Episode:011 翌朝
レフェル様、ヒョウガ様、感想ありがとうございます。
第11話、更新しました。今話は入学式の翌朝の話です。
では本編をどうぞ。
色々なことがあった入学・入寮の日の翌日。私は食堂での朝食作りを終えて、兄様と学園に向かっていました。
「今日は何があったっけか? 夕季」
「午前は魔法実践で、グループ分けと先輩方との顔合わせ、昼食後はホームルームですよ」
「魔法実践か・・・・・・、面倒だな」
「ふふふ。そう言うと思ってました」
私は会話をしながら、違う事を考えていました。
僅かに辺りの気の流れが変わったのに気がついていたからです。おそらくこれは・・・・・・。
「・・・・・・兄様。私、ちょっと忘れ物をしてしまいましたので、先に行ってください」
「ん? お前が忘れ物なんて珍しいな。まぁ、お前も普通の人間だからな。忘れ物もするか。じゃ、先に行ってるから。遅刻するなよ」
「ええ」
兄様はそう言うと学園へと向かっていきました。私はそれを見送ると、顔を引き締め気の流れが変わった原因の場所へと向かおうと踵を返します。
「葛葉は付いてこなくても良いのですよ?」
(私はユキ様の使い魔です。どこにだってついていきます)
「ふふふ。じゃ、行きましょうか」
(はい)
葛葉を従えた私は、街道をそれて森の中に向かいました。
兄様や学園に仇なす者は、私が決して許しません。だれも逃がしはしないので、覚悟していてくださいね大叔父様・・・・・・。
**********
魔斬島は、魔剣学園の所有地以外すべて夜刀神家の所有地である。
その魔斬島には、魔斬山という山があり、そこは魔剣学園の名義である。しかしここ魔神洞という洞穴だけは夜刀神家の所有地であるため一般人は立入禁止になっている。
その魔神洞に数人の男たちを従えた、見た目30代の狼人族の女(以下、女)が姿を現した。女たちは辺りを見回しつつ洞穴内へと入っていく。
光を発する苔のお陰なのか明かりをつけなくても明るい洞穴内を女たちが慎重に進んでいくこと数十秒、開けた場所にでた。
そこには一人の男が座って待っており、女たちに気付き顔を向けて、座ったまま口を開いた。
「例のものはもってきてくれたかね?」
その男の顔は夜刀神刃秦とそっくりな顔形をしていた。違いといえば、刃秦は厳しさと優しさをあわせもつ雰囲気だが、男には横柄な雰囲気しかないところだけだろう。
男の名は夜刀神刀彌(以下、刀彌)。刃秦の弟で、刃冶と夕季の大叔父にあたる人物である。
「ご依頼通りのものが手に入りましたよ。今、手筈通りに島の裏側から運んでおきました」
「ふっ、そうか。あれがあれば刃秦を追いだし、私が夜刀神家当主になれる」
刀彌は向かいに座った女の言葉に不敵な笑みをこぼした。
向かいの女も笑みを浮かべる。その女を守るように立っている男たちもつられて笑みを浮かべていく。
そして女は妖艶な表情で口を開いた。
「その暁には・・・・・・、分かっておりますね?」
「ああ、分かっておる。君たちに魔剣学園を任せよう」
「ふっ。それならば良いのです。では、手筈通りに」
「ああ。よろしくたの――(それを私が許すとでもお思いですか? 大叔父様)!?」
刀彌と女が席を立とうとした時、どこからともなく夕季の声がした。刀彌は、ここにいないはずの夕季の声に驚いた表情をする。
女や男たちもその声の主を見つけようと辺りを見回していくが、一向に夕季の姿を見つけることができないでいた。
「「「「「ぎゃああああああっ!!」」」」」
「お前たち!?」
その時、女を守っていた屈強な男たちが全員を叫び声をあげて、地面に倒れ込んだ。その様子に女が驚愕の表情をした。
それ以上に驚愕の表情をしていたのは刀彌だ。男たちが倒れたのを見て、本当に夕季がその場にいるのが分かったからだ。
「ゆ、夕季!? お前がなぜ!?」
「そんなことはどうでもよろしいじゃないですか。問題は大叔父様がやろうとしていることです」
「お、女の子・・・・・・?」
ようやく姿を現した夕季の姿に、女は呆気にとられていた。なぜなら自分を守る男たちを倒したのが、こんな年端もゆかぬ少女であると知ったからである。
夕季はそんな女を無視して、自分の大叔父である刃彌を見つめていた。その表情は、いつもの穏やかな雰囲気のものではなかった。誰もが凍りつくような冷たい表情をしていたのだった。
*****
夕季が魔神洞で刀彌と対峙している頃、刃冶は魔剣学園の昇降口で康海と会っていた。
「夕季はどうしたの? 刃冶」
「忘れ物をしたんだと。寮に戻ってる」
「・・・・・・あなた、それを信じたの?」
「信じるも何も、夕季が忘れ物と言ったんだ。忘れ物だろう?」
