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⑫‐D【全シリーズ】感謝短編ほか  作者: 邑 紫貴
12.短編かき集め

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【巡る】

【巡る】タイトル『相互』

Side:大和やまと・登場人物:加羅から


姉妹校で、優秀な生徒を集めての研修。

感化を掲げてはいるが、実際は競争心を煽る醜い数日間。

毎年、不参加だったが……加羅の出席を聞いて、騙しに乗ることにした。

変にプライドの高い奴は、自分に見合う相手を補完する傾向にある。

そんなのに加羅が目を付けられた日には厄介だ。

自分の外見を気にしない加羅は、どんなに注意をしても危機感などない。

実際、顔合わせに集まった数人が加羅に心奪われているようだしな。

ちっ、どうしてくれようか。

「では、学園側が選んだリーダーを紹介します。学業や統制力などを考慮し……」

加羅の視線が俺に向いた。

あれ?俺と目が合って視線を逸らし、気まずそうな表情。

あぁ、リーダーが俺だと思ってくれたのか?

かわいいじゃねぇ~か!ちくしょう……

素直じゃない分、素で俺の評価が目に見える日がくるなんて。

参加に悔いなし!

残念ながら俺じゃない。

参加が無理やりだしね、下手に役割を負わされて時間を奪われるなんて御免だ。

口元が緩んで、ニヤニヤと加羅を見つめる。

加羅は視線を逸らしたまま……

「では、桜野さん。後で残って頂けますか?」

解散なのか、数人が部屋を出て行く中……リーダーの厄介な男に目を付けられた加羅。

首を傾げ、何も分かっていない危機感0の様子。

俺は席を立ち、加羅の首に腕を回して後ろから圧し掛かり睨んだ。

「俺は、桜野さんに用事を頼みたいんだ。部外者は出てくれ。」

「俺の加羅を、何に利用する気なの?」

一触即発状態。

それなのに、加羅は俺の腕を退けようともがいている。

「ヤマ、重い……」

ムッカァ~

苛立つなぁ、ホント。

「桜野さん。そんな劣った奴を選ぶとか、言いませんよね。」

自信過剰だな。ま、人の事は言えないけど。

加羅は、視線を後ろの俺に向けて無表情。

何を考えたのか理解できない。悔しいなぁ、言葉にしてくれよ。

加羅の価値観に俺の願いなど、ないのかもしれない。

想いは俺の方が勝って、愛情を感じるのは難しく……情けない気持ちになる。

俺をこんな感情に突き落すのは、加羅だけなんだよ。

どうすればいいのか、模索も尽きる。

加羅は視線を俺から逸らし、立ち上がった。

腕が離れ、もう一度自分から抱き着く勇気などない。

「悪いが、私以外で相応しい人を探すべきだ。行こう、ヤマ……自分が次の授業で講師をするのを忘れているのか?」

避けられなかった役割分担……ん?俺の予定……

「加羅?」

俺の呼びかけに顔を逸らし、耳まで赤くなっている。

あぁ、俺以上に加羅の方が不器用なんだ。

分かっていたくせに、自信を無くし、愛情を自覚して喜びを味わう繰り返し。

「なっ、お前……まさか毎年、不参加の?」

他人が俺を知らