Episode:016 魔斬山登山 前
レフェル様、ヒョウガ様、感想ありがとうございます。
お待たせしました。第16話、更新です。
今話も魔斬山登山での出来事です。
では本編をどうぞ。
「麻耶め、今に見ていろ。絶対、副所長から所長になってみせるからな。しかし、そのためには姫川を引きずり落とさなければならない。その手段はもう決めてあるが、夜刀神刀冶の実力を調べなければ前には進めない。必ず調べあげてやる」
そう呟いて書類に自分の印を押した辰弥は、パソコンを閉じて部屋を出ていった。その様子を監視カメラ“カメタロウP”が一部始終を見ていたのに気づかずに。
「・・・・・・ユキ嬢の書いた通りか」
魔法科学研究の第一人者、姫川宋二郎は自宅の書斎で、“カメタロウP”から送られてきた映像を見ながら呟いた。そして“カメタロウP”を書斎に呼び戻した後、車椅子を操って机に近づき、その上にあった書類を手にとった。
その書類の表紙には、『夕季のな・い・しょ♪』と書かれてあった。
「ユキ嬢が渡してきたときには、何かの間違いじゃと思っておったのじゃが、まさかあやつがのう。能力はあるが、性格が難ありということで副所長の地位にしたのじゃが、それが仇となったか・・・・・・」
書類に目を通していた宋二郎は意を決した表情になる。そして書類を消すと、研究室にいるはずの娘、姫川宋華に連絡をとった。
神郷辰弥の企みを阻止するために。
**********
登山の第一トラップを突破した私たちは、ゆっくりとした足取りで頂上を目指していました。
「兄様、眠いです。おんぶしてください」
「アホなこと言ってないで、さっさと歩け」
「むぅ。兄様が冷たいです。ねぇ、葛葉」
(くすぐったいですよ~。ユキさま~)
兄様がおんぶをしてくれないので、葛葉の身体をまさぐっていきます。本当にふわふわしてますねぇ。
「ん?」
「どうかしましたか?」
突然、兄様が立ち止まったので、葛葉をまさぐりつつ訊ねると、前方を見つめていた兄様がボソッと呟きました。
「先生、一本道って言ってなかったっけか?」
「言ってませんよ~。言ったのは私です」
「そうだっけか? まぁ、それはいい。で、一本道なんだよな?」
「ええ。そうですよ」
私は頷くと、兄様が見つめていた前方を見つめました。すると目の前には二またに分かれた道がありました。
「ああ、なるほど。あれは第二トラップですね。正解は一つってことです」
「ふ~ん。で、どっちだ?」
「ふふふ。どっちでしょうね~」
「・・・・・・はぁ、あそこに立札があるようだし、面倒だがそこまで行ってみるか」
「はい♪」
わざと分からないフリをしていると気付きながらも、律儀に付き合ってくれる兄様が大好きです♪
私は葛葉を首に巻きつけると、兄様に抱きつきます。兄様は面倒そうな顔をしながらも、私の顔を撫でてくれました。
うへへ♪ 気持ちいいです~
「・・・・・・なるほど、この問題を解かないといけないわけだな」
「そうみたいですね」
「はぁ。考えるのが面倒だ。夕季、どっちだ?」
「右かもしれませんねぇ」
「そうか」
兄様は頷くと、素直に右に歩いていきます。
正解だからいいんですが、ちょっとは私の言葉を疑ってほしいもんです。まぁ、それが兄様ですけど。
あ、ちなみにあの立札の問題はこうですよ~。
≪≪問題 あるところに嘘吐村と正直村という2つの村があった。正直村の村人は、なんでも正直に言うが、嘘吐村の村人は、なんでも逆のことを言う。その村へ行く途中、君は分かれ道に差しかかった。一方は正直村へ、もう一方は嘘吐村へ通じている。そこで君は一人の村人に出会った。それが正直村の村人なのか、嘘吐村の村人なのか分からなかった君は、左の道を指差して『あなたが来たのはこの道か?』と訊ねたら、『いいえ』と答えた。さて、君はどっちに向かう?≫≫
「そういや夕季。間違った道にいったらどうなるんだ?」
「ふふふ。行ってみます?」
「いや。面倒そうだからいいや」
兄様は欠伸をしつつ、しがみつく私がついていける程度の速度で歩を進んでいきます。私は兄様成分を堪能して、ホクホク顔になってます~。
「あっ、そうだ」
兄様が何かに気付いたのかポンと手を叩いたので、顔を覗きこんだら良いアイディアを思いついたという顔をしていました。あ、でもそれは・・・・・・
「夕季。紅焔で頂上まで・・・・・・」
「ダメですよ~。飛行魔法は禁止されてます♪」
「チッ。いいと思ったんだがなぁ。はぁ、めんどい」
兄様のお顔が、ダルい表情に変わってしまいましたが、こればかりは仕方がありません。
「よし。サボろう」
「ふふふ。駄目ですよ。ほら第三トラップが見えてきました」
「紅焔、夕季が冷たいんだが」
(が、頑張ってください主様!!)
