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4.7


「島崎、ウーロン茶頼んできて」


隣の須藤が足を組みながら、やたら偉そうに私に言った。その顔をまじまじ見つめてみる。


「なによ。だって次、私歌う番だもん。行けないでしょ」


全く普段絡まない相手とカラオケにいっても普通にエンジョイしている須藤だった。

須藤が苦手な栞達は若干居心地が悪そうだけど。


「西本君もグラス空だけどなんか飲む?」


コの字型のソファの端に座っている男子に声をかけると「カルピスで」と明るいトーンの返事が返ってきた。

一昨日のメンバー全員が揃っていた。計六人、こんな人数でカラオケに行くのはすごく久しぶりだった。大勢の中で歌うと緊張するが、これはこれで楽しいかもしれない。


「あ、ポテトも注文してー」


栞の声に頷いて私は立ち上がった。それと同時くらいに須藤も歌いだした。

壁の受話器で注文をして戻ってみると、須藤がすごく真剣な顔で熱唱していた。しかも、上手い。私は声が低い方だから須藤みたいに綺麗な高温が羨ましい。


「須藤って歌うまいね」


歌い終わった須藤にそう言うと、すごいしかめっ面をして黙ったかと思うと忘れたころに、ありがと、とごく小さな声で言った。なんかかわいいな、おい。


「真琴!この曲知ってるよね?一緒に歌おうよ」


栞が私にもう一つのマイクを差し出した。

すでによくCMでかかっている曲のイントロがかかっていた。前に歌ったことのある曲だ。


「うん」


答えてから自分の声が浮かれていると気付いた。やっぱりいいなこういうの。歌はあんまり上手くないし結構緊張しいだけど、こうしてワイワイやってるのは楽しい。


春樹といたらこんな気持ちを味わうことなかった。


まず何をするのか常に怖いし、一緒にいたらまず緊張して一時も休まらない。なんで緊張するかというと、よく分からない所で怒ったりするからだ、あと急に触ってきたりするし。あれは心臓に悪いから止めてほしい、普通にセクハラだろうし。

そういうことも春樹と別れた今もうない。ホッとしてやっと体の力を抜ける。


「真琴?」


「あ、ごめん」


考えにふけってつい歌うのを忘れていた。止めよう、もう春樹のことを考えるのは。


途中から入って所々音を外してしまったけれど、須藤に半笑されただけだったから良しとしよう。


「川島~、A○B歌ってよ」


歌い終わった栞が川島君にリクエストをしだした。

男子にA○Bってどうなんだろう…。面白いといえば面白いが、歌えるのか?だが以外にも川島君は嫌な顔をせず、むしろ乗り気なようだった。


「まじで?じゃあ西本踊れよ!」


「俺そういうキャラじゃないんですけど」


文句を言いつつも曲が流れると西本君はPVに合わせて踊っていた。ノリがいいなぁ。




■■■■




あっという間に二時間が過ぎた。


カラオケ店を出て、店を出て「面白かったね」とか「また行こうね」とか思い思いに言ってそのまま帰る雰囲気になっていたが栞がひとつ提案した。


「お腹空いたしどっかで何か食べない?」


いいね、と栞の横にいた彩が声を上げた。


「そう言えばミスド半額セールっていつまでだっけ」


「今日までじゃん!これは行かなきゃでしょ」


なんだかミスドに行きそうな雰囲気だ。ここで帰りたいとか言ったらKYだよなぁ、盛り下がりそうだなぁ。

今月お金やばいんだが。まぁ半額セールだしそんなにかからないと思うけど。

ちらりと横目で須藤を見てみたが、彼女もまた抜ける気はなさそうだった。


「じゃあ、ちょっと歩くけどミスドってことで」


一番近いミスドでも駅前から少し離れている。バスもちょうどそこの近くに停まらないし、調べていないからどのバスが通るか分からない。よって徒歩で移動する。いいんだ、最近運動不足だし。




歩きながらも雑談に花が咲いた。


もうすぐ夏休みだね、とか部活の話とか、私はあまり会話には加わらず終始聞き役だったけど面白かった。川島君が思った以上に話し上手で、西本君との掛け合いで常に笑いが絶えなかった。


歩いているうちに、おや、と思う所があった。


このあたりにミスドってあったっけ。


遠回りしているのか、にしても逆方向すぎるんじゃないのか。

どんどん街の外れに向かってないだろうか。この辺にあるのは寂れた廃工場くらいだ。人通りもないし。

まさか皆迷ってる?

いやそれはないか。私よりも彼らの方がこの辺に詳しいだろう。

もしかしたら、最近私が行ってないだけでこの辺りに新しくできたかもしれない。

…そもそも今キャンペーンってやってたっけ。

さっきはあまり気にして聞いてなかったけど、キャンペーン期間中なんて知らなかった。覚えてないだけ?いや、でもあのドーナッツ好きの母が何も言ってなかったし。


「ねぇ、あの…」


そのことを言おうと声をみんなに声をかけたら、強い力がかかって突き飛ばされた。


「な、なに」


あっさり転んだ私はそのまま引きずられながら工場の中に運ばれていく。

誰も何も言わなくて怖い。

今更だが、嫌な予感がひしひしとする。

連れてこられたのは駐車場みたいなところだった。トタンの屋根は所々剥がれ、錆びた軽トラックが一台あるだけのただっ広いだけの空間。


「立てよ」


さっきまでの態度のが嘘みたいに、川西君が無理やり私の脇を掴んで膝をつかせた。



「どうだった?つかぬ間の友達ごっこは」



聞き覚えのある声だった。

顔を上げると、そこには今まで幸運にも遭遇してなかった相手―――石川さん達がいた。

それだけじゃない。須藤の友達も石川さんの傍にいて、愉快そうな顔で私を見下ろしている。

どういうことだ?

栞達を見てみても微動だにしない。こちらを見ないし、何も言わない。


ゆるゆると驚愕はやってくる。


誘導されたのだ、ここまで。全部私をここに連れてくるための演技だったのだ。栞も川島君達も須藤も全部演技をしていたのだ。


「人望ないよねぇ、あんたって。友達だった子に簡単に嵌められちゃってさ」


心から可笑しそうに笑いながら石川さんが私の顔を覗き込んだ。


「みんな、あんたが許せないんだって。みんなのものだった春樹君を何もしないでいきなり取ったあんたに、どうしても復讐したいんだって」


耳元で囁かれる声がざわざわと鼓膜を揺らした。


「ごめんね、島崎」


西本君の声がした。


「俺たちは新垣が嫌いなんだよね。新垣に気に入られてるみたいだから島崎がボロボロにされたら新垣も少しはダメージ受けるかと思ってさ」


「ついでに犯しちゃったりしたら大分ショックなんじゃないかなーと思って」


頭上から降ってくる声に背筋に寒気が走った。

慌てて身を捩って逃げようとすると腕を抱えられ、動けなくなる。


「凛、あんたもこの女が憎いんだよね。一緒にこの女に痛い目みせてあげて二度と生意気なことできないようにしてあげようよ」


須藤の友達がそんなことを言っていた。須藤からの返事はない。いや、私が聞きたくないから聞こえなかったのかもしれない。


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