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⑫‐D【全シリーズ】感謝短編ほか  作者: 邑 紫貴
12.短編かき集め

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【欲す】

タイトル『てれ』Side:李央りお・登場人物:王利おうり


この世界の秩序の為、追い詰められていた状況でキスに戸惑いなどなかった。

大胆に王利を求め……うわぁ~~、思い出すだけで火が出るほど恥ずかしい!

形式上、立派な結婚式を盛大に行い……

安定の見え始めた状況で、今更、気恥ずかしさが生じるなんて……

広い城に、自分の居場所も不安定で、何をしていいのかも分からず落ち着かない。

「李央?」

ビクッ

自分を呼んだ声に、過剰に反応して、ぎこちなく振り返る。

「な、何?その、あの……ふふ?」

私の不審な言動に、王利は苦笑を見せた。

そして近づき、優しく抱き寄せる。体が固くなったのは自覚できるほどで、王利に罪悪感。

王利の温もりが伝わり、心音が聞こえる……

「くくっ。分かる?俺の緊張しているのが……」

え?

顔を上げ、優しく微笑む王利と目が合った。

「キス、してもいい?」

気恥ずかしさに、視線を逸らしそうになって我慢。

「……ダメ。」

口元が緩んでいるのか、言葉がうまく出ない。

「ん~、じゃぁ……キスしてくれる?」

は?私から!?

ニッコリ笑顔だけど、腹黒さが垣間見えた。悔しい気がする。

「いいわ……よ。」

勢いと後悔が、一瞬で交ざったような返事が出てしまった。

抱き寄せる腕は、腰に回って背を撫で……逃げられない。

温もりが熱に変わる。

王利は目を閉じ、口元が嬉しさの笑みで緩んでいる。

可愛いじゃない。

「まだ?」

子どもの様に甘えて急かす。

「まだ!」

ドキドキで、顔を近づけていく。

背伸びし、私の動きに反応する王利の身体……

愛しさと、甘い空気……戸惑いも忘れ、ここが城の中……

恐る恐る周りをチラ見。壁から覗き見をしている数人の姿!?ぎゃぁ~~!!

【ゴンッ】

待ちきれずに顔を近づけた王利の頭と、私の額が衝突。

視線を向けると不機嫌な顔。

気まずくて、言葉を選んでみる。

「……大丈夫?」

「……大丈夫じゃない。お仕置きだよね、コレ……」

言葉を間違ったようですね、ははっ。

苦笑の私を、不機嫌なまま抱える。

肩に乗せられ、何が起きたのか分からない私に、頬を染めた数人の奇声が響く。

……おやぁ?お仕置き??で、どこに行くのかな……方向は寝室。

予測は当たり、抵抗虚しくベッドに転がる。

「ねぇ、何が恥ずかしいの?」

怒りなのか、拗ねているのか……王利の疑問をぶつけられた。

「……分からない。冷静になったと言うか……その、キスとか……自分に耐えられない。」

私の答えは言葉が足らず、王利を傷つけた。

「それは、後悔しているって事?状況に流された?心は……」

不器用な自分に苛立ちと、王利の感情を目の当たりに……増えていく愛情。

「心は、あなたに捧げた。身も同じ……」

言葉にならないもどかしさ。

自分から近づいて、王利を抱き寄せて胸に導く。

「聞こえる?私の生命……もっと知って……私の気恥ずかしさが何なのか、あなたが教えて。」

王利は顔を上げ、下から唇を重ねた。

私の髪をかき分け、後頭部に両手を当て、強引な激しいキスを繰り返す。

周りが見えなくなる。ただ、あなたの愛情だけを味わい。

このまま溶け入るように、身を委ねればいい?私は……

そう、この異世界に居場所がないように感じていた。

まだ、私に出来る事が見えていないだけ。

王利を信じ、支える事ができますように……




タイトル『喪失を埋めて』side:王利おうり・登場人物:李央りお


薬となる癒しの『緑』その繁殖は、順調で……問題は解決したはず。

それでも一族の中に、意見の対立するグループが残っている。

小さくなったと言っても、まだ安心の出来ない情勢。

王利の身辺が落ち着きだしたのか、共にいる時間の増えたのが唯一の救い

未来は安定したわけじゃない。2つの世界の秩序……

私は『緑』の木を見つめる。

最初の木は、大木になったが実を生み出すことは無かった。

魔力なのだろう……繁殖した木々が、薬の実を豊かに与える。

「李央、ここにいたのか。探したよ?」

疲れた表情の中、私に向ける笑顔に愛しさと苦しさ。

私は、彼の役に立てない……

「どうした、元気がない?」

私は、甘えるように身を寄せる。彼を心配させてはいけないのに。

「王利、お互いに大切にしてきた存在が近くにいない。お互いに、これからの時間を埋めなければ……私には力が無い。『緑』は役割を果たしているけど、私は……」

言葉が続かない。

一族の為……私たちが犠牲にしたものは多い……

王利は私を抱き寄せ、頬に優しく口づけする。

「ふっ。俺達、結婚したよね?俺は李央を得た……失った物かぁ~~。くすくすくす……俺は案外……冷たいのかもね?」

王利は、私のあごを斜めにして首筋に唇を落とす。

「やだ、くすぐったい。ここは出入りが制限されてるけど外なんだよ?」

私の本気じゃない抵抗に、王利は笑う。

「俺が失ったのは、ここに喰いつくことかな?ま、血は吸わなくても……」

熱い息を受け、とがった歯で肩を甘噛みされる。

ゾクリと痺れるような感覚……

以前に味わった自分の体に喰い込むような記憶が、思考を甘く酔わせる。

「李央……俺は、君を幸せにしたい。彼らは幸せに暮しているよ。たとえ離れていたとしても……」

「王利……ありがとう。ふふふ……本当ね、血を吸われる感覚を失いそう……埋めて?与えて……幸せを味わうから。」

嬉しさの涙。

離れた場所で、幸せに暮す彼女の強さを信じて……

身近に感じない温もりは、選んだ彼が与えてくれる。

「そうだね、外では不味いかな?帰ろう……俺の時間をあげる。君の時間を頂戴……」





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