【嘘つき】②
タイトル『謝罪』Side:麗季・登場人物:羊二・保志
獣医を目指し、役員の仕事まで辞めた羊二は、遠くを見つめるように語る。
「学園の夢見がね、俺の息子が衆になるって。その頃には今までみたいな闇はない……そんな未来に、役員から解放されたよ。」
複雑な心境に、言葉は少なく……見ているのは未来。
私たちの息子の話なのに、実感などない。
すれ違い、共に過ごす時間も限られ……本当に、そんな未来が存在するのか。
呪いとの闘いが運命だった?これからのことも、決まった未来だと言うの?
それなら、どんな事をしても未来は変わらないのよね。
羊二が見ているのは……
「不器用だなぁ、お前ら……麗季は思考が暗いわ。ははっ、諷汰さんと似てるのか。」
保兄は、明るく笑い飛ばした。真剣なのに……
「しっかし、いいのかぁ?一応、他人だぜ俺達。」
何を今更……それなら二人で会うのはどうなのよ。
「保兄……羊二は、どうして急に獣医になるなんて言い出したのかな?」
未だに理解できない。
「聞いてないのか?俺……は、聞いていないけど……ぷふっ。くくくっ……麗季以外が理由を聞いたら、ドン引きしそうだけど。」
んん?聞いていないけど、理由を知ってるって事?
「……未来の為に、今は必要じゃないの?」
羊二の理由も気になるけど、未来しか見ていない羊二に不安が募るのは拭えない。
「……麗季、立て。」
保兄は、ニヤリと意味深な笑みで立つように促す。
立って、何をするのかな?
保兄も立ち上がり、私に近づいて抱きしめた。
「!?」
この年齢になって、抱きしめられたのは初めての事。
パニックになる。
「や、保兄……な、何?」
保兄は平然とした顔で、ポケットから出した携帯用のスプレーを私に見せ、後ろから吹き付けた。
私の背中をポンポンと、軽く払う様に叩いて離れた。
「いやぁ~。くくっ。珍しい香りだろ?親父の会社でアルバイトしてさぁ~。男性用の香水の試供品なんだよね。」
ニッコリ笑顔。
うん?それを抱きしめて、私にかける意味は何?
「お、やべ……歌毬夜との約束に遅れるわ。じゃぁ、麗季……がんばれよ?ふっ。くすくすくす……」
何というか……保兄って自由だよね。
自分の身に、懐かしいような甘い香り。
あ、昔の記憶がよみがえるようで……満ちていくみたいだ。
保兄も、それを味わったのだろうか。
さて、相手にしてくれないだろうけど、羊二の部屋に行って食事の準備でもしようかな。
羊二の目に入るのは、獣医の仕事に必要な事……私との未来……
学園の寮のインターホンを押すが、返事は無い。
合鍵で入り、部屋を覗くと勉強に集中している姿が目に入る。
いつもと変わらない姿に、ため息で台所へと向かった。
「……他の奴の匂いがする。」
急に声がして、気配を感じなかった事に驚き、振り返る。
「くくっ……それ、落として来いよ。」
手を引かれ、風呂場に押し込められた。
「羊二、違……う……」
鋭く光る目に、言葉が続かなかった。
「何が違うの?」
怖い。何故、怒っているの?
酷い……悲しいのを、ずっと我慢しているのに。
「羊二は、私を見ていない。この匂いは保兄がつけた香水よ。……もうやだ、もう……別れる。」
思ってもいない言葉が出て、涙と震えに後悔が拍車を掛けた。
「ごめん……」
羊二が謝りながら、私を抱き寄せる。
「……あぁ、記憶にある匂いだ。保志に、サンプルを吹き付けられたのと同じ……ごめん。ねぇ、麗季……君は俺との未来で共に居てくれないの?」
頬を撫で、零れた涙を拭う。
「現在の私達に時間なんてない。不安が襲う。私が成長できていないのね……また、今の状況から逃げたい。」
「麗季、ごめん……逃げないで。……俺は、家族が欲しいんだ。」
涙目で語る最後の一言に、胸が痛む。
羊二は幼い頃に家族を喪った。分かっていたはずなのに、理解していなかった。
彼が見ているのは、私と生まれると聞いた息子との生活……
自分の涙が、無意識に流れ続ける。
「ごめんなさい、もう逃げない……愛しているの。」
唇を重ね、何度もキスを繰り返す。
「麗季、ごめん……先に謝るね?」
羊二は私に最高の笑顔を向ける。
「優しくできない。」
私を抱え、向かうのは羊二の部屋。
「ちょ、優しく出来ないじゃないよね?しないの間違いでしょ!」
ベッドに身が沈み、口を塞がれて……甘く深いキスで私を求める。
「……ごめんね。」
言葉とは裏腹に……
『嫌なものは嫌だ!』麗季&羊二(夏。麒麟が幼いころ)
「暑い。羊二、プールか海に行こう?」
「嫌だ。」
「……水着、着るよ?」
「他の奴が見るのは嫌。泳ぐの嫌い。」
「私を助けた時、泳いでたよね?」
「人生初。麗季や麒麟を助ける以外は泳がない。」
【キュン……】
「あれ、授業はどうしてたの?」
「見学。泳げるとは思っていたけど、嫌なものは嫌!」
「ヤ!」
「麒麟が真似するでしょう!?」
無理やり連れて行ったが、羊二は泳がなかった。
羊二は、少し?変わっているのです。
詳しい話は、またいつか……
『泳がない?』麗季&紫貴
「麗季、ヒツジは泳いだことがなかったのです。」
「……は?私を助けるために、プールに飛び込んだよ??」
「うん、人生初の水泳です。」
「言っている意味が分からない。室内プールの授業は?」
「見学です。」
「カナヅチなの?」
「いいえ、ただ……泳がないのです。」
「説明して!」
「設定ではないんだけど……泳ぐのが嫌なのです。」
「じゃあ、私を助けるために泳いだの?」
「そうです、躊躇なく……幸せでしょう?」
「……うん、幸せ。」
詳しい設定は、続く短編で書きます♪
タイトル『幼き頃の海に……』視点:羊二
幼い記憶……海に家族で行った。
事故で、亡くす前のこと……
「羊二!来いよ!!」
双子の兄が、俺を呼ぶ。両親も笑いながら、手招きをした。
俺は、首を振って砂浜に三角座り。
3人が楽しそうなのを、黙って眺めていた……
泳ぐのは嫌い。だけど、その時だけでも泳いでおけば良かったかな?
