Episode:017 魔斬山登山 中
ヒョウガ様、感想ありがとうございます。
第17話、更新です。
今話は魔斬山登山の中編です。
では本編をどうぞ。
「・・・・・・・・・・・・」
ここは夜刀神家が出資する魔法科学研究所『夜姫』。そこの所長室では姫川宋華が所員から昨日提出された、何百報もの研究レポートを一報十秒で添削し、指示書を作成していた。
『宋華』
「何? お父さん」
その時、父である姫川宋二郎から連絡があった。宋華はレポートから視線を外さずに返事をした。
『忙しいところすまんな。そのまま訊いてくれ。神郷のことだ』
「辰弥君のこと?」
『ああ。神郷がお前を引きずり落とそうと画策している。まぁ、お前のことだから知っていると思うが』
「知ってるわよ、そんなことぐらい」
宋華は一区切りついたらしく、作業を止めてさらっと告げると、宋二郎が映る魔方陣を見つめた。
「自分よりも能力が劣ると思っていた私が、自分を差し置いて所長になったのだから、なんとか私を引きずり落とそうとするのは当たり前だし、態度にありありと出てるもの。で、それがどうかしたの? お父さん」
『神郷は夜刀神家を脅して所長になるつもりらしい』
「夜刀神家を?」
宋華は怪訝な表情をした。
神郷辰弥は夕季の父、夜刀神緋刃の妹の麻耶の夫、義理とは言え、れっきとした夜刀神一族の一員である。そのため自分の身内を脅すというのが、宋華には考えられなかったからだ。
『刃冶坊の秘密を探っているらしい』
「刃冶君の秘密? 秘密って何?」
『ワシが知るわけがないだろう?』
「それもそうね。で、なんで刃冶君の秘密を見つけ出したら所長になれるの?」
『ユキ嬢の話では、夜刀神家を崩壊させることのできる秘密という噂があると言っていたな。おそらくその噂を神郷は信じたみたいだな。その秘密をネタに刃秦や夜刀神家に脅しをかけるつもりらしい』
「そう・・・・・・」
宋華は侮蔑の表情になって黙った。
『神郷のことはワシに任せなさい。宋華は自分の仕事にだけ専念しなさい」
「え? でも・・・・・・」
『いいから。このことは一切他言無用だ。いいな』
「・・・・・・はぁ。分かったわ。お父さんに任せる。お願いね」
『ああ』
宋二郎が頷いた直後、魔方陣が消えた。宋華はしばらく魔方陣があった場所を見つめていたが、息を吐くと視線をレポートに戻し、仕事を再開した。そしてこう呟いたのだった。
「辰弥君もバカね。所長や副所長なんていう身分は関係ないのに、それだけの能力はあるんだから。けど、お父さんが動き出したということは、もうここにはいられなくなるわ・・・・・・、まぁいいわ。私が心配する義理もないのだし。それに彼の自業自得よ。でも麻耶には悪いことをしちゃうわね」
**********
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
私は木陰で眠っている兄の頭を腿におき、ニコニコとしながら葛葉を見守ります。
その隣では、ウィルネさんが少し戸惑いがちに葛葉を肩に乗せており、ユーマさんは眉間にしわを寄せて腕を組んで葛葉の様子を見ています。
(ユキ様。空間歪曲箇所が分かりました。前方一間左方二間です)
「流石は葛葉です♪ ユーマさん、立札から三歩歩いたところを触ってみてください」
「なぜ俺がやらないといけないんだ?」
私の言葉にユーマさんが更に眉間にしわを寄せて睨みつけてきました。
「なにを言ってるんですか? 兄様は眠ってるし、ウィルネさんは女の子ですよ? あ、私はやりませんよ? 私は兄様の膝枕で忙しいので~」
「・・・・・・はぁ、なんだか嫌な予感がするんだが・・・・・・」
笑顔でさらっとユーマさんの威圧感を受け流していると、ユーマさんはため息を吐いて私が指定した場所へ歩いていきます。そしてその一歩手前で立ち止まったユーマさんが手を触れた瞬間、バチッという火花が散ってユーマさんの手を弾きました。
「うぉ!? なんじゃこりゃ!?」
「ウィルネさん、そこで空間が歪曲されてるみたいですよ」
「え、あ、うん」
「おい、こら! 夜刀神妹! こうなることを分かってたな!」
「葛葉。いい仕事をしましたね~」
(へへへ)
激昂するユーマさんを無視して戻ってきた葛葉の頭を投げて褒めてあげます。
ふふふ。ユーマさん。さっきのクイズの説明を遮った怨みは深いですよ~。
「無視か! おい! 無視なのか!」
「ゆ、ユーマ。落ち着いて」
「ぐぐぐ」
さらに激昂しかけるユーマさんをウィルネさんが宥めていますが、無視です。時間も時間ですから、兄様を起こして先に行きましょう。
「兄様。トラップの場所が分かりましたので、起きてください」
「もうか? 早くね?」
「早くないですよ~。むしろ遅いくらいですよ」
「そうか? まぁ、それはいい。で、どうやってトラップを解除するんだ?」
