卒業アルバム製作委員会
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十月も終盤、少しずつ冷気を感じられる気候になってきた某日、僕のクラスではロングホームルームが行われていた。
「今日は卒業アルバム制作委員を決めたいと思います。希望制で、基本的に一クラス4名ほどです」
教室がざわめく。
「卒アル委員かー」
「どうしようかなぁ」
戸惑いの声が上がる。部活動も引退し、これから受験に向けてラストスパートという時期に、昼休みや放課後の時間を使う委員会活動は中々厳しいものがあるからだろう。特に、僕達の在籍するクラスは進学クラスだ。一般受験組が多いのもあり、普通のクラスより消極的になるのも無理はあるまい。そう思っていた時だった。
「あの」
そう言って手を挙げたのは、クラス中での成績はトップの青木君だ。
「スポンサーはどこなんですか? 」
スポンサー?この話し合いではどう考えても出てこないであろう単語が聞こえてきた。
「現在交渉中ですが、年が明けるまでには確保する予定です」
ちょっと待て。なぜ交渉が進んでいるのだ。というか、進行役の学級委員長はこの状況に困惑していないのか。辺りを見渡すと、クラスの面々は戸惑う訳でもなく真剣に話を聞いている。
「そうですか。クラスの予算的にはクイーンレコード、アネプレックス、角山などがいいと考えています。」
青木君が答える。そもそもアルバム制作なのにアニメ会社に頼むこと自体畑違いなのではないか。さらに、上がった会社はどこも有名どころばかりである。もしかすると、六月に開かれた生徒総会の会計報告結果が異常に高額だったのはこのためだったのか。
「いいねー」
「ワクワクしてきた! 」
クラスメイト達はこの状況に違和感を覚えていないらしい。元々独自の感性を持った人々が集まったクラスだったのだろう。そうこうしているうちにまた一人、手を挙げる。
「主題歌はどうするんですか? 」
この質問が出た時点で僕の中での答えは出ていた。この人たちは卒アル制作委員会をアニメか映画の製作委員会と混同している。主題歌なんてどうやって公開するのだ。初回特典でCDを付録にするのだろうか。それ違う方のアルバム。
「こちらは本校軽音部のバンドと交渉成立済みです。十一月にはミュージックビデオの撮影が始まる予定になっています」
委員長が言った。なるほど、だから最近放送室が騒がしかったのか。機材を運び出していたのだろう、と、今更合点がいった。
「ポスターとフライヤーは」
「美術部が担当します」
「編集は」
「映画研究部が」
「物販は」
「生徒会中心に進める予定です。現段階で、トレーディング缶バッジ、アクリルスタンド、オリジナルドリンクを販売する予定になっています。前売り券購入で色紙プレゼントの案も出ています」
思った以上にしっかりとした計画が出ている。ランダムの缶バッジだのアクリルスタンドだの、一クラスに三〇人はいるこの学年でやったら確実にコンプリートが困難になる。どこかで交換、転売される未来は確定だ。僕は幾らで取引されるのだろうか。そう考えた瞬間、このシステムの残酷さを感じた。ここまで世の中でのカーストを決定付けるものもあるまい。あと卒業の色紙は先生に渡すものなのでキャンペーンで配るのはやめた方がいいと思う。
「そこまで学校内で工面できるならスポンサーいらなくないですか? 」
そういいながら挙手したのはクラスの中心的女子、木下である。僕の缶バッジ一〇枚分ほどでようやく彼女の缶バッジ一枚が取引されるであろう、そんなキラキラした存在だ。それはさておき、その質問には僕も同感であった。そもそもスポンサーを呼んで何をしてもらうつもりなのだろうか。大体の仕事は生徒会が担っているように思えるが。
「あくまで学校で工面できるのは主題歌、フライヤー、編集までです。特に生徒会の仕事の大半は〈案を出す〉ことであり、実際の企画はスポンサーと共に話を進めていくことになります」
思わず、ほぉ、と声が出た。今までアニメや映画がどのように公開されて販促されていたのかよく知らなかった。もしかしたらこれは、ただのおかしな企画なのではなく、大事なマーケティングの勉強の一環として行われているのだろうか。そんな気さえしてくる。
その後も話し合いは続いていった。
十一月七日。
いよいよ軽音部による主題歌のレコーディングが始まった。今回のコンセプトはもちろん「卒業」である。桜の風景を思わせる歌詞だからか、上下灰色のスウェットを着込んできた部員が数名居たが、後に着替えさせられていた。
