Episode:010 入寮式 裏
レフェル様、ヒョウガ様、感想ありがとうございます。
第10話、更新しました。今話は夕季と刃冶の話となります。
では、本編をどうぞ。
〈・・・・・・夕季〉
〈どうかしましたか? 兄様〉
寮への帰り道。葛葉のフワフワの体毛を堪能しながら歩いていると、兄様に呼ばれました。兄様は肩に乗っている紅焔にエサ(どこから取り出しているのかはヒ・ミ・ツ♪)を与えながら遠くを見つめていました。
これは・・・・・・。
〈アレがでるようですね、兄様〉
〈あぁ・・・・・・、北に500km、西に1200km付近だ〉
兄様には、魔法が使えない代わりに特別な能力があります。これもその1つで、アレの出現場所などを察知することができる能力です。
特異な能力をもつ兄様は、全世界の政府にとって喉がでるほど欲しい存在です。しかしそれを知られれば、親戚のクズどもや金の亡者どもの餌食になりかねません。
だから私がそのフラグをへし折ってやります。どんな手を使ってでもね。ふふふふ・・・・・・。
〈どうした? 夕季〉
ちょっと考え事をしていたら、兄様に心配されてしまいましたね。失敗失敗。
〈いえ、大丈夫です。なんでもありません。で、兄様。今回はどうしますか?〉
〈そうだな。正直面倒この上ないが、場所が場所だけに今回は浄化しに行ってくるかな〉
気を取り直して兄様に訊ねると、今回は行くことにしたみたいです。兄様の言う通り出現場所があそこですから、仕方がありませんね。
あ、私は行きませんよ。兄様の足手まといにはなりたくありませんから。それにもし兄様が危険な状態になったら私が助けにいかれる仕掛けがありますし大丈夫ですよ~。
「みんな~。私は打ち合わせがあるから先に行くわ。あ、そうそう。あと30分後に入寮式があるから、遅れないように3階の多目的ホールに集合してね。じゃ、また会おうね~」
寮についた時、先頭を歩いていたお従姉様が振り返ってそう言うと、管理人室と食堂に通ずる階段の間にある通路に消えていきました。
案内図を確認すると、その通路の先には会議室があるようですね。
〈夕季。行ってもいいか?〉
〈はい。皆さんには見えないようにしましたので、大丈夫です〉
トランスペアレントイズ(透明化)で兄様と紅焔の姿を消した私は、玄関前で兄様と念話しながら、皆さんがそれぞれの部屋に向かうのを待ちます。
〈じゃ、行ってくるわ〉
〈はい。お気をつけて〉
〈ああ(シュッ)〉
ロビーに人がいなくなったと同時に、私が兄様のために作製したテレポート(瞬間移動)機能搭載の腕輪で、アレの出現場所に向かっていきました。
それを見送った私は、葛葉を抱きしめると夕食の仕度で食堂に行くため管理人室に向かいます。
ああ、そう言えば食堂を開ける時間が入寮式の時間と被っていますし、入寮式には出られませんね。まぁ寮則などは全て覚えてますし、寮則には“新入生は入寮式にでなくてはならない”とは書かれてませんから、出なくても大丈夫ですね。さて、夕食も頑張りますか~。
**********
魔剣学園から北に500km、西に1200km付近には、世界のどの国の領土ではない無人島が存在する。その島の名はエレクトロリア島。
世界六カ国安全宣言制定後、締結された世界六カ国平和協定にこのように定められている。
《エレクトロリア島の領有権は神に依存し、日帝国、チグラテス国、ドラゴロル国、ドーム国、オデット国、ワーフル国はそれを放棄する》
このような協定がなぜ締結されたのか。
理由は定かではないが、背景には六カ国に言い伝えられている島の伝説があるのは確かである。
では、その伝説とはどういものなのだろうか。
その伝説とは(ギャアギャア! ギャアギャア!)――どうやら島になんらかの異変が生じたらしい。
「あ、あれは・・・・・・!!」
ここにもう一人、島の異変を察知した者がいた。
その者の名は青葉瑠璃。エレクトロリア島周辺水域を巡回していた国際防衛部隊1番艦『エレクトロリア』の艦長である。
「ヘルドール! EI-SCM(エレクトロリア島にスカルミューテーション出現)よ! 至急、本部に連絡!」
「はっ!」
瑠璃はエルフ族の通信士、ヘルドール・パパイアに指示を出すと、指をパチンと鳴らし艦内スピーカーのスイッチを入れた。
『EI-SCM。総員、戦闘準備。陸戦班は1分後に転送室へ集合』
非常事態コールの後、艦内に瑠璃の声が響いた。その声により、艦内全ての隊員が素早く動き出した。
そして1分後には、全ての戦闘準備が完了していた。
『エル。あの島は世界にとってなくてはならないもの。被害を最小に抑えなければならないわ。分かってるわね』
「分かってるよ艦長。では、陸戦班。SCM討伐任務に行ってくる」
『ええ。お願いね』
転送室に整列した陸戦班。その班長であるウルフ族のエル・マージャルは、瑠璃と二、三言葉をかわし通信を切った。
そしてスカルミューテーション討伐のため、整列した部下達とともにエレクトロリア島に向かった。
**********
夕季が作製した腕輪で、アレの出現場所の島に転移したのは良いが、転移座標がちょいズレて地上5mあたりについてしまった。
当然、地上におちる俺。
「よっと。いや~。失敗失敗」
(主様、大丈夫ですか?)
「ああ、大丈夫だ」
心配しながら肩に乗ってきた紅焔の頭をさすりながら、紫色の月から現れようとしているアレ・・・・・・、スカルミューテーションを見つめていく。
ああ。全然関係ないことを言うが、紅焔は厳密的にはしゃべってるわけではない。夕季曰く、獣型生物を使い魔にした者は、本来可聴域ではない獣型生物が発した周波数でも、言葉として認識することができるようになるらしい。原理は分からん。めんどくさいから訊いてないからな。
(主様。今のうちに攻撃してはダメなのですか?)
「ん? ああ。あの状態で攻撃すると、アレが分裂してしまうんだ。原理は分からんがな」
紅焔が当然の疑問を口にしたので、攻撃を加えない理由を説明する。
ここに夕季がいたら非常に分かりやす原理から説明してくれるだろうが、まぁ後で夕季にでも訊いてくれ紅焔。
『ミューズ隊。包囲結界展開!!』
アレが完全に現れたと同時に動こうとした時、誰かの声が訊こえてきた。素早く島の固有種である大木の枝に跳びあがって、様子をうかがう。
「軍の連中か・・・・・・」
大木の合間から見え隠れする軍の制服を注意深く見つめる。
どうやらアレを囲んで、結界で閉じ込めようとしているようだな。
「結界が甘いようだな。あれだとすぐに瘴気がもれだす」
(そ、それは大変じゃないですか!? 助けないと!)
「大丈夫だ。軍はそれほど馬鹿じゃない。何か考えがあるんだろうよ。それに軍には俺の存在を隠しておきたいからな」
軍の連中には死角となる高さの枝に腰を下ろした俺は、紅焔と会話をしながらアレの戦闘を見つめる。
やはり結界の甘いところから瘴気がもれだしていく。それを読んでいたかのように、第2陣が現れ結界を展開した。瘴気を閉じ込めた結界は、内側の結界と結合する。
「二重結界で、強化か。さすがは軍といったところか」
(でも閉じ込めただけでは、倒したことにはなりませんよ?)
「まぁ見てろって。ほら」
俺の指差す先には、第3陣の軍の連中がアレに向かって魔法を仕掛けようとしていた。
**********
「「「「「凍てつく暴風はかの者の熱を奪いて全てを凍らせる」」」」」
第1陣・ミューズ隊、第2陣・エル隊が結界を維持している中、第3陣のバミューダ隊が複合型風系魔法“凍風氷嵐”を放った。
その魔法が直撃し徐々に凍り始めるが、スカルミューテーションは意に介した様子がなく、瘴気を撒き散らしながらバミューダ隊を蹴散らしにかかった。
バリバリバリバリバリ!!
しかし、バミューダ隊が素早く結界の外に退避したため、その攻撃は二重結界に阻まれてしまった。
「「「「「凍てつく暴風はかの者の熱を奪いて全てを凍らせる」」」」」
結界に阻まれスカルミューテーションが後退した隙をついたバミューダ隊は、素早く結界内に移動すると“凍風氷嵐”を更に放つ。
凍りつく速度が上がるが、スカルミューテーションはなおも意に介さない。カタカタと、のど?を鳴らしバミューダ隊を睨みつける(実際には目玉がないので、見ているかどうかは分からない)
そして口を開けると、バミューダ隊に瘴気の塊を吐きだしていく。
バン! バン! バン! ピキッ、ピキピキッ。
瘴気の塊の三連弾により結界の一部にヒビが入るが、すぐに修復される。結界にヒビが入るのは想定内だったようである。
「「「「「凍てつく暴風はかの者の熱を奪いて全てを凍らせる」」」」」
三連弾の瘴気の塊により結界内の瘴気濃度が高くなっている中、バミューダ隊は三度目の“凍風氷嵐”を最大出力で放った。
更に凍りつく速度が上がって、スカルミューテーションはついにその動きを止めてしまった。そしてピキピキピキと身体全体が氷漬けになってしまった。
「「「「「地獄の業火は全てのものを焼き尽くす」」」」」
バミューダ隊は結界の外に退避すると、結界内に向け複合型火系魔法“獄焔”を放った。
すると結界内に充満した瘴気と反応して、ドン!と大爆発が起こる。その爆発により粉々に砕かれるスカルミューテーション。
結界を展開していたエル隊とミューズ隊は結界を徐々に縮小して、ついにはスカルミューテーションの残骸ごと消し去ってしまった。
そのことにより、陸戦班vsスカルミューテーションの戦闘は終わりを告げた。
**********
(すごいですね~)
「まぁ、軍の連中はアレとの戦闘のために訓練しているからな。1体だけなら簡単に倒せるよ」
アレとの戦闘が終了して、2人の見張りを残し軍の連中が引きあげていくのを見つめる。そしてその2人以外誰もいなくなったのを見計らって、静かに飛び下りると懐からある物を取り出す。
(主様。それはなんですか?)