「そうだ! 夜刀神妹! 俺にあんなことさせたんだ。解除方法は分かってるんだ――ぐぎゃっ!?」
ユーマさんは兄様の言葉を受け継いで、私に迫ってきます。私はユーマさんの腕を取ると捻り上げて地面に叩きつけました。そして地面にめり込んだユーマさんの頭に手をかざし、立ち上がらせないようにサイコキネシスで抑え込みました。
「むぐっ!?」
「夕季さん!?」
「ウィルネさん、大丈夫ですよ。ユーマさん、少しは頭を冷やしましょうか? あなたは少し短気なところがありますね。それではあなたのお父さまが勤めていらっしゃる“アイギスライン”には到底入隊することはできませんよ」
私は驚くウィルネさんを制して、起きあがろうともがくユーマさんを更にサイコキネシスで抑え込みながら、淡々と告げていきます。
からかったは私ですが、少し鬱陶しいですので、強制的に頭を冷やさせていただきます。
「が、はっ!」
「夕季。その辺にしとけ」
私がユーマさんの頭を掴んで頭を弄ろうとしたとき、手をとって兄様が制してきました。私は兄様を見つめると、ため息を吐いて掴んだ手を離しました。
「大丈夫か? マンサラダー」
「サ、サラマンダーだ・・・・・・」
兄様はユーマさんの手を掴んで立ち上がらせました。ユーマさんは兄様の名前間違い(わざと)を訂正しながら笑顔になります。そして私を見つめてニヤッと笑いかけてきました。
「強いな夜刀神妹。ヴィリスの言った通りだ」
「ふふふ。たまたまです」
ヴィリスさんというのは中学校時代のクラスメイトです。ユーマさんとは従兄弟の関係で、今はドラゴロルの私立高校に通っているはずです。
「ユーマ。大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。痛かったが、ちゃんと頭は冷えた。夜刀神妹はちゃんと手加減してくれたみたいだ」
「良かった」
ユーマさんはウィルネさんの問いにそう答えると、ウィルネさんの頭を撫でていきます。
ふふふ。ウィルネさんは嬉しそうにしていますね。本当にユーマさんの事が好きみたいです。
まぁ、幼馴染ですしね。
ちなみにアースさんとの一件の時、ユーマさんはウィルネさんを助けにいかなかったわけではないですよ? ユーマさんが助けにいく前に私がアースさんを吹っ飛ばしただけですから。
「で、どうやって突破するんだ? 夕季」
「あそこの歪曲部分に炎系魔法をぶつけるだけです。兄様やります?」
「う~ん。よし。そこの夫婦。まかせた!」
「なっ!? 夫婦じゃねぇぞ!」
「そ、そうだよ!?」
兄様は一秒でめんどくさいと判断して、ユーマさんとウィルネさんに丸投げしました。二人は、兄様の『夫婦』という単語に顔を真っ赤にして否定します。
ふふふ。お熱いですね~。
「ふふふ。ウィルネさん、ユーマさん。炎系魔法なら何でもいいので、ぶっ放してください♪」
「うっほん。分かった。ウィルネ。すこし下がってろ」
「う、うん」
「地獄の炎よ。この手に集まれ」
顔を赤くしたユーマさんは咳払いをすると、私に確認を取ると炎系魔法“火焔球”を放ちました。
そのサッカーボール程の炎の球が歪曲部分にぶつかった瞬間、キーンという音ともに空間が少し歪みだしましたが、すぐに収まり元の森へと戻りました。
〈葛葉。どうですか?〉
(空間歪曲は収まりました~)
「成功ですよ~。歪みは消えたみたいです」
「そ、そうか。よし。頂上へと向かうとするか」
「あ、待ってよ。ユーマ」
ユーマさんはその場を離れたかったのか、どんどんと一本道を進んでいきます。慌ててウィルネさんが後を追っていきました。私は葛葉を首に巻き直してから兄様に話しかけました。
「私たちも行きましょうか」
「もうトラップはないはないのか? むしろないのが良いんだが」
「ふふふ。それは分かりませんよ~。でもサボってはダメですからね」
「はぁ。めんどい。というか夕季が冷たい。なぁ、紅焔」
(頑張ってください、主様!)
私は兄様の腕にしがみついて忠告を言うと、兄様はため息を吐いて眠たい表情をし、愚痴を紅焔にこぼしながらも頂上に向かって歩き出しました。
私はその横でニコニコとしながらついていきます。兄様成分の再注入開始です♪
「やっぱり紅焔で」
「ふふふ。ダメです♪」
第17話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。
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≪魔法説明≫
火焔球:
焔のエネルギーをサッカーボールぐらいの大きさに圧縮し放つ炎系の攻撃魔法。獄炎球(Episode:014 参照)よりも威力が小さい。
威力は中の上。
詠唱『地獄の炎よ。この手に集まれ』




