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5.3


「朝からお熱いことねぇ」


学校着いて教室に入ってすぐ、須藤がわざわざ私の席までそんなことを言いに来た。


「え、なんのことかな」


カマをかけているだけなのかもしれないので一応とぼけておく。須藤の髪が少し短くなっていて休み中に切ったらしいと分かった。


「わざとらしい。春樹君と一緒に登校したの見たわよ、手まで繋いじゃって」


はっ、須藤は吐き捨てるように息を吐いた。

…まじか。そうだよな、かなり視線集めてたのは、うん、分かってた。怖いので敢えて見ないようにしていたけど、須藤にも見られていたのか。


「あれは、まぁ…成り行きで、ああいう感じになってしまったわけで、いつもじゃなくて、その」


「なに言い訳してるのよ」


須藤が呆れたような声色で言った。


「あんたたち付き合ってるんでしょ、なら別に普通のことじゃない」


当たり前のことをいうようにあっさりと須藤は言い放つ。その様子に少し思う所があって私も口を開く。


「…須藤って春樹の事好きじゃないの?」


彼女は石川さんや栞達と同じく春樹が好きなのだと思った。だから散々私を罵っていたのだと。こういう風に言うという事は春樹の事はもう好きではないのか、もしくは未練はないということか。


「好きに決まってるじゃない」


一瞬須藤の顔に浮かんだものを見て、自分が不味いことを聞いてしまったのだと気付く。

慌てて謝ろうとしたが、それを遮るように須藤が声を被せる。


「でもしょうがないでしょ。私がいくら好きでも、春樹君が私を好きになってくれないなら何にも意味ないじゃない」


「す、須藤…」


胸が苦しくなる。須藤に何と言って良いのか分からない。こんなことを言わせてしまった自分が嫌だ。


「なんて顔してんの、あんたのその顔ムカつくのよ」


「いひゃいよ、すろう~(痛いよ、須藤)」


いきなり頬を引っ張って横に伸ばされた。何気に痛い。


「おお、あんた意外と皮伸びるのね」


少し楽しそうに須藤が私の頬を引っ張って遊んでいる。いや、もう痛いんで勘弁してください。

そして、気が済んだのか暫くすると須藤は手を離してアーモンド型の目でこちらをじっと見つめてくる。


「島崎なんかに哀れまれたくないのよ。春樹君にとってあんたは私達と違うそれは事実なんだから堂々としてなさいよ。また調子に乗った奴等にリンチされるわよ」


おおう、過激発言。

須藤の背後で一部の生徒がビクッと震えたのが見えた。強いなぁ、須藤。


「わかった。ありがとう」


なんとなく須藤が私のためにそう言ったのだと感じたからお礼を言う。


「な、なに!?別に感謝されるようなことなんて言ってないわよ。勘違いしないでよね」


だからそれツンデレだって。


顔が緩ませつつも、頭の片隅に先ほど須藤が言った言葉がよぎる。


――――春樹君にとってあんたは私達と違う


それは本当なのだろうか。


本当だとして、じゃあ春樹にとって私は何?


どうしてあの時助けてくれたんだ?

助ければ恩を感じてまた利用できそうだったから?

それとも昔馴染みだったから?


春樹に聞けばいいのか、でも答えを聞きたくない気もする。


うん、聞かなくていい。そんなの一生知らなくていい事だ。


そもそもそんなの聞いたってどうしようもないじゃないか。




■■■■



「しっまざきちゃん」


昼休みになってお弁当片手に廊下に出ると、いきなり両肩を掴まれて驚いてまたビクリと大きく震えてしまった。誰がやってかなんて分かっていて、そんな反応してしまったら奴の思う壺なのもかっているけど。


「篠原、どうしたのわざわざここまで」


大抵いつも屋上で会うのに。なにか急ぎの用事があったのだろうか。

聞くと篠原は「そんなの」と眼鏡の奥の目を細めた。


「島崎ちゃんにすぐ会いたかったに決まってるじゃない」


「はいはい」


篠原からまともな返答が返ってくると思っていた私がお馬鹿だった。篠原がおちゃらけて何かとはぐらかすのはいつものことだ。人のことは色々探りたがるくせに。だから篠原が何を考えているのか分からない。


「はいはいってねぇ…傷つくなぁ」


眼鏡をかけ直しつつ篠原が私の肩に腕を回した。


「っていうか久しぶりだねぇ。元気にしてた?」


九月に入って少しは涼しくなったのが関係しているのか篠原は前に見た時より元気そうだ。

でも、なんか急にスキンシップが激しくなってないか?どうしたのだろう。


「朝と夜寒くなってきて毎年この時期から温度差で体調崩す人たくさん出てくるから島崎ちゃんも気を付けて」


そうだった、今朝うっかり窓開けっ放しで寝てしまい凍えそうになったんだった。割とすぐに期末試験があるから体調には気を付けないと。


「うん、篠原も気を付けて」


「大丈夫だよ、僕は。ほらなんとやらは風邪をひかないって言うじゃない」


ケラケラと篠原が軽い笑い声をあげた時だった、肩から篠原の腕が払われて背後の方に引き寄せられる。それがあまりに早い出来事なのでうまく対応できなくてされるがままになってしまう。




「ふざけんなよ、お前。いい加減にしないと本当に殺すよ」




今朝聞いたばかりの声が頭上から降ってくる。

お腹に腕が回ってる…。

密着している、密着してるってば!


「真琴も真琴だ。こんな奴無視しろ、近寄るな、簡単に体に触らせたりするな」


そうか、篠原と一緒にいると色々不都合が起きるんだっけ?

でも春樹の取り巻きの主要グループの石川さんは春樹の本性を知ったわけだしもう表だって何もしないだろうから、そんなこと気にしなくてもいいのではないだろうか。


「あっれ、先生から資料運ぶよう頼まれてなかったっけ優等生君」


篠原がわざとらしい口調でへらりと口角を上げる。


「舐めんな、もう終わらせた」


そう言葉を吐き捨てた春樹に、篠原はへーぇとまた茶化したような反応をする。


「新垣君って本当に足早いねぇ。やっぱり陸上部に入った方がいいんじゃない。二年のこの時期からでも新垣君ならいい線行くと思うよ」


春樹の腕の力が強まって、彼が苛立ったのが分かった。

まずい、このままだと春樹が篠原に殴りにかかりそうだ。


「わ、私なんかお腹すいたなぁ。早く屋上行きたいなぁ」


不自然に大きくなった声は、緊張のためにひっくり返ってしまった。間抜けすぎる。

大根役者にもほどがあるのは自覚している。もう怪しまれようがなんでもいい、この場が平和に収まるのなら。


「そうだね、行こうか」


篠原は同意して柔和な笑顔を浮かべた。相変わらず考えていることが読めない。

とりあえず険悪な雰囲気が少し和らいだのを感じてホッとする。


それにしても、今日の篠原はなんでこんなに春樹に突っかかるのだろう。


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