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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ワスレナグサ

作者: 龍息ch
掲載日:2025/12/24

私の名前は優希。

幽霊や妖怪を祓う仕事をしている、所謂"祓い屋"というものだ。

能力により捕らえた幽霊や妖怪を使役し扱える。

仕事内容は依頼者にもよるが基本的には妖怪の撃退。そんな私が休みの日に出会った、"ひとり"の幽霊の話だ。


ある春の日

その日は仕事が無く、祓い屋を雇っているところからも休みを貰っていた私は、久々の休みだった事と、暖かい空気になっているのを知っていたので気に入っている山へ行った。

最悪妖怪などと対峙しても撃退法は知っている。大丈夫だろうと、桜の花弁の舞う静かな地へ足を踏み入れた。

その山には綺麗な川が流れており、私はそこで何も考えず…ただ川の流れを見ているのが好きだった。

『あぁ…俺も……この川に流れる水みたいに…ただ流れに身を任せて生きていきたいな。』

私は妖怪や幽霊が見える…それ故に家族からは白い目で見られ、家に居場所など無く、祓い屋の場所で過ごしていた。

見える者同士…ただそれだけで気楽だったから。だがそれでもしんどくない訳ではない

だからこの場所でただ…川の流れを見つめて自分もそうなりたいと願う時が多かった。

今日もそれだけの時間…のはずだった。

いつも通り、水の流れる川の傍に座り込み眺めて居ると、遠くに人影が見えた。

『こんな場所に人影…人か、或いは…』

妖怪か幽霊か…その類いだろうと、私は妖怪を入れた手の平サイズの封印壺を取りだし構え、人影の方へと足を進める。

人影の正体を見ると、フードを被った傷を負った青年のような幽霊であった。

いつもなら私は祓うか封印していただろう

だが、この青年の姿に私は既視感があった。

『…お前、ただの人間の霊じゃないな』

「………」

私がそう言うと青年は怯える様子もなく、殺意の籠った瞳を向けてきた。

だがその瞳の奥底に…何処か寂しさも感じた。

『お前、何者だ?その空気…喋れない訳じゃないだろう』

妖怪、霊問わずだが、弱すぎると人の言葉等話せない物が多い。

強ければ強い程人を惑わす言葉も吐くようになる。

『何も話さないなら、私はお前を封印するか祓うことになる。生前は能力者か?何者だ?』

「………能力者だよ。」

青年は口を開くとそう言った。

『お前、いつからここに居るんだ?』

「………5年ぐらい前かな」

『5年前…?私はずっとここに来ているがお前の姿は……』

「………そりゃ、気付かれないように出来るさ、腐っても俺は"神殺し"って呼ばれてたぐらいの実力者なんだから」

既視感の理由がここで分かった。

昔、他の祓い屋の資料を借りた時に見たことがある。

[神殺しの龍息]の事を。

大量殺人犯と聞いていた。

『……大量殺人犯の神殺しか』

「………間違っては無いね」

『………』

祓うか封印するべきなのだろう。

だが何故か出来なかった。

青年を見ていると、家にいた時の自分を思い出してしまう。

「……貴方は、祓い屋か?」

『あぁ…祓い屋だよ』

「………そう」

『…神殺しの龍息』

「龍息でいいよ、お兄さん」

『…龍息』

『明日もここに来る。祓うのは私が気が向いた時だ、分かったな』

「わかりました、俺は別にいつ祓われてもいいので。」

青年…いや、龍息はそう言って自分の手に目線を向けていた。

その日から私は、時間があるといつもここへ来るようになった。

話していると、龍息の事で知った事がある。

昔、一生を添い遂げると約束した者が居たこと。

左手の薬指に付けた指輪はその人がくれたこと。

数百年もの間、孤独に生きてきたこと。

能力者との戦闘で死んだこと。

神に等しい妖怪とも出会ってきたこと。

妖怪の中には、まだ全く人間に知られていない者もいる事。

祓い屋といえど、人間の…まだ道を歩いている途中の私では知り得ない様なことを、まるで人が友人へ話すように楽しそうに話してくれた。

『龍息は、何故ここにずっと居たんだ?』

「…時々、お兄さんが来ているのを見てたから、なら俺もここに居ようと。」

「いつか、こうやって死んでからも友人が出来ると良いなと思って。」

龍息は大量殺人犯だ、だが、若い姿のまま、心も青年のまま数百年と生き続け、友人も想い人も亡くした、寂しがり屋で誰かへ甘える事が好きな人間だった。

きっと、他の人間や祓い屋は知ることのないであろう、神殺しの…仮面の下の顔。

神殺しも、数百年と生きてきたといえどただの人間だったのだ。

また次の日も会いに来ると龍息は

「…お兄さん、俺の事、祓ってくれませんか?」

『……は?』

突然だった。

「…お兄さんには申し訳ないと思っています。けれど、俺…約束したんです。」

「〔死んでも、ぜっっったい一緒にいよう〕って」

『……』

「出来るなら、自分の手で終わらせたかったんですけどね。本当に…最後の最後まですみません」

『分かった…祓おう』

「ありがとうございます」

「お兄さんとの時間、絶対忘れません。話の話題にでもします…!」

龍息はそう笑って、祓われていった。

私の唯一の友人。

人間じゃなく、幽霊の……友人。

『行ってらっしゃい。いつか死んだら、また話そう、一緒に』


私の出会ってきた中で、人生の中で…幸せな時間だった。


久しぶりの休み。

久しぶりに山へと足を踏み入れる。

また桜が咲き、花弁が風で舞う。

私は花の入った袋を抱えながら川へと歩いていく。

『…龍息、久しぶり、仕事で忙しくて…言い訳になってしまうな、最近はあまり来れてなくてすまなかった。』

『…これ、龍息が好きだと言ってた花だ。』

『…綺麗な花だね』

『私は君を忘れない。きっと…もうすぐ会えるだろう…』

『…いつか、君と酒が飲みたい。』

『またね、龍息。』


ひとりの幽霊。

会えただろうか

数百年の遅刻をしていた

いや…きっと、あの指輪を見ればわかる。

きっと会えただろう。

私もいつか会えるだろうか。

大切な人と。

添い遂げると誓える人と。

私の人生で出会った、花のように儚い霊。

不思議な1人の霊。

幸せに過ごせているといいな。



日が沈み、暗くなってきたので帰ろうと川から離れる時

微かに懐かしい花の香りがした。

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