこと、例え須藤にも言えるか。

こんな白昼に口にできるようなことじゃない。


「あぁ?島崎のくせに私に反抗する気なの?」


むに、と両頬が引き伸ばされた。ぐいぐいと左右に引っ張られる。


「言いなさいよ。どうせろくでもないことなんでしょ」


言いなさいも何もこれじゃあまともに喋れない。

わかった、自白するから。痛いし。

コクコクと頷けば、須藤は手を離した。


「…ほ、本当に下らないことだから」


「御託はいいから早く言いなさいよ」


なんで今日に限って須藤はそんなに気になっちゃうんだ。重い息を吐いて須藤に向き直る。


「…あ、あの、春樹に、その、えーと…………した、したいと、言われまして。あの、したいというのは、つまり…」


「あー、分かったから皆まで言わなくていい」


須藤が目を細めて口角を微妙に上げている。なんだその顔。

案の定下らない内容に呆れているのか。確実にそんな所だ。



「言ってくれただけでもいいじゃない。待ってはくれたんでしょ、その様子じゃ」


「…でもテスト明けまでだよ。あと二週間もないし」


そんなことを私に相談しないでよね、と須藤がこぼすが言えと絶対退かなかったのは彼女自身だ。


「二週間もあれば十分じゃないの、多分」


「そ、そうなの!?」


「だから私に聞かないでよ」


十分なのか、世の女子達は。まじか…。

カルチャーショックにうちひしがれていると須藤が声をあげた。


「なに処理的なこと言ってるんじゃないの?前だか後ろだかよく分からない乳でも気にしてるの」


前だか後ろだか…。ざっくりと辻斬りでもされた気分になる。


「乳が育つツボでも伝授してあげようか。二週間でどれくらい育つか分からないけど」


そ、そんなツボがあるのか…!驚愕する。

だが、今はそれは置いといて。


「い、いや須藤。そもそも私達まだ高校生だよ?そんなことしていいわけないでしょ」


「ちゃんと避妊すれば大丈夫なんじゃないの?保健の授業でもするなとは言われなかったし」


「…そうだっけ」


そう言われればそうだった気もしないではない。じゃあ、何か。別に高校生が…し、してしまうことに別に特別な規制はないということか。


「で、あとは何よ。嫌だとかではないんでしょ」


嫌だ?


どうだろう…。

ダメだ、とは思った。こんな考えなしに流されてはダメだと思った。

でも、嫌だったかと言われたら多分ちがう。

あのとき、夏休み前の事件の時に感じた他の男子に触られた時の不快感はなかった。

春樹に触られるのは、それは緊張するし恥ずかしいが決して嫌というわけじゃない。触れ合っていると安心する気持ちが湧かなくもない。


それに、あまり認めたくないことがある。


多分、恐らく、私は春樹にしたいと言われた時からちょっと浮かれている。

嫌どころか、嬉しい、のかもしれない。

どうしよう、と言いつつ多分私はなんだかんだ言って春樹にあっさり明け渡してしまう気がする。

どうして私という奴はそんな事をしてしまうのか。こんな軽い奴だったなんて自分が自分を信じられない。なんで私はもっと身持ちを固くできないのか。

そんな浅ましい自分の存在が恥ずかしい。


「…変態だ、私」


「いきなり何なのよ、あんたは」


須藤が呆れ返ったように声を上げる。


「だ、だっていやらしい……嫌じゃ、ないとか」


「急にもじもじしないでよ。気持ち悪いわねー。この歳になって純真ぶってんじゃないわよ。大体あんた意外とむっつりの気あるじゃない」


別にいいんじゃないの、と須藤が言う。



「好きなんだから、女だってしたいって思っても」



須藤の言葉はそれこそ驚愕。


好き、だと?


「えっ、それはどういう…あの、男の人として…?」


「なにすっとぼけたことを言ってんのよ。そうに決まってるじゃない。友達としか思えない奴にそういうこと出来るの?あんたは」


「む、無理…」


でしょ、と須藤。


「あんたは春樹君が好き、だからしたいと言われて嫌じゃない。そこにどんな問題があるって言うのよ」


淀みない言葉が浴びせられ、あまりの衝撃でぐぅの音も出ない。


私が、春樹を、あの新垣春樹を…好き?


そんなまさか。


だって奴には小さい頃から虐められ尽くしてきた。高校生になってもそれは基本的に変わらない。周りへの対応は丁寧な割に私への扱いはひどい。

地味だとかノロいだとか暴言は浴びせるし、止めてって言ってもほとんど聞いてくれない。力でねじふせて私の意志なんか無視してしまう。


そんな奴を、好きになるとか…私頭おかしいんじゃないのか。


でも、だ。

否定しても否定しても変だ。

じゃあ、なんで私は春樹に触れられる度バカのように緊張する?

