Episode:015 頂上への道
ヒョウガ様、感想ありがとうございます。
お待たせしました。第15話、更新です。
今話は魔斬山登山での出来事です。
では本編をどうぞ。
「さて今日の授業だが、各学年ごと違う道で、魔斬山の頂上を目指してもらう」
〈夕季。サボっていいか?〉
〈ふふふ。駄目です♪〉
〈ちっ〉
「先生。各学年とはどういうことだい? このグループで登るのではないのか?」
刃冶と夕季がテレパシー(精神感応)で会話をしていると、同じグループであるユーマ・サラマンダーが、手を上げて質問する。グランはユーマを一瞥し、二人を含む一年生全員の顔を一通り眺めると、『うむ』と頷いて返答した。
「魔斬山の頂上へは4本の登山道を用いて向かうことができる。それは知っているな? ユーマ」
「1本は一般の登山客が登山を楽しむための道。残りの三本が俺たち魔法実践科の生徒の訓練用の道だと資料には書いてあったな」
「そうだ。そしてこうも書いてあったはずだ。その3本は、それぞれ難易度の異なる道だと」
「・・・・・・ああ。書いてあった」
ユーマの呟きに周りの一年生たちも頷き合い、それを確認したグランは続きを口にした。
「それらの道の難易度は、倍々で違う。そのため、難易度が最も低い道を経験が浅い一年生が、最も高い道を二年経験を積み重ねてきた三年生が登ることになっている。ここで言っておくが、一年生。難易度が最も低い道と言ってもな。一般道と比べたら雲泥の差だ。油断して登山しようものなら、必ず痛い目に会うからな。肝に銘じておけ」
グランは、“難易度が最も低い道”と訊いて嘲笑する一部の生徒をけん制するかのように忠告し、その生徒たちを睨みつけた。その何とも言えない威圧感により、嘲笑していた生徒たちを含む、ほとんどの生徒が直立不動で返事をしたのは言うまでもない。
〈夕季。やっぱりサボっていいか?〉
〈ふふふ。駄目です♪〉
〈はぁ。面倒だ〉
刃冶と夕季は、その威圧感を綺麗に受け流しながら、テレパシーで会話を続けていたのだった。
**********
「まず3年が最初に右側の道から頂上へと向かう。そして5分後、2年が真ん中の道から頂上へ向かう。さらに5分後、1年が校舎裏の左側にある道から頂上へ向かうんだ」
グラウンドから校舎裏の広場へと集合した私たちは、学年ごとに並び直しました。そしてグラン先生が3本の登山道の前に立ち、魔法実践の授業である登山の順番を説明していきます。
ちなみにアースさんと私の戦いで、時間を使ったため多少まきめです。
「では3年。向かいなさい」
『『『『『はいっ!』』』』』
グラン先生の号令によって、3年生は立ち上がると右側の道を登っていきます。
私は睡魔と戦いつつ、お従姉さまが最後尾で手を振りながら登っていくのを見つめていました。兄様は、私の背中に寄りかかりながら眠っています。
私たちが向かうのは、今から10分後ですからね。今は眠っていても問題ありません。
「2年は5分後になったら頂上へ向かいなさい。ただし、予想以上に難しくなっているから、油断などしないように」
『『『『『はいっ!』』』』』
「うむ。よし1年ども。今からお前たちが用いる道の説明をするからな。よく訊きなさい。まず、これは普通の登山ではない。魔法実践の授業だからな。この頂上に向かう道には、魔法のトラップが多数設置してある。それを掻い潜っていきなさい。一人で突破するのもよし。仲間と協力して突破するのもよし。どうするかは自分で考えて行動しなさい」
『『『『『はいっ!』』』』』
今日の登山の説明を終えたグラン先生は、1,2年それぞれの引率の先生方に目配せすると、私たちに『頂上で待っている』と言い残し、左側の道から登って行きました。
〈兄様。行く時間ですよ~〉
〈はぁ・・・・・・、めんどい。よし。サボろう〉
〈ふふふ。駄目です♪〉
それから5分後に2年生が頂上へと向かい、そしてさらに5分後、自分たちの番になりました。
背中で眠っていた兄様を起こした私は、使い魔の葛葉と紅焔と一緒に左側の道から頂上へと向かいました。
*****
「・・・・・・兄様、眠いです。おんぶしてください」
「アホなこと言ってないで、さっさと歩け」
いつものやり取りをしつつ、ゆっくりと歩いていく私と兄様。
同級生たちは皆、100メートル先に進んでいます。
皆さん、早いですね~。
(ユキさま、ユキさま。右方三尺三寸先に鼠発見です♪)
〈ふふふ。食べちゃダメですよ、葛葉〉
(それは残念です~。でも、美味しそうです)
葛葉とも会話しながら歩いていきます。葛葉の声は私しか訊こえていないので、テレパシーで会話しています。魔法で動植物の声を訊くことができますが、わざわざ訊く方はいませんし、兄様は紅焔の声しか訊くことはできません。ですが、兄様に訊かせる内容ではありませんから。
ちなみに私はテレパシーで動植物の声を視聴可能ですが、これは兄様にも内緒です♪
兄様も紅焔と話しているようで、小声でぶつぶつと何かをしゃべっていました。聞き耳をたててみると、どうやら紅焔のことや緋竜のことなどを話しているようでした。それを訊き流して葛葉のモフモフの九尾を堪能していると、前方10メートル先にあるトラップの左方100メートルに敵の動きが見えました。ここでも兄様の能力バレのフラグがあるので、へし折らないといけませんね。
