【欲す】
タイトル『てれ』Side:李央・登場人物:王利
この世界の秩序の為、追い詰められていた状況でキスに戸惑いなどなかった。
大胆に王利を求め……うわぁ~~、思い出すだけで火が出るほど恥ずかしい!
形式上、立派な結婚式を盛大に行い……
安定の見え始めた状況で、今更、気恥ずかしさが生じるなんて……
広い城に、自分の居場所も不安定で、何をしていいのかも分からず落ち着かない。
「李央?」
ビクッ
自分を呼んだ声に、過剰に反応して、ぎこちなく振り返る。
「な、何?その、あの……ふふ?」
私の不審な言動に、王利は苦笑を見せた。
そして近づき、優しく抱き寄せる。体が固くなったのは自覚できるほどで、王利に罪悪感。
王利の温もりが伝わり、心音が聞こえる……
「くくっ。分かる?俺の緊張しているのが……」
え?
顔を上げ、優しく微笑む王利と目が合った。
「キス、してもいい?」
気恥ずかしさに、視線を逸らしそうになって我慢。
「……ダメ。」
口元が緩んでいるのか、言葉がうまく出ない。
「ん~、じゃぁ……キスしてくれる?」
は?私から!?
ニッコリ笑顔だけど、腹黒さが垣間見えた。悔しい気がする。
「いいわ……よ。」
勢いと後悔が、一瞬で交ざったような返事が出てしまった。
抱き寄せる腕は、腰に回って背を撫で……逃げられない。
温もりが熱に変わる。
王利は目を閉じ、口元が嬉しさの笑みで緩んでいる。
可愛いじゃない。
「まだ?」
子どもの様に甘えて急かす。
「まだ!」
ドキドキで、顔を近づけていく。
背伸びし、私の動きに反応する王利の身体……
愛しさと、甘い空気……戸惑いも忘れ、ここが城の中……
恐る恐る周りをチラ見。壁から覗き見をしている数人の姿!?ぎゃぁ~~!!
【ゴンッ】
待ちきれずに顔を近づけた王利の頭と、私の額が衝突。
視線を向けると不機嫌な顔。
気まずくて、言葉を選んでみる。
「……大丈夫?」
「……大丈夫じゃない。お仕置きだよね、コレ……」
言葉を間違ったようですね、ははっ。
苦笑の私を、不機嫌なまま抱える。
肩に乗せられ、何が起きたのか分からない私に、頬を染めた数人の奇声が響く。
……おやぁ?お仕置き??で、どこに行くのかな……方向は寝室。
予測は当たり、抵抗虚しくベッドに転がる。
「ねぇ、何が恥ずかしいの?」
怒りなのか、拗ねているのか……王利の疑問をぶつけられた。
「……分からない。冷静になったと言うか……その、キスとか……自分に耐えられない。」
私の答えは言葉が足らず、王利を傷つけた。
「それは、後悔しているって事?状況に流された?心は……」
不器用な自分に苛立ちと、王利の感情を目の当たりに……増えていく愛情。
「心は、あなたに捧げた。身も同じ……」
言葉にならないもどかしさ。
自分から近づいて、王利を抱き寄せて胸に導く。
「聞こえる?私の生命……もっと知って……私の気恥ずかしさが何なのか、あなたが教えて。」
王利は顔を上げ、下から唇を重ねた。
私の髪をかき分け、後頭部に両手を当て、強引な激しいキスを繰り返す。
周りが見えなくなる。ただ、あなたの愛情だけを味わい。
このまま溶け入るように、身を委ねればいい?私は……
そう、この異世界に居場所がないように感じていた。
まだ、私に出来る事が見えていないだけ。
王利を信じ、支える事ができますように……
タイトル『喪失を埋めて』side:王利・登場人物:李央
薬となる癒しの『緑』その繁殖は、順調で……問題は解決したはず。
それでも一族の中に、意見の対立するグループが残っている。
小さくなったと言っても、まだ安心の出来ない情勢。
王利の身辺が落ち着きだしたのか、共にいる時間の増えたのが唯一の救い
未来は安定したわけじゃない。2つの世界の秩序……
私は『緑』の木を見つめる。
最初の木は、大木になったが実を生み出すことは無かった。
魔力なのだろう……繁殖した木々が、薬の実を豊かに与える。
「李央、ここにいたのか。探したよ?」
疲れた表情の中、私に向ける笑顔に愛しさと苦しさ。
私は、彼の役に立てない……
「どうした、元気がない?」
私は、甘えるように身を寄せる。彼を心配させてはいけないのに。
「王利、お互いに大切にしてきた存在が近くにいない。お互いに、これからの時間を埋めなければ……私には力が無い。『緑』は役割を果たしているけど、私は……」
言葉が続かない。
一族の為……私たちが犠牲にしたものは多い……
王利は私を抱き寄せ、頬に優しく口づけする。
「ふっ。俺達、結婚したよね?俺は李央を得た……失った物かぁ~~。くすくすくす……俺は案外……冷たいのかもね?」
王利は、私のあごを斜めにして首筋に唇を落とす。
「やだ、くすぐったい。ここは出入りが制限されてるけど外なんだよ?」
私の本気じゃない抵抗に、王利は笑う。
「俺が失ったのは、ここに喰いつくことかな?ま、血は吸わなくても……」
熱い息を受け、とがった歯で肩を甘噛みされる。
ゾクリと痺れるような感覚……
以前に味わった自分の体に喰い込むような記憶が、思考を甘く酔わせる。
「李央……俺は、君を幸せにしたい。彼らは幸せに暮しているよ。たとえ離れていたとしても……」
「王利……ありがとう。ふふふ……本当ね、血を吸われる感覚を失いそう……埋めて?与えて……幸せを味わうから。」
嬉しさの涙。
離れた場所で、幸せに暮す彼女の強さを信じて……
身近に感じない温もりは、選んだ彼が与えてくれる。
「そうだね、外では不味いかな?帰ろう……俺の時間をあげる。君の時間を頂戴……」