海は嫌い……泳ぐのがもっと、嫌いになった。
それでも、大切な者を護る為なら……
終わり♪(少し、切ない感じですね。)
『ヒツジのセンス……』視点:麗季
結婚式の日……羊二の世話をしていた恵さんと荊さんが、個室に来た。
「麗季さん、羊二のことを頼みましたよ。」
「特に、服ね!!」
……服??
「一番ひどかったのは、『鬼畜じゃない』って書いたTシャツを自慢したことよ……」
……え?
恵さんは、言葉を探して視線を逸らす。
「荊……言葉を選びなさい。」
「これ以上どう説明するの?」
羊二の姿を想像して、何故か……笑えなかった。
『サンタは……』視点:麗季
結婚して、初めてのクリスマス。
家は新築の匂い。一階には、動物病院が併設。
二階部分で、羊二が譲らないものがあった。煙突……
当然、暖炉なわけで……完成時に、目を輝かせながらポツリ。
「これで、サンタさんが来る。」
……どうしたらいいのかな??
「ぷっ!!あははははは……くっ、苦しい!!くはっ……マジで??プレゼントを用意しようか?聞き出してやろうか?それとも、くふふ……夢を壊しちゃう?」
保兄に相談した返事が、これだ。
結局……サンタさんがいないと、言えないまま……プレゼントを用意した。
変わり者のヒツジです♪
二年目は、サンタに会おうとした羊二に見つかり……バレます(笑)
『采景と羊二』
高校生の羊二は、采景くんが苦手“でした”。
大学生になっても苦手なのは変わらず、その状態は、麗季と結婚する間近まで続く。
服には無頓着(とういか、趣味が悪いだけ)ですが……意外と神経質な所もあるのです。
采景は、それを感じていても、麗季への兄バカが勝って素直になれない(笑)
結婚式の前日、デレが出た采景……
「ヒツジ、俺の兄貴になるんだ。麗季を泣かせたら、承知しないぞ。」
羊二が驚いた顔で麗季に視線を向けると、麗季は苦笑を返した。
羊二は幼い頃に双子の兄を亡くしたので、年下の連歌に思い入れが大きい。
そんな自分が、義兄弟……そして、家族が増えることを理解した。
苦手だと思っていた采景や遠矢が、一気に身近で大切な存在に変わったのです。
甘くはないですが、こんな裏話が幾つも……。
自由な時間が欲しい。
【嘘つき&微笑 小ネタ】タイトル『羊二の車は……』
登場人物:羊二・麗季・小鹿・連歌
ある日、学園の飼育動物の定期健診後の羊二。
帰り道で、車販売促進会に遭遇。
インドア派な羊二には、無縁の物だと思いながら横目で通り過ぎる。
そこへ、営業の男性が声を掛けた。
「どうですか、家族との旅行には快適ですよ。」
妻と息子の3人暮らし。お勧めされたのは8人乗りの車。
しかし、羊二くんは即決で現金一括の購入。
納車日、車が届きます。
【ピンポ~ン】「はぁーい?」
車の納車を聞いていない彼女は、空いている駐車スペースに停めてもらいます。
そして、旦那様のお帰りを待ちました。
「ただいま。」
「お帰りなさい。ねぇ、車買うって言っていたかな?」
妻の言葉に、何を言っているのか理解できない彼は、車を確認。
「何かの間違いでは?」
知らないはずですよ。書類を確認すると、購入者の名前は聖城羊二。
納車場所は連歌の家になっているのですから。
羊二に電話をすると……
「うん。今度、旅行に行こう。俺、免許を持ってない。」
衝撃の事実!
所有者の羊二の家にも、当然、駐車スペースはあるのですが。
今後の運転は連歌なので、将来の買い替え後も変更なし。
「小鹿……俺が車を、相談もなく買うと思うのですか?」
「だから、私が聞き洩らしたのかと思ったのよ。」
2人の会話は、羊二の家で行われました。
「ごめんね、小鹿さん。私も知らなかったのよ……まさか、車を買うなんて。」
3人は顔を合わせ、ため息を吐いて羊二の方に視線を向ける。
「連歌、どこに連れて行ってくれるの?」
翌日、羊二と麗季は子供を連れて、連歌の家に車を見に来ます。
目を輝かせて、息子と一緒に車の周りをウロウロ。
その横で、連歌は自分のバイクをメンテ。
「羊二、車の手入れなど俺はしませんよ。」
冷たい視線を向けた連歌に、羊二は珍しい笑顔。
「うん、定期的に担当者がメンテしてくれるから心配はない。支払いは俺だし、気にしないで大丈夫。」
そんなカモにされそうな担当者任せの羊二に、連歌は否応なしにバイクと共にメンテをするのです。