ふふふ。兄様、諦めてください。これもフラグ折りの一環ですからね♪
「お、ちょうどいい時に来たな。夜刀神兄妹」
その時、第三トラップの前に仁王立ちで立っていた人物が声をかけてきました。声の主は、クラスメイトのユーマ・サラマンダーさんでした。そしてすぐ後ろに隠れるようにウィルネ・アースさんも困ったような表情で立っていました。
あれれ? この二人が何故ここに? 原作では・・・・・・、ああ、なるほど。原作と違って、兄様がサボっていないから、ここにいるんですね。
「どうかしたのか? マンサラダ―」
「サラマンダーだ!」
「はいはい。で? 皆と先に行ってたじゃないか。どうかしたのか?」
兄様の名前間違い(わざと)で激昂しかけたユーマさんですが、気にとめた様子のない兄様にため息をつくと、何故ここに二人だけでいたのかを話してくれました。
「実はな。さっきの分かれ道で、俺たち以外は左に入ってしまったようなんだ。それでこっちが間違ってしまったのかと不安になっていたところにお前たちが来たというワケだ」
「はぁ~。寝るわ、話がまとまったら起こしてくれ紅焔」
(は、はい)
兄様はさっそく興味がなくなったようで、欠伸を一つして居眠りを始めてしまいました。ユーマさんは突然の居眠りに、唖然となって固まってしまいました。
私は固まるユーマさんを無視して、そばにいたウィルネさんに声をかけました。
「さっきの問題はなんでした?」
「え? えっと、嘘吐村と正直村の話だったかな。これって日帝国に古くから伝わるなぞなぞってやつだよね?」
「ええ。問題は同じということは、ただ単に皆さん間違えたみたいですね。正解はこっちですから」
「あ、こっちで合ってたんだね」
「ええ、そうですね。解説しますと・・・・・・」
「おっと夜刀神妹。正解ならそれでいいんだ。説明はいらん」
固まっていたユーマさんに説明を止められてしまいました。少し頬を膨らませつつ見つめますが、ユーマさんは意に介さずに、第三トラップの立札を指差して訊ねてきました。
「早速なんだが、この第三トラップはどう見る?」
「どう見るとは?」
「いや、この立札にな。『魔法を駆使して扉を開けよ。さすれば道は開かれん』とあるんだ。だが、どこをどう見回しても扉がないんだ。この道は先程の分かれ道ではなく一本道だ。これはどういうトラップになっているんだ?」
ユーマさんの指差す立札を見ると、確かに“扉を開けよ”と書かれてありました。
「ここは閉路トラップですね」
「閉路?」
「試しにユーマさん先に進んでみてください」
「? 何があるんだ?」
「ふふふ。行けば分かりますよ♪」
「むむ。よく分からんが、行けばいいんだな」
「ええ」
「分かった」
ユーマさんは頷くと、一本道になっている道を進んでいきました。そして見えなくなったと思ったら、私たちが来た方向からユーマさんが現れました。ユーマさんとウィルネさんは目を見開いて驚いてしまいました。
「どうなってるんだ!? 夜刀神妹!」
「落ち着いて下さい。ただ魔法で空間が歪曲されているだけですよ。この立札の書いてある通り、扉を開けない限り、前に進むことはできないんです」
「で、でも扉ってどこにあるの? 夕季さん」
「そうだ! というか扉ってなんなんだ!?」
〈葛葉、頼みます〉
(はいです♪)
ユーマさんの怒鳴り声を無視し、私は葛葉に空間の歪曲されている部分を見つけるように頼みました。これは葛葉の能力の一つになります。この世界の狐は、空間を操る魔法を得意としています。その中でも白狐は飛び抜けて空間操作能力が高いんです。だから空間の歪曲されている部分を見つけるのは容易いことですね。
「!!」
葛葉はコ~ンと鳴いて首から飛び出してユーマさんの頭に飛び乗りました。ユーマさんは吃驚して葛葉を退けようとしましたが、葛葉はするりと避けると今度はウィルネさんの肩に飛び乗りました。
ウィルネさんはユーマさんよりは驚きませんでしたが、どうしていいのか戸惑っているようです。
「安心してください。葛葉が、扉・・・・・・、空間が歪曲している部分を見つけてくれます」
「・・・・・・俺の頭に乗った意味はあるのか?」
「ないですよ?」
「おい!」
私はユーマさんの突っ込みを無視して葛葉を見守りました。葛葉~、あなたならちゃんと見つけられますよ♪
第16話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。
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≪用語説明≫
監視カメラ“カメタロウP:
Pはプロトタイプの略。夕季が考案して宋二郎が作製した監視カメラの試作品。どこにでも入り込めることが可能。暗視機能もついている。完全に気配がないため、決して気付かれることがない。
宋二郎は量産するつもりはない。
≪魔法説明≫
狐:
空間を操る魔法を得意とし、しばしば旅人を自分の領域に閉じ込めて悪戯することがある。その中でも白狐は空間操作能力がずば抜けて高く、他狐の空間も操作できるほど。また、空間歪曲察知能力も高い。




