Episode:001 入学式
ヒョウガ様、感想ありがとうございます。
第1話、更新しました。今話はタイトル通りの入学式でのお話です。では本編をどうぞ。
夕季が転生した世界は魔法科学よって発展してきた、いわゆる魔法世界である。
そして、魔法を使えぬ者は魔法を使えるものに劣るという魔法至上主義を下地に6つの国ができた。また、この国々はそれぞれ違う種族が統治しており、御多分に洩れず戦争を繰り返していた時期があった。
この背景にも魔法至上主義があったのは言うまでもない。
しかし、第15次世界大戦後に制定された世界六カ国安全宣言によって戦争の全面禁止、魔法至上主義の廃止となり、それから数百年の歳月が経った。
夕季が住んでいるのは日帝国という人族が統治する国であり、その国にあるのが魔剣学園、正式名称『夜刀神大学付属魔剣学園高等学校』である。
日帝国にあるといっても、魔剣学園は全ての国家からの支援で運営されている。そのため、人族だけでなく、竜人族、エルフ族などの様々の種族がこの学園に通っている。つまり、全ての種族が一堂に会する唯一の場所であると言える。
その魔剣学園は魔斬島という島に建てられた全寮制の学校である。そして、今日は魔剣学園の入学式。島全体が桜色に染められ、新入生たちを温かく迎えていた。その新入生たちは、新しくぴかぴかとしている制服に身を包み学園へと続く長い坂道を歩いている。
その中で一際目立つ二人がいた。
一人は身長165cmぐらいで、腰の下あたりまで伸ばした銀色のロングヘアーを一つに纏め、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいるという素晴らしいプロポーションの美少女で、新しい制服もピシッと着こなしている。もう一人は身長170cmぐらいで、金色のショートヘアーが寝癖でぴょんぴょんとはねている美少年で、折角の新しい制服もだらしなく着ている。イケメンだが、その風貌によって近寄りがたくなっているのは否めない。
その二人とは、主人公の夜刀神夕季とその兄の夜刀神刃冶であるが、この二人の関係を知らない者から見れば、正反対の二人が一緒に歩いていることについて悪いことを考えてしまうのは当然である。現に一部の新入生たちがヒソヒソと話をしている。しかし、夕季と刃冶はそれを気にせず、黙々と高等部へと向かっていた。
「・・・・・・兄様、眠いです。おんぶしてください」
「アホなこと言ってないで、さっさと歩け」
その途中、夕季はしっかりとした足取りで歩いているのにも関わらず、眠そうな顔をして一緒に歩いている刃冶におんぶをせがんだ。しかし、刃冶は欠伸混じりにそう言って歩いていく。夕季は刃冶の反応が分かっていたのか、これ以上せがまずに眠そうな顔のまま、一緒に歩く。
「おやおや、誰かと思ったら魔法がからっきしダメな夜刀神刃冶君ではないですかぁ。理事長の孫だから入れ――ぶげらっ!?」
「・・・・・・兄様の悪口は許しません」
「・・・・・・やれやれ。行くぞ、夕季」
「はい♪」
学園の校門が見え始めた時、後ろから刃冶を嘲笑う男の声が聞こえてきた。魔法至上主義が廃止されたとはいっても、まだまだ根強く残っているため、こんな風な輩が大勢いる。
ただし、その男は夕季の後ろ回し蹴りで吹き飛ばされて坂道を物凄い勢いで転がり落ちていった。刃冶至上主義の夕季の前で言ったのが、運のつきである。ちなみに、夕季の一連の動作は目にも止まらない早さだったため、まわりにはただ男が自分で転げ落ちたと見えたのは言うまでもない。夕季と刃冶が何事もなかったかのように校門へと向かったのも原因の一つだろう。
ここで男が言いたかったことを説明する。魔剣学園の理事長は夕季と刃冶の祖父の夜刀神家第56代当主・夜刀神刃秦である。そのため、中学校で成績が悪かった刃冶が理事長のコネで入学したという噂が立ったのだ。実際は刃秦の性格上絶対ありえないのだが、刃秦を知らない人が多いため、そう噂をするのは仕方がないことである。
**********
兄様の悪口を言った失礼極まりないやつを倒した後、兄様と一緒に校門前に着いたら、赤色の髪を二つのシニヨンで纏めた少女が声を掛けてきました。
「刃冶、夕季、おはよう」
その少女の名は姫川康海。
宋爺、魔法科学研究の第一人者の姫川宋二郎の孫娘で、魔洋幼稚園の頃からの幼馴染です。魔法至上主義で魔法を使えない者を見下す人たちがいる中で、唯一、魔法が使えない兄様に対して分け隔てなく接してくれる親友です。
あ、ちなみに兄様のお嫁さん候補ランキングで第一位に輝いています♪
「おう」
「おはようございます、康海」
康海と挨拶をかわした私と兄様は校門前に作られた受付で名前を記入し、康海と一緒に体育館へと向かいました。
「そう言えば今日は来るの? おじさんたち」
「父さんと母さんは小学校、中学校の入学式だ。 来るはずねぇよ」
その途中、康海が今日の入学式に両親が来るのかどうか訊ねてきました。
兄様の言う通り、父様は小学校の教師、母様は中学校の教師をしており、今日はそのどちらも入学式なので、今回は来れません。
「泣いて残念がってました」
「ふふ、おじさん達らしいわ」
「で、そっちはどうなんだい?」
「お祖父ちゃん、昨日張り切りすぎてぎっくり腰になっちゃったから、宋華叔母さん一人よ」
康海の両親は、康海が物心がつく前に亡くなっているため、今は宋爺と宋華叔母様と一緒に暮らしています。
それにしても宋爺は本当に残念ですねぇ。晴れ姿を見たがってましたのに・・・・・・でも、宋爺らしいですね。
