Episode:006 愛紗美の怒り
珈琲中毒様、FOOL様、感想ありがとうございます。
第6話、更新しました。では、本編をどうぞ。
それから、トーナメントは順調に続いて各ブロックで優勝した四人が決定した。準決勝の対戦カードは以下の通りである。
ウィルネ・アースvs鎧塚孔佑
プルート・ウィンデーネvs文月弥生
「今は12時半か・・・・・・少し時間は押したが、まぁ予定通りといっていいな。さて、お前ら。準決勝は14時からだ。それまで昼休憩とする。分かったか?」
準々決勝が終了した時、グランは待機場所に全員を集合させる。そして、そう宣言して全員を見渡した。全員が頷くのを見て、グランは笑顔で解散を宣言した。
「おっと、待てお前ら! 言い忘れていたが、今日は学園の食堂が使えない。だから、寮の食堂を利用してもらう」
しかし、すぐさま解散しようとする生徒たちを呼び止め、そう告げてくる。動きを止めた生徒たちはグランの方を向いた。
「先生。寮へはどう言ったらいいんですか?」
「それについては、寮監の忠相さんに案内してもらう。忠相さん」
生徒一人の質問にグランはそう答えると、頭をかきながら苦笑している、白髪交じりの黒髪で日帝国人の初老男性に声をかけた。その男性は頷くと、一歩前に進んで
「私は男子寮の寮監、石動忠相だ。女子寮の寮監は寮にいるから、そこで紹介する。さて、今から寮へと案内するからついてくるように」
と、透き通るような声で簡単な自己紹介をしてから、まわれ右をして歩きだした。生徒たちは慌ててその後をついていくのだった。
*****
寮の入り口で一人の女性が立っていた。忠相はその女性の横にくると、後ろを振り向いて説明していく。
「ここが君たちが暮らすことになる寮だ。ホームルームで寮について言われたと思うが、改めて言っておく。ここが入り口で、入り口を入ってすぐ正面が管理人室だ。ここが私とこの女子寮の寮監である雪絵が常にいるから、何かあったらここにくるように。雪絵」
「ええ。皆さま、女子寮の寮監の石動雪絵です。夫ともどもよろしくお願いしますね」
雪絵と呼ばれた女性は、そう自己紹介するとお辞宜をする。忠相は生徒が礼を返すのを待ってから、口を開いた。
「向かって右へ行くと女子寮、左へ行くと男子寮だ。食堂はそこの階段から行ける。風呂は部屋に常備されているが、それぞれの寮の地下に浴場があるから、興味があったら入ってみてくれ。寮則については夜、説明する。さて、今から君たちの部屋番号を教える。荷物はあらかじめ部屋に入れておいたから、確かめてくれ。男子は私、女子は雪絵だ。あと鍵を渡すから、渡されたら食堂でも自分の部屋でも向かってもかまわない。では、組と名前を言ってきてくれ」
忠相が促すと、男子は忠相の方へ、女子は雪絵の方へと集まっていく。そして、部屋番号を教えてもらい、鍵を渡されると寮内へと入って行った。
夕季と刃冶は最後に忠相と雪絵の方に近づいた。
「忠相さん、雪絵さんお久しぶりです」
「ああ、刃冶坊っちゃんか」
「お久しぶりね、ユキちゃん、刃冶くん」
刃冶が代表して挨拶をすると、忠相と雪絵は懐かしそうに返事をする。坊っちゃんと呼ばれた刃冶は肩をすくめながら、言った
「坊っちゃんは止めてくださいよ、忠相さん」
「おっと、そうだったな。悪い悪い。えっと、刃冶くんは1123番だ」
「ふふふ。あ、ユキちゃんも同じく1123番よ」
「ありがとうございます」
忠相は笑いながら、部屋番号を教え鍵を渡した。雪絵も微笑みながら、夕季にも部屋番号を教え鍵を渡した。鍵を受け取った夕季と刃冶はお礼を言って寮内へと入っていった。
「刃冶くんとユキちゃんは立派になったな」
「ええ、そうね」
その後ろ姿を見ながら、忠相は感慨深げに呟く。雪絵も同意しながら、二人を見つめていた。
**********
寮内に入った私たちは、まず自分の部屋を確認することにしました。兄様と分かれて女子寮の方へ向かいます。
私の部屋は1123番ですね・・・・・・、あ、ありました。
「あら、夕季。遅かったわね」
自分の部屋を確認した時、隣室から康海が出てきました。服装が制服から私服に変わっているので、“魔法科学研究コース”の今日の日程は終わったみたいですね。
「能力測定トーナメントというのがありましてね。康海の方は終わったのですか?」
「ええ。今、届いた荷物を片付けてる所よ。“魔法具開発コース”の子も終わってるみたいね」
康海に確かめると、肯定して補足してくれました。ということは、午後まであるのは私たちのコースみたいですね。
