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⑫‐D【全シリーズ】感謝短編ほか  作者: 邑 紫貴
12.短編かき集め

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44/75

【邪】①

タイトル『馬肉』Side:ビエ(美衣)・登場人(?)物:シドラ(馬)


異世界を救うための旅支度……垣間見る未来は、とても不安定。

自分の命さえ、どうなるのか分からない。

元の世界にケイトを帰してあげたいと願う。

魔物への攻撃に対する彼の心の痛みが、流れ込んできて理解できずに困惑する。

彼の役目は……何なの?


『美衣様、我々には魔法が及んでおりません』

……あぁ、効果は人間に限られていたのか。

準備なしでやって来た異世界……私自身の役目も、気にしていなかった。

未来を不安定にしているのは、私だろうか……

「シドラ、あなたは……ランスを乗せるのに抵抗はない?」

私の質問に、シドラは答えなかった。誰かの為を願い……

『シドラ、言っといた方が良いわよ!人間だからって調子にのって、ランス様に色目を使ったら許さないから!!』

私かケイトを乗せる馬……何だか苛立つ。

「喰うわよ?」

私の足元には魔方陣……殺気に怯える名も知らぬ馬。

『美衣様、ほどほどに願いますよ。』

見かねたシドラが穏やかに、私の肩に顔をすり寄せた。

心が和んでいく……

名も知らない馬は、逃げるように馬小屋へ移動した。

「シドラ、あなた以外の声は聞こえないようにする。」

《 ## 》

呪文を唱え、魔力が浸透するのを見つめる。

『美衣様は、この世界を救うために来られたのですよね?』

ズキンっと、痛む胸……私の中に答えが無い。

シドラと視線を合わすのも惑う。

「ねぇ、馬肉は美味しい?」

私の質問に、シドラは冷静に答える。

『どうでしょう。訓練を受けた馬は、肉質が固いかと思います。この世界では、馬を食べるのは魔物でしょう。』

「ふふ。魔女の私なら、食べても問題はなさそうね?」

触れようと伸ばした私の手を、シドラは鼻で首の方へと流した。

『乗ってください。ランス様の指定席……今夜は、特別です。』

特別ね……

「シドラ、気分が良いわ。食べるのは止めてあげる。くすくすくす……私の特等を受け取って♪」

シドラの背に乗り、呪文を唱えた。《 ※〇※ 》

シドラに麗しい白い羽が生える。

『美衣様、これは……』

冷静だったシドラの戸惑いにワクワクした。

「願いなさい。飛んで、世界を見下ろせば……きっと未来も見えると。」

私も願う……生を望まない。

生きている感覚の薄れた元の世界に、帰ることを望まないはずなのに……

便宜上、戻ることを繰り返す。何度も……抵抗なく……

この世界を救うために来た?愛着もない……

誰かの為?ケイトを元の世界に帰すことが出来るなら、この世界は……

月光の下、照らされる世界は闇夜に勝てはしない。

「シドラ、あなたは……ランスの為に、命を懸ける?」

空を駆けるシドラは、さらに高く飛び上がる。

『美衣様、救って欲しいのはランス様の生きる世界だからです……逆に言えば、それは……』

シドラの答えは途切れてしまった。

魔力の及ばない位置まで来たのかもしれない。

この世界と元の世界で、私が望むのは……




現代編『複雑……』視点:美衣


合唱部の練習が中止になったので、ケイトのいる弓道場へ向かう。

……初めて足を運んで驚く。女の子が囲み、ケイトの名を呼んでいる。

その中心は、可愛い幼馴染……

イラッ!!〈 ★* 〉

突然の突風と土砂降りの雨……去っていく姿を眺め安堵する。

冷たい雨……自分の嫉妬は冷えるだろうか。

バカみたいだ……

空に目を向け、髪をかき上げる。

「美衣?」

突然の雨に、傘がなかったのか……ケイトは、濡れながら私に向かって走ってくる。

愛しい……

「濡れるわよ?大会が近いんだし……今日は、先に帰るわ。」

彼を、真っ直ぐ見ることが出来ない。

「させるかよ!」

ドキッ

「こんなに服がスケて……俺のものをさらすなんて!!」

抱きしめ、濡れた服に手を入れようとする。

……私、何か選択を間違えた??

〈 ☆・ 〉この呪文は……


何でしょうね?