まずは空のカットから始まる。秋晴れは確かにビデオ映えするなあ、なんて思いながら公開収録を眺めた。桜は咲いていないので合成とフリー素材で何とかするらしい。素材透過の過程で映画研究部の部室から悲鳴が聞こえてきた、というのが噂になったのは数日後のことだった。
十二月十三日。
生徒会とスポンサーでの会議がまとまり、我々はグッズに着手し始めた。缶バッジの写真は卒業アルバムのものを流用するらしい。そのためか、例年より撮影時での女子の気合の入り方はすさまじかった。
オリジナルドリンクは、一学年全員分を販売することができないので、一人一つフレーバーの案を出した中で投票し、当選した五人のものを採用する形になった。木下はかなり苦心していたそうだが、その甲斐あって見事当選していた。ちなみに味はブルーハワイ&レモンのソーダに、星形のナタデココを入れたものである。確かに爽やかな彼女にピッタリでいて人気の出そうなものだ。彼女はソーダのように爽やかな笑顔を見せていた。
一月七日。
冬休みが明けて二日目の朝に美術部と漫画研究部合作のポスターが完成した。冬休み中にできるだけ進めていたおかげで何とか完成したらしい。
軽音部もそうだったが、部活に任せられた企画は、三年生に受験がある手前、二年生が主体的になって進めなければならない。必死に作業を進めている後輩たちの成長と、三年生をしっかり送り出したいという気概に、バドミントン部である僕までなんだか感動した。
卒業式当日。
いよいよ当日。会場は本校体育館だが、外には展示スペース、物販スペースが設置されており、華やかな会場になっていた。地域の人や来年度に入学してくる中学生などで予想外の盛り上がりを見せていたが、式典中はさすがに厳かな雰囲気が会場を包み込んでいる。
式は滞りなく進行し、いよいよ木下による答辞だ。
「答辞。木下さなえ」
「はい」
木下は壇上に上がって一礼したのち、ステージの真ん中にある机の前で言葉を紡ぎ始めた。
「桜の蕾が膨らみ、日差しの中に春のあたたかな陽気を感じられるようになった今日の良き日。私たち三四二名は、○○県立〇〇高等学校を卒業します。思えばこの三年間、沢山のことがありました。勉強や進路で先生と共に悩んだり、部活動で結果が出た時に友人と喜びを分かち合ったり、後輩への指導について考えたり……。しかし、その一つ一つが私達を成長させてくれました。
また、本校の学校行事では、クラスメイトや、クラスの垣根を超えた友人との交流ができました。修学旅行や文化祭、体育祭や合唱祭。たくさんの思い出があります」
聞いているうちに、懐かしさと感慨深さがこみ上げてきた。文化祭のお化け屋敷では僕がやったお化けだけはなぜかウケなかった。昔亡くなった親戚のおじいちゃんの写真を使ったからだろうか。
合唱祭では、定番の流れともいうようなクラス内での揉め事が起きた。
あれは課題曲に「大地讃頌」、自由曲に「大地の歌」に決まりそうな時のことだった。男子の一部が「曲目が大地すぎる」と言って反発し始めたのだ。その意見に対しては肯定も否定も半々という感じであったが、まあまあ長く争っていた気がする。「曲のテイストは対照的だから別にいいのでは」「あとでネタにされる」「担任の名前が大地だからいいだろう」と、様々な意見を交わした結果、曲の変更は無しになった。決まってしまえば、反対意見も鳴りを潜め、クラス一丸となって合唱祭に向けた練習に励んだ。
ほかにも、修学旅行で真剣を買ったクラスメイトが銃刀法違反で捕まったり、体育祭での借り物競争では、お題が借金だった時に闇金業者が学校まで来て大騒ぎになったりと、本当にたくさんのことがあった。学校内での新しい通貨を作ろうとしていた田中君とは今でも仲良しで、一緒に修学旅行を回れて楽しかった。
「……今までたくさんの思い出と成長をくれた本校と、今まで私たちを見守ってくださった先生方、保護者の皆様方、地域の方々、在校生の皆さんに向けた感謝を伝えて答辞と致します。○○○○年三月十五日、○○県立○○高等学校卒業生代表、木下さなえ」
今までの思い出が僕の中であふれ、涙が出てしまった。どうやら他の面々も同じようで、会場にはすすり泣く声が響いている。
「次は、卒業生の合唱です」
アナウンスがされると、客席では観客がペンライトを取り出し始める。物販ではクラスごとの決められたカラーのペンライトが販売されていた。
ここからが卒業式のクライマックスだ。今日までの感謝と未来への期待と共に、私たちは旅立つ。
ピアノの感傷的なイントロに重ねて私たちは台詞を一つ一つ発する。
「これまでの大切な思いを抱え、私たちは未来に羽ばたきます。これまで支えてくださった皆さん、本当に。本当に……! 」
「「ありがとうございました!!! 」」
まぶしいペンライトの光と歓声と共に、僕たちの高校生活はフィナーレを迎えた。