「兄様。あそこにトラップがあるので、気をつけてくださいね♪ 紅焔もですよ~♪」
「ん~」
(了解です。ユキさま)
「じゃあ葛葉~。あなたの力借りますよ~〈前方五間三尺、左方五十五間先に敵です。迎撃しますよ〉」
(はい。ユキさま♪)
私は、兄様と紅焔にトラップの注意だけを促しつつ、葛葉に力を貸してとお願いしました。
葛葉は返事をして『コ~ン♪』と一鳴きすると、霊体へと変化します。それを拳に掌握してトラップを見据えると、狐火を9点発現させました。
「兄様。初めてですので、コントロールできないかもしれないから、離れててくださいな」
「へいへい」
兄様が離れたのを確認した私は、トラップ目掛けて1点、敵目掛けて8点の狐炎を発射しました。すると『ぐわっ!?』という声が森の奥から訊こえてきました。
「あれれ? どうやら人がいたようです兄様」
「そのようだな。まぁ、そいつは先生に任せたほうがいいな。見にいくのは面倒だ」
「ふふふ。では連絡しますね」
「ああ」
寸分違わずトラップと敵に命中したのを確認した私は、霊体となっていた葛葉を元に戻して抱きかかえると、魔法科学研究棟の屋上(関係者以外立入禁止)にこちらを見つめているお祖父様と学園長にテレパシーを送りました。
〈お祖父さま~。見てたんだったら回収お願いしますね~〉
〈分かっている。今、手配した〉
〈ふふふ。ではでは~〉
〈ああ〉
お祖父様とのテレパシーを切ると、面倒そうに破壊されたトラップを眺めている兄様を見つめました。
視線に気付いた兄様はゆっくりとこちらを見つめ返してきました。
「あいつは大叔父の差し金か?」
どうやら兄様にもあの方にわざと当てたのを見破られたようです。まぁ、別に隠す必要はないため兄様の質問に答えるとしましょう。
「ふふふ、違いますよ~」
「そうかい。まぁ、別にいいけどな。正直、俺は夜刀神家当主の座なんてどうでもいいんだがな。というか従姉さんがなればいい」
「ふふふ。兄様らしいですねぇ。ですけど、お従姉さまは絶対ならないと思いますよ~」
「はぁ。俺もなる気はないと言ってんだがな。なんでこんな七面倒くさいことすんのかねぇ?」
「ふふふ。あの方たちの頭は、私たちには分かりませんよ」
「まぁいいや。考えるのがめんどい。さっさと頂上へと行くぞ」
「はい♪」
私は空にウィンクをしてから兄様のあとを追い掛けました。
神郷の叔父さま、決して兄様の能力を探らせませんから、そのつもりでいてくださいね。
**********
「・・・・・・・・・・・・」
ここは夜刀神家が出資する魔法科学研究所のとある研究室。そこに難しい顔をした男性が、パソコンの画面を凝視していた。その画面には、こちらをウィンクした夕季の姿があった。
その時、研究室の扉が開けられる音がした。入ってきたのは白衣を着た女性。その女性は男性に近づくと、肩越しからパソコンの画面を覗きこんだ。
「あら~? 夕季ちゃんにバレちゃったかしら」
「いや、バレてはいないはずだ。細心の注意をしているからな。これは偶然だ」
「そうかしら? まぁ、辰弥がそう思ってるんだったらそれでいいけどね」
「ちっ。何か用なのか? 麻耶」
辰弥と呼ばれた男性は、睨みつけながら女性を麻耶と呼び、ここに来た用件を訊いた。麻耶と呼ばれた女性は『怖い怖い』と言いつつ、持っていた書類を辰弥に手渡した。
「姫川所長が確認しろだって、神郷辰弥“副”所長」
「副所長と呼ぶな!!」
「そんなに怒んなくても良いんじゃない?」
「うるさい! 書類をそこに置いて出ていけ!」
「はいはい。神郷麻耶は出ていきますよ~。辰弥副所長」
「副所長と呼ぶな!」
「はいはい」
辰弥は麻耶が出ていった扉をしばらく睨みつける。そして舌打ちをすると、書類を引っつかみ内容を読んでいく。
「麻耶め、今に見ていろ。絶対、副所長から所長になってみせるからな。しかし、そのためには姫川を引きずり落とさなければならない。その手段はもう決めてあるが、夜刀神刀冶の実力を調べなければ前には進めない。必ず調べあげてやる」
そう呟いて書類に自分の印を押した辰弥は、パソコンを閉じて部屋を出ていった。その様子をある人物が見ていたのを気付かずに。
第15話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。
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≪魔法説明≫
使い魔:
使い魔は霊体となり、契約主と同化することができる。同化した契約主は使い魔の魔法を自らの魔力で使用可能となる。
葛葉:
一万年以上の年月を生きた白狐が化生した九尾の狐。ありとあらゆる人語を理解し話すことができるが、当の本人は喋るのが嫌い。火系魔法と水系魔法が得意。
狐火:
九尾それぞれに魔力を集束させて、炎を放つ九尾狐のみが使える攻撃魔法。
威力は火焔と同等。詠唱を必要としない。