続く短編は、消えそうになったネタ【邪】の現代編……




『密事は内に熱せられ……』登場人物:美衣みい蛍兎けいと


風がソヨソヨ……中庭の木陰で、ベンチに座って蛍兎の部活が終わるのを待つ。

自分の所属している合唱部は、休み……

彼の弓道姿は、凛としていて張り詰める空気を纏い……

まるで、あの世界で必死に生きてきたあなたを見ているようだ。

草の匂い……自然を感じると、思い出に包まれる。

夢うつつ……この世界に戻って、彼に再会し……彼の部活を知って、私は疑問に思った。

『ケイト、どうして……あの世界で、武器を弓矢にしなかったの?』

きっと、その方が魔物を倒す時……衝撃も血しぶきも感じず……

心の痛みが少なかったんじゃないかと……そう考えたけど。

『ん?ふふっ……魔法で、作れた?俺の武器。』

『そうね、簡単だったと思うわよ?最初……そのゲーム感覚を楽しんでいたから……』

蛍兎は、私の心を見透かすように、柔らかく笑う。

あの世界では、私に見せなかった表情。

嬉しいはずなのに、どこか……心は……何と言って良いのか表現できない感情に痛みが生じる。

【ズキッ】痛い……胸が痛む……

命を懸けても良いと思うほどの想いが、どこから来たのか……

呪いなのか……本当の愛情なのか、この平和な時間が不安をあおる。

矛盾した感覚……垣間見る未来は、とても曖昧で……

魔力に頼らず生きてきたはずなのに、逃げたくなる衝動。

魔力の源を、あの世界に残してきた……手にあるのは、未来の為……限られたモノ……

『美衣、俺は……あの世界で死ぬつもりは無かった。だから、弓矢を武器に選ばなかった……この世界とは違う。俺は、この世界に何故か固執した。今だから思う。あの世界で役目があったように、ここでも……あるのかもしれない。この世界に、必ず帰って来ると……確信があったんだ。君と出逢う数年前から……』