「へぇ。これが戦闘服かぁ。似合ってるじゃない」
「ふふふ、ありがとうございます。あ、今からお昼にしませんか?」
「そうね。丁度、お昼だし行きましょうか」
康海を誘ってロビーに戻ると、兄様が男子寮の方から歩いてきました。それから、兄様と一緒に階段を上って食堂に向かいました。
『それって、どういうことだよ!』
「あら、どうかしたのかしら?」
「何かあったらしいな」
すると、食堂の扉の前で何人かの生徒が騒いでいました。疑問に思った私は、近くにいたウィルネさんに訊ねてみると
「何か2、3年の先輩方のせいで料理番の方が逃げ出しちゃったみたい。今、忠相さんが暴動を抑えてるけど、持たないかもしれない」
と答えてくれました。
よ、よく分かりませんが、料理番が逃げ出してしまい、お昼が食べられない状態だということなのでしょうか・・・・・・。
「雪絵に詳しく訊いてきましょう。康海、兄様はここで待っていてください」
「ああ」
「分かったよ」
私は兄様と康海に言うと、階段を下りて隣の管理人室の扉をノックしました。返事があったので、名を名乗ると雪絵が慌てて出てきた。
「あ、ユキちゃん。ごめんなさいね。今、先生たちと愛紗美ちゃんを呼んだから、暴動は治まるわ」
「それは良かったです」
先生とお従姉様が来てくれるのなら、大丈夫ですね。それにしても・・・・・・。
「で、どういうことですか? 料理番の方がでていったと聞きましたが」
「そうなのよ。突然、やってきてね。辞表を出してきたの。理由を訊いたら・・・・・・」
事情を訊くと、雪絵は言い難そうにしながら説明してくれました。
それによると、料理番の方は魔法が使えない人で、それを理由に2,3年の一部の生徒が酷いことをしたらしいのです。その方たちはお従姉様に見つけられて一度はいじめを行わなくなったみたいですが、今日、お従姉様がいないのを良いことにいじめを再開させたみたいですね。
「それを訊いちゃったら、止められないわ」
「そうですね・・・・・・」
私は返事をしながら、その方々に憤りを感じていました。魔法が使えないからといって、その方々よりも劣っているとは言えないのですから。
けど、私たち一年生には関係ありません。ふぅ、仕方がありません。
「雪絵。私が作りましょう」
「え、で、でも・・・・・・」
「大丈夫です。変装しますから」
私は戸惑う雪絵に微笑むと、初老の女性に変装しました。これは超能力ではなく、忠相にねだって教わった変装術です。これは内緒ですけど、忠相は昔、世界をまたにかけた怪盗だったんですよ。
「・・・・・・そうね。仕方がないわ。ユキちゃん、やってもらえる?」
「ええ」
私は頷き調理服に着替えると、管理人室内に備え付けられている従業員用のエレベーターに乗りました。そして調理場についた私は調理場の状態を見ていきます。
調理場はぴかぴかでいつでも料理ができる状態でした。それだけで、辞めた料理番の方が精魂込めて料理を作っていたのかが分かります。
「これからは私が作りますよ。あなたの想いを引き継いで・・・・・・」
調理台をさすりながら、これまで料理をしてくれていた方に感謝し、そう呟くと忠相にテレパシー(精神感応)を送ります。
〈忠相。料理は任してください。開けてもかまいませんよ〉
〈雪絵から窺っております。ユキちゃん、悪いけどお願いするよ〉
〈ええ〉
私が頷くと同時に食堂の扉が開いて、お腹をすかせた生徒たちがどっと押し寄せてきました。
さぁ、張り切って作りますよ~。
**********
夕季が調理場で奮闘している頃、寮の三階にある多目的ホールに30人のエルフの女子たちが屯していた。そこに白髪をぼさぼさにしたエルフの女子が飛び込んできた。
「リーダー。新しい食堂のおばちゃんが来たみたいよ?」
彼女は金髪をツインテールにしている、つり目のエルフの女に話しかける。
この女がグループのリーダーらしい。リーダーの女は噛んでいたガムを火焔で燃やすと、飛び込んできた女子を睨みつけるように見つめる。
「で、そいつは魔法は使えんのかい?」
「それは分からないわ」
「そうかい。なら、そいつが魔法が使えるか使えないかで、対応を考えようかねぇ」
リーダーの女はそう呟きニヤッと笑った。彼女の周りにいた女たちもつられて笑いをあげていった。
「・・・・・・それは出来ない相談だよ、ミレーユ」
「「「「「!!」」」」」
その時、扉の方から誰かの声が聞こえてきた。エルフの女子たちは驚いてそっちを向くと、そこには愛紗美が笑顔で立っていた。