何がそんなに恥ずかしいのか。

どうして切なそうな顔を見ると抱き締めたくなるのか。

どうして春樹とそういうことになるのが嫌ではないのか。


それは、やっぱり、そういうことなんじゃないのか。



「好き…なの、かも…」



自分の口から出た言葉はあっさり鳩尾に染みる。

そうだったのだ。

私は、あの奴が、対して優しくも包容力がある訳でもないひたすら利己的な理解しがたいあの男の子を好きになってしまった。

その気持ちは認めてみればずっと前からあるにはあったのだ。

ありえない。

その言葉の中に埋もれていただけで。


「なに今更な事いってんのよ。好きだから付き合ってるんじゃないの」


「そ、そうだよね」


私達は好きだから付き合ってる訳じゃない。そんなものをこのまま続けたくない、と思っていたけどそれは多分そういうことなんだろう。

おこがましい話、私は本物になりたかった。


「…なんかすごく負けた気がする」


しかも惨敗。そしてちょっと悔しい。

机に顔を突っ伏して、腕に額を強く押し付けた。


「なに意味不明なこと言ってんのよ」


須藤の声にふと顔をずらす。


「須藤…」


「な、何よ。これ以上あんたになにも言えることなんてないわよ」


いや、そうじゃなくて。


「……さっき言ってた乳の育つツボ教えて下さい…」


にや、と須藤の片方の口端がつり上がったのが見えた。


「まぁ、島崎がどうしても教えてほしいならいいけど。二週間で大きくなればいいわね」


「ち、違うよ!これはあ、あれだ…パッド付きの服とか胸部分がへこむから、そのためのアレだよ!春樹のためとかじゃないからっ」


「あー、はいはい。あんたのそういう所結構好きよ」


その後も須藤は終始にやにやしていて、困った。




■■■■




「俺の顔になんか付いてるか」


言われて飛び上がりそうになるほど驚く。

此方を見てないから気付いてないと思い込んでいたから。


昼休み、今日は珍しく屋上で春樹と二人きりだ。

井澤さんは部活のミーティングで、篠原は取材が入ったらしい。


正直、困る。

このタイミングでいきなりこんな風に一人で春樹に立ち向かわなきゃいけないなんて…。


「それにさっきから気になってたけど」


春樹が此方を向く。ぎら、とその視線が刺さって痛い。


「なんなんだよ、この距離はっ。なんでこんなに離れてるんだよ!」


約2メートルくらい、それくらいある距離にして。春樹が座っている所から私まで。


「…来い」


春樹に引っ張られそうになるのを踏ん張るが抵抗虚しく引きずり込まれた。


「なに、昨日の事でも警戒してるの」


両方の手を掴まれて、頭を寄せられる。額同士がくっついてる。


「それなら安心しとけば。期限内に手を出したりしない」


「うん…そのことは別に心配してない」


「なら何だよ。あ、よそ見するな」


…止めてほしい。

私全然無理だから。無理、できない。

好きだって分かって、安易に近付くことなんてできない。そのくせ春樹が気になってつい視線が行ってしまう。

それを春樹が不審がるのは当たり前だとはおもうけど。


「は…」


「は?」


言えるか、好きだなんて。


「離れてください…半径五メートル以上」


ぎゅううっと背中を強く圧迫され春樹の胸に押し付けられる。

苦しくてうまく息が吸えない。


「何を言うかと思ったら、理由も言わないで離れろとか…馬鹿にするなよ」


顔が、身体中が今最高に熱い。焼き焦げそう。こめかみからどくどくとすごい音がする。血管破裂して死ぬんじゃないか。


「馬鹿になんてしてない」


息も絶え絶えに声を上げる。もう絶対私の顔の熱さなんて春樹に伝わっているだろうけど、顔を離したりできない。真っ赤だというのは火を見るより明らかなことだから。


「じゃあ何だよ。急に俺に嫌気でもさしたか。昨日のことがそんなに嫌だったのか」


「い…嫌じゃない」


言ってしまってから、しまったと思った。

やばい。

見破られてしまう。


「なら何が理由だよ。お前はなんで俺から離れたいんだよ」


どうすればいい。

この複雑な気持ちが理解されるとは到底思えない。

私は断崖絶壁でバンジージャンプするような覚悟を決めて目を固く閉じた。


「ど…どきどきするからっ…春樹といると心臓もたないから、離れてほしい」


え、という春樹の声がした。

ゆっくりゆっくりと背中にかかった力が抜けていき、春樹の身体が私と離れる。肌に当たる風が冷たい。まだ気温が高いはずなのに寒いと思った。

顔を覗き込まれる気配がしてとっさに下を向いた。が、顎を持ち上げられて全部晒される。

隠しておきたいもの全部。


「…さっき何て言った?俺といると何だって?」


やっぱりあの発言はまずかったのか。もうどうすればいいのか私には分からない。


「ど、どきどき…する…って言いました」


途端にまた春樹の腕の中に戻された。心臓もたないから止めてほしいってちゃんと言ったのに。ひー、と声にならない悲鳴を上げて熱にうかされ生理的な涙が出る。


「…人が折角我慢してやってるのに、そんなかわいい事いうなよ。ここでやられたいのか」


「は…はは」


「何笑ってんだよ。冗談なんかじゃないからな」


くそ、と耳元で春樹が舌打ちをしたのが聞こえた。


「こんなことなら待ってなんかやるんじゃなかった。長すぎるんだよ、テストまでとか」


「…自分で言い出したくせに」


思わず言ってしまうと、へぇ、と春樹の声が低くなる。あ、口が滑った。


「言うようになったな、真琴も」


「え、あ…ごめんなさい」


刹那、首と肩の境目に熱が押し付けられた。

そして痛み。

目眩がするほど痛い。じくじくと肩口に鈍痛。

こんなこととても普通じゃない。おかしい。間違っている。

だけど、私の口からは「止めて」という言葉が出ない。


本当に自分が変態じゃないかと本気で心配になる。

そんなことされて、どこか嬉しく思っているなんて。




このような内容のことを書きましたが青少年の性行為を助長しているわけではありませんのであしからず。

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