「新入生の皆さんは魔神石に触れてから、体育館へと入ってください。保護者の方たちはこちらから二階へとあがってください」
案内に従って体育館に着くと、ここの教師らしい男性が叫んでいました。
合格通知と一緒に送られてきた入学案内書類によれば、魔神石というタブレット型のコンピュータに触れると、瞬時に魔力量を測定することができるとのこと。この魔力量はクラス分けに必要になるようです。
クラスは全部で15組ありますが、それぞれコースが決まっており、1組から5組までは“魔法科学研究コース”、6組から10組までは“魔法具開発コース”、11組から15組までは“魔法実践コース”となっています。
入学手続きの際に記入した希望コースも参考にされますが、コースごとに最低魔力量があるため、希望したコースにいけないというのもあります。ちなみに、私たちは魔法科学研究コースを希望しています。
「さて、中へ入るか」
「はい♪」
「ええ」
魔神石に触れた私たちは体育館へと入り、新入生用の席に適当につきます。すると兄様が『寝るから終わったら起こしてくれ』と言って、眠り始めました。
「たく刃冶は相変わらずなんだから」
「兄様の寝顔♪ 寝顔♪」
「はぁ、こっちも相変わらずか・・・・・・・」
兄様の寝顔をニコニコしながら見つめること数十分。教師や主賓の方々が入ってきて入学式が始まりました。
「理事長式辞」
入学式は開会の辞、新入生呼称、入学認定、学校長式辞と進行しました。そして、学園長先生のお言葉が終わった後、司会の教師の人の言葉で徐に立ち上がったのは、私たちのお祖父様です。お祖父様はしっかりとした足取りで壇上に立つと、新入生を見つめました。
「新入生の諸君、入学おめでとう」
と一言おっしゃるて、壇上を後にしました。ふふ、相変わらずですね、お祖父様は。
「相変わらずの短さね、刃秦おじさまは」
「ふふふ。そうですね」
周囲が唖然と見守る中、お祖父様の性格を知っている康海は苦笑して肩をすくめました。私も同意すると、笑顔で席に戻ったお祖父様を見つめます。
お祖父様は同じような言葉を長ったらしくおっしゃることを嫌う方ですので、知っている人ならばこの短さが当たり前と思うでしょうね。でも、司会の方は少し唖然としている様子ですので、恐らく新人の先生でしょうね。
その先生は『ごほん』いう学園長先生の咳払いで我に返ると、慌てて進行していきました。
「只今より、新入生の皆さまに所属クラスをお知らせします。 確認が終わりましたら、各自クラスに向かってください」
その後、恙無く入学式が終わって司会の先生が言うと、私の目の前に魔法陣が展開されて自分の所属するクラスとコースが表示されました。私は兄様を起こすと、目の前の魔法陣に目を通していきます。
えっと、私と兄様は11組の“魔法実践コース”・・・・・・?
「えっと、私は5組で“魔法科学研究コース”ね。 夕季と刃冶は?」
「・・・・・・・・・・・・」
「刃冶?」
「・・・・・・私と兄様は11組で“魔法実践コース”です」
「魔法実践コース・・・・・・?」
表示されたクラスとコースを再度確認して、康海に伝えます。康海は怪訝そうな表情になって確かめてきました。
「なんかの間違いじゃない?」
「いえ・・・・・・」
私は首を振って否定する。この手の魔法は間違いはないですから、間違いなく私とお兄様は11組の“魔法実践コース”です。
「どうなってるのかしら・・・・・・?」
「・・・・・・祖父さんの仕業だな、これは」
「え? 刃秦おじさまの?」
私と兄様は座っているお祖父様の横顔を睨みつけました。
新入生が私と兄様と康海の三人だけになった時、お祖父様がこちらに気付いてやってきました。
「やぁ。刃冶、夕季――ぶげらっ!?」
私はやってきたお祖父様に踵落としで、お祖父様を床に沈めました。しかし、お祖父様は何事もなく立ち上がると、私に抱きつきいて頬ずりしていきます。
ひ、ひげが気持ち悪いですううううううっ!
「いつ見ても夕季は可愛いのう♪」
「祖父さん、どいうことか説明してくれるよな?」
「なんだ? 刃冶」
「何故、俺と夕季が“魔法実践コース”になってんだよ」
「む? 嬉しそうな顔ではないな? 折角、お前達の実力に合ったコースにしてやったという――ぐべらっ!?」
私に頬ずりしながら、兄様の質問に答えるお祖父様。
気持ち悪さに耐えきれなくなった私はお祖父様の抱きつきから逃れると、胴回し回転蹴りでお祖父様を再度床に沈めました。
けど、やっぱり何事もなく立ち上がるお祖父様。
「お前達の実力は“魔法実践コース”が適当だと判断した。ただそれだけだ」
「ちっ。たく入試の時、まぐれでも教師を倒すんじゃなかったぜ」
「あ、刃冶。じゃ、おじさま失礼します。待ってよ、刃冶」
お祖父様の言葉に兄様は肩をすくめると体育館を出ていき、その後を康海がおっていきます。二人が見えなくなった時、私は口を開きました。
「で、本当はどういう事でしょうか? お祖父様・・・・・・」
「本当も何も、私は本当のことしか言ってないぞ。では、またな」
「・・・・・・・・・・・・」
お祖父様は肩をすくめると、そう言って話し合いをしている先生たちの方へと向かいました。私はその後ろ姿をしばらく見つめていましたが、スカートを翻して体育館を後にしました。
第1話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。
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