「これか? これは夕季が作製した仮面だ。原理は分からんが、この仮面を被ると、相手に認識されなくなるらしい」
俺はそう説明し仮面をかぶると、紅焔を制服の胸ポケットに入れる。
肩に乗せてたら振り落とす可能性があるし、飛んでたら見つかる可能性もある。ここの方が安全だ。
「まずは・・・・・・(シュッ)」
「ぐっ!?」
「おい。どうし――ぐふっ!?」
今からやることを見られるわけにはいかないため、まずは見張り2人を気絶させた。そして俺は、戦いの跡地の瘴気腐敗で朽ちてしまった大木が転がっている広場の真ん中まで移動する。
(主様。どうするのですか?)
「こうするんだ」
俺は地面に手を触れると、しみ込んでいる瘴気を吸収・浄化していく。
これは生まれつき身に付いている能力の1つで、アレの様な生物が撒き散らした瘴気を吸収して、浄化することができる能力だ。
まぁ、いつもは面倒くさいから軍に全てを任せているが、今回は特別だ。この島は俺と夕季にとってかけがえのない場所だからな。
「よし。浄化完了」
(お疲れ様です主様)
「ああ」
胸ポケットの紅焔の頭を撫でていると、見張り2人が起きだしてきた。
「騒がしくなる前に帰るぞ」
(はい)
最後に空に広がる星を見つめた俺は、学園寮の自分の部屋に座標を指定し転移していく。
その時、あいつの声が聞こえた気がした。ふっ。後はよろしくな緋竜。
**********
〈夕季~。終わったぞ~〉
〈お疲れ様です兄様〉
葛葉を雪絵に預かってもらって、食堂という戦場で戦っていると兄様から終わったとの報告がありました。私は料理を次々に作りあげながら、兄様を労いました。
〈緋竜には会いましたか?〉
〈いや。軍がいたからな〉
〈そうですか。残念でしたね〉
〈ああ。だが、声は聞こえたから元気は元気だろうよ〉
〈ふふ。それは良かったです〉
緋竜は兄様が向かった島の守り神みたいなものです。緋竜との出会いというのは(おばちゃん。Aセットご飯大盛り、まだ~?)――おっと、手が止まっていたようですね。まずはこの戦場を駆け抜けることにしましょう。
〈では兄様〉
〈ああ。俺も着替えたら食堂に行く〉
「〈ええ〉ごめんよ、待たせて。はい。Aセットご飯大盛りね」
「ありがとう」
兄様との念話を終えた私は料理を再開しました。
ふふ。入寮式が終わったようですね。では、ちょっとスピードアップで行きますよ~♪
「おばちゃん。僕は――」
「はい。Bセット」
「はやっ!?」
第10話をお読みくださいましてありがとうございます。また、誤字・脱字報告や感想・質問などのコメントをお待ちしております。
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≪魔法説明≫
結界:
数人の魔力を基に魔法膜を展開する複合型補助魔法。二重、三重にすることで防御力が強化される。
詠唱『聖なる糸は何人も通さぬ膜となる』
凍風氷嵐:
数人の魔力を基に最大冷気を帯びた風を放ち、相手を氷漬けにする複合型風系魔法。
人数によって威力が変化する。二回、三回と放つと氷漬けの速度が上がる。
詠唱『凍てつく暴風はかの者の熱を奪いて全てを凍らせる』
獄焔:
数人の魔力を基に最高温の炎をつくりあげ放つ複合型火系魔法。
人数によって威力が変化する。
詠唱『地獄の業火は全てのものを焼き尽くす』




