おバカな王子に婚約破棄されたので、隣国の竜帝陛下にモフモフをお返しします
「エレノア! 貴様との婚約を破棄する!」
王宮の晩餐会。きらびやかなシャンデリアの下で、婚約者である第一王子・カイルが叫んだ。
彼の傍らには、いかにも庇護欲をそそる風貌の男爵令嬢、マリアが寄り添っている。
「私は真実の愛に目覚めた! 聖女であるマリアをいじめ、命まで狙った嫉妬深い悪役令嬢など、我が妃にふさわしくない!」
周囲の貴族たちがざわめく。
カイル王子は勝ち誇った顔をしているが、私はため息をこらえるのに必死だった。
(やっと、この泥舟から降りられる……!)
私は公爵家の令嬢、エレノア。
これまで無能なカイル王子の尻拭いをし、傾きかけた国の財政を一人で支えてきた。
マリアをいじめた? 逆である。彼女が書類を紛失するたびに、私が徹夜で補填していたのだ。
「……分かりました。婚約破棄、謹んでお受けいたします」
「ふん、殊勝な態度だな! 罰として貴様は国外追放だ!」
「お言葉通り、今すぐこの国を出ていきますわ」
私は優雅に一礼し、ドレスのポケットから「一匹の小さなトカゲ」を取り出した。
緑色の鱗を持つ、手のひらサイズの可愛いトカゲ。私が数ヶ月前、庭でケガをしていたところを保護した子だ。
「これでお役御免ね。おうちに帰りましょう」
私がトカゲの頭を撫でると、トカゲの体が突如、凄まじい光を放った。
『――ふむ。ようやくこの退屈な茶番が終わったか』
光の中から現れたのは、漆黒の髪と燃えるような瞳を持つ、圧倒的な威圧感を放つ美青年だった。
その背後には、巨大な竜の影が揺らめいている。
「ひっ、ひいいいっ!?」
カイル王子が情けない声を上げて腰を抜かした。貴族たちも恐怖で震え上がる。
彼はただのトカゲではない。
世界最強の軍事力を誇る隣国「ドラゴニア帝国」の皇帝であり、世界に数人しかいない本物の竜王、アルベルト陛下だったのだ。
「あ、アルベルト陛下……!? なぜ我が国の晩餐会に……!?」
カイル王子がガタガタと震えながら問いかける。
アルベルト陛下は冷酷な視線をカイルに向け、冷たく言い放った。
「我が身を隠してこの国を視察していたが、噂以上の愚国だな。優秀なエレノアを虐げ、あまつさえ追放するとは。彼女が我が国に納めていた『結界の魔石』がなければ、この国は明日にも魔獣に滅ぼされるぞ?」
「え……? 結界……? エレノアが?」
カイル王子が呆然と私を見る。
そうなのだ。この国の平和を守る結界は、カイルの給料ではなく、私の魔力と実家の財力で維持されていた。
私が追放されれば、結界は即座に消滅する。
「エレノア、約束通り、私を救ってくれた褒美をやろう。我が国の『皇妃』として、私を毎日モフモフする権利を授ける。……どうだろうか?」
さっきまでの冷徹な表情が嘘のように、アルベルト陛下は優しく微笑み、私に手を差し伸べた。
時折、嬉しそうに竜の尻尾が背後で見え隠れしている。可愛い。
「喜んで、お供いたします」
私がその手を取ると、アルベルト陛下は私を横抱きにし、そのまま窓から夜空へと飛び立った。
背後からは、「待ってくれエレノア! 嘘だろ、結界が割れていくぞ!?」というカイル王子の絶望した叫び声が聞こえたが、私は二度と振り返らなかった。
その後、王政が崩壊した元婚約者の国がどうなったかは、知ったことではない。
私は今、隣国のふかふかのベッドで、大好きな竜帝陛下(時々トカゲサイズ)を思う存分モフモフしながら、最高に幸せな毎日を送っている。