「ミレーユ、言ったはずだよ。今度、同じようなことをしたら生徒会長として然るべき対処をとるって」
「け・・・・・・っ。お飾り生徒会長の癖に何を言ってんだい」
ミレーユと呼ばれたリーダーの女は、ニヤッと笑うと全員に合図を送る。すると、ミレーユを含む全員が呪文を唱えて全身を炎で纏い始めた。
ちなみに、ここ多目的ホールはトレーニングルームとしても利用されるため、どのような威力の魔法でも耐えきれるように設計されている。そのため、30人が炎を纏ったとしてもビクともしない。
それらの炎を愛紗美は笑顔を張り付け入り口に立ったまま見つめていた。しかし、愛紗美が纏うオーラは冷気を通り越して寒気と言っても過言ではないぐらい冷たかった。
「そう。ミレーユがそのつもりなら・・・・・・、魔剣学園生徒会則第17条により、あなた方を拘束します」
「けっ。やってみろよ! 行くぞ、お前ら!」
『『『『『おう!』』』』』
ミレーユ達は炎を纏ったまま愛紗美に襲いかかった。しかし、その攻撃が愛紗美に届くことはなかった。なぜならば、愛紗美は周囲に風系魔法を無詠唱でかけていたのだ。その凄まじい風力により、炎はかき消され、ミレーユ達は吹き飛ばされていた。
目が点となるミレーユ達。愛紗美はそんな彼女たちを笑顔で見つめ、
「魔剣学園生徒会則第17条。度重なる勧告を無視した者は卒業するその日まで学園に奉仕しないといけない。生徒会長は、その者を速やかに拘束して学園に引き渡さなければならない」
と、生徒会則第17条にかかれていることを淡々と説明しながら、ミレーユたちに近づいていく。今まで感じたことのない威圧に、ミレーユ達は顔を青くしガタガタと震えだした。
「ミレーユ。私はいつも言ってたよね? 魔法は万能じゃないよって、魔法が使えない人を見下しちゃいけないよって・・・・・・。私は悲しいよ。2年生の中で実力があるミレーユが、傲慢にも魔法が使えなかった乃絵さんを苛めるなんて・・・・・・。第96代生徒会長、紺野愛紗美の名の下にあなた方を拘束します。凍てつく風よ。全てを凍らせよ」
『『『『『い、いy――』』』』』
愛紗美が語り終えた瞬間、冷気を帯びた風がミレーユ達を凍らしていく。ミレーユ達は叫ぶ間もなく、氷漬けにされてしまった。
「・・・・・・グラン先生」
「・・・・・・良いのか? 愛紗美」
愛紗美は氷漬けになったミレーユ達を見ながら、グランの名を呼んだ。するとグランが音もなく現れて愛紗美に問いかける。
「いいんですよ。私は生徒会長なんですから」
「・・・・・・そうか」
「ええ♪」
愛紗美は普段見せる笑顔になると、踵を返して多目的ホールを出ていった。
それを見送ったグランは氷漬けになったミレーユ達を見つめる。そして指をならしてミレーユ達を転移させ、多目的ホールを出ていった。
*****
「にゃははは。大人気だね~」
食堂にやってきた愛紗美が見たものは、行列を作った生徒たちの群れだった。愛紗美は生徒たちに挨拶されながら、刃冶に近づいてそう呟いた。
「夕季の料理は美味いからな」
「そうだね。夕季も料理を作れるのが嬉しいみたい」
「にゃははは。そうだね」
愛紗美は刃冶と康海と一緒に忙しなく嬉しそうに働く夕季を見守る。その後、行列は夕季たちの集合時間の14時まで絶えなかったという・・・・・・。
第6話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。
なおこの事件がきっかけで、初老の女性に変装し料理を作ることになった。
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≪魔法説明≫
火焔:
指先に魔力を集束させて、炎を放つ炎系の攻撃魔法。全ての炎系の基本魔法。
威力は下の下。
詠唱『炎よ。この手に集まれ』
火焔衣:
身体に炎を纏い防御力を高める炎系の防御魔法。
炎を纏っているため、相手にダメージを与えることもできる。
威力は上の下。
詠唱『業火の炎よ。この身を纏え』
風壁:
自分を中心に見えない風壁をつくって身を守る風系の防御魔法。
その風力は凄まじく相手を吹き飛ばすことができる。
威力は上の中。
詠唱『吹きあがる風よ。この身を守れ』
凍氷嵐:
冷気を帯びた風によって、相手を氷漬けにする風系の攻撃魔法。
氷漬けにされた者は死ぬことはないが身動きが取れなくなるため、魔法が使えない。
威力は上の上。
詠唱『凍てつく風よ。全てを凍らせよ』