それを聞いてから、彼の射る姿に群がる女の子達を遠巻きに見るようになった。

あの世界で、私は……最初……ゲーム感覚だったから。

ケイトは世界が違っても……区別をしながら、同じ感覚で生きてきたんだ。

私は魔力を自覚し、隠れるように生活していた……

持っているものに不満を感じ、安易に捨てたいと思うような浅はかさ……

複雑な想い……ケイトの思考が、私の足りないものを露呈する。

剣で相手を傷つけ、色は違うとはいえ体内を流れる血に触れ……命を意識していたんだ。

そんな感情を知ろうともしなかった。

現代で、どんな生活をしていたのか……訊きもしなかった。

聞けなかった……怖くて……あの世界じゃない……ケイトは居ないんだ。

ここにいるのは、普通の学生……蛍兎……私の知らない人。

『弓道?楽しいよ。心を映す……自分との闘い……』

自分の事を語る蛍兎が、遠く感じる。

あなたが見ているココに、私は居ない……

知らない部分を知って、近づけると思った距離が……

【……ひゅっ……ガカッ】

音と同時に、背中に衝撃を感じて慌てて目を開ける。

自分に近い、見知らぬ顔が青ざめ……

視線を後ろに向けて、理解できない叫びを発しながら……無様に逃げて行く。

自分の座っていたベンチには、矢が刺さっていた。

そして、弓道衣に袴姿の蛍兎が、弓を構え……矢が逃げて行く男に向けられたまま……

あの世界とは、違うって……言ったよね。

思考を暗闇が襲う……漆黒の闇……

刺さった矢を抜いて、その重みに……思考が混ざるように心が騒ぐ。

体から体温を奪うほど嫌な予感……あの世界で感じた何かと、記憶が重なる。

弓を握り締め、立ち上がった私のもとに蛍兎が走り寄る。

「美衣、俺が来なかったら……」

血の気が引いたのは自分でも分かる……

そんな表情の私の視線に、彼は何かを読み取った。

なのに、蛍兎は焦るわけでもなく……取り繕うこともなく……いつもの笑顔。

「覚悟は、良いかな?」

いつものように、私に触れようとする。

それを払いのけ、睨んで矢を見せながら問う。

「蛍兎、コレは何?通常の矢じゃない……それに、あなたは……弓矢を人に向けて狙うような人じゃない。」

あの世界で、しなかった行為……

今までに見たことがない思考の読めない眼……冷静で、余裕の口元……

「くくっ……美衣ちゃん、それ……手から、放そうか?」

矢を握り締める右手に、蛍兎が手を重ね……反対の腕が、私の片腕を捉えた。

「!?」

いつもと違う……読めない行動パターン。

振り払うことも、抵抗も出来ない……言葉が詰まる。

「っ……や!!」

「ね?いい子だから……そんなもの、触っちゃだめ。放して?」

声は優しいようで、低く……冷たい感情が見え隠れする。

「……何か教えて!」

視線を逸らして、声を絞り出した。

腕や手に触れる力は、継続されたまま……顔を寄せて、私の頬にすり寄せる。

目をぎゅっと閉じ、矢を握る力を強めた。

ここで、うやむやにしちゃダメだ!!

【チュッ】

頬に唇が軽く触れ、熱い……舌?

頬から顎に滑るようになぞる。

【ぞくっ】

駄目だ……ここで負けたら……

逃げられない身の動きを封じられた中、体を逸らして身を固めた。

「……はぁ。美衣……理解できなくて、苦しい?」

耳元に、熱い息がかかる。

なのに……熱と反した冷たさが、痛みを呼び起こす。

顔を背けたまま、目を開け……蛍兎に視線を向けた。

私の身に覚えのある行為と重なる……あの世界で彼に、黙って行動した。

彼が傷つくと知って、それでもギリギリまで情報を与えず……それが最善だと、自分に言い聞かせ……

「何を、隠しているの?」

蛍兎は満足そうな笑みを向け、視線を逸らす。

矢を握る右手を引き寄せた。

私の見ている前で、目を閉じ……矢を握り締める指に優しく口づけ……

目を開けたと思うと、私を捉えていた方の腕が離れ、腰を抱き寄せる。

視線は、矢を睨んだまま……

「やっ!!ケイト……蛍兎、怖い……」

私を捕らえる腕は、強く……触れる身体が熱い。

小指に、舌が絡んでいく。熱い……アツくて、おかしくなる。

必死で、握り締める矢……力の入らない指……

小指と薬指が蛍兎の口に含められ、なぞる舌……絡む唾液と息が熱い。

【ゾクゾク】

だめ……

矢が手から離れた。手のひらと腕を転がり、蛍兎の腕に当たって地面に転がる。

私の指が、蛍兎の口から解放された。

指に絡む唾液が、外気と触れ……受けていた熱を自覚させる。

蛍兎は、丁寧に唾液を舐めとり……視線を私に向ける。

開いた手のひらに、そっと口づけ……意地悪な笑み。

「俺、役員になった。」

……ヤクイン……誰かを守るためだという表向き。

けど、本当は……。

「ど……して、勝手に……決めたの?」

あの世界で、私がしたのは……あなたの為なんだよ?

これは、違う……学園の籠の中……

「……まだ、ナイショ♪」

複雑な感情に、理解も出来ず……まとめる余裕もなくて、涙が溢れ零れた。

慰めるように、蛍兎はキスを落とす。

「やだ、触らないで……酷い。あなたが求めるのは、私の心じゃない……」

あの特別な環境が、私たちをオカシクしたんだ。

こんな関係は、恋愛じゃない……違う……望んでいるのは……

「愛しているんだ。……信じてよ。」

耳元で、優しく囁く声……顔を逸らして、抵抗を繰り返す。

「ウソよ……」

「嘘じゃない。」

熱い息がかかって舌が耳を這い、甘噛みされた。

力が入らなくて、蛍兎に寄り掛かる。

「ね?美衣……良いかな?」

「駄目……ここじゃ、イヤ。」

「我慢できない……」

自由を望んできたのに、選んだ人は籠の中を選んだ……

死を覚悟するほどの想いは嘘じゃない……生を意識すると、望みは際限なく膨らんでいく。

いつから、自分がこんなに我儘になったんだろう?

知らない自分を引き出され……この腕に囚われ、身を委ねて行くんだ……

きっと、これからも……ずっと……


紫貴の一言!!

読んでくださり、ありがとうございます♪

実は、この甘い場面を結婚後に設定していたんですけどね?

……時間が開いて、学生の時に変換……流れも狂いました。最後は、省いた部分もあり(苦笑)






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