刃冶は康海が何を言ってるのか分からないという表情をしながら靴をはき替えた。
康海はため息を吐くと刃冶に詰め寄り声を荒げた。
「何を言ってんのよ! 夕季が忘れ物をするわけがないじゃない! 刃冶は気にならないの!? 夕季が何をやってるのか!?」
「うるさいなぁ。夕季を気にすること自体、馬鹿げているんだよ」
「あっ! ちょっと刃冶!?」
刃冶は頭をかきながら康海を受け流して、昇降口を後にし教室に向かった。そして康海が怒鳴るのを聞きながら呟いた。
「夕季が俺に内緒にするのは、俺たちのことを想ってやってることなんだよ。だから気にしない。というか気にするのは面倒だ。なぁ? 紅焔」
(はい)
肩に乗っていた紅焔が刃冶の言葉に頷く。
刃冶は笑みをこぼすが、すぐにいつものやる気のなさそうな表情をする。そしてどこからか取り出した餌を紅焔に与えて、教室に向かったのだった。
**********
「よろしくお願いしますね。家城」
「はっ!」
現・夜刀神家施設ボディーガード集団“YATOK”のリーダー、家城裕也に気絶した大叔父様とクズたちを引き渡した私は、フィジカル・レインフォースメント(身体強化)をして学園へと向かいました。
(ユキ様、あれで良かったのですか?)
「・・・・・・急ぎますよ葛葉」
(はい)
私は葛葉の問いに答えずに、スピードを上げます。
心配ありがとうございます葛葉。でもいいのですよ・・・・・・、大叔父様は10年前の罪があるのですから。
*****
「遅かったな夕季」
「ふふふ。ちょっと机の奥に入り込んでいましたから。あ、そうそう。あの方はくっかかってきてませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
朝のホームルーム前に到着した私は、兄様の後ろの席につきました。あの方のことを訊ねますと今日は休みとのことです。どうやら昨日のトーナメントで自分の魔法でやられて、相当ショックだったみたいです。
「お~い、席につけ。ホームルームを始めるぞ」
その時、副担任のミゲル先生が入ってきました。そして喋っていた生徒たちが席に着いたのを確認した先生は、兄様と私をお呼びになりました。
「これは使い魔用の席だ。後ろに付けるように」
「はい」
「へ~い」
私たちは返事をし席に戻って、葛葉と紅焔をその席に着かせました。それを確認した先生が、ホームルームを始めます。
「先生。ニーナ先生はどうしたんですか?」
「ニーナ先生は別の仕事があるので、朝のホームルームは私が行うことになっている」
ミゲル先生はウィルネさんの質問に答えると、持っていた端末に触れ後ろに魔法陣を展開させました。そこには今日の授業について表示されていました。
「午前は魔法実践だ。グループ分けと2,3年生との顔合わせをしてもらう」
「戦闘服には着替えるんですか?」
「ああ。魔法実践の時は必ず戦闘服着用だから忘れずにな」
ユースさんの質問にミゲル先生が答えると、一部の方々がわざわとなってしまいます。どうやら戦闘服を忘れたようですね。
あ、私と兄様は大丈夫ですよ。ちゃんと持ってきてます私が。
「たくニーナ先生が昨日言ってただろ?」
『『『『『すいませ~ん』』』』』
「ふぅ。まぁいい。毎年のことだからな。予備があるから忘れた者は教員室にくるように」
『『『『『は~い』』』』』
ミゲル先生は呆れながらもちゃんと予備あるという事を伝えます。
昨日、ニーナ先生が念を押したはずなんですが・・・・・・・、聞いていなかったんですかね?
「昼食後にホームルームで今日は終わりだ。じゃ、今日の必要事項はこれまで。ユース。号令よろしく」
「え? 俺っすか?」
「ああ。ホームルームで決まるまでだ。よろしく」
「ういっす。起立!」
ミゲル先生に頼まれたユースさんが号令をかけます。そしてミゲル先生も礼を返し教室を出ていきました。
その後を戦闘服を忘れた生徒たちが数人ついていくのを見送り、私は兄様に戦闘服を渡しました。
「面倒だから、さぼるというのはダメか?」
「ふふふ。ダメです」
「ちぇっ」
「ふふふ。じゃ、私は更衣室にいきますので、ちゃんとグラウンドに来てくださいよ」
「分かってるよ」
私は兄様に念を押してから葛葉とともに更衣室に向かいました。
(刃冶様はちゃんと来るでしょうか?)
「ふふふ。来なくても居場所は分かりますから大丈夫ですよ」
(ああ。それなら安心ですね)
「ふふふ」
第11話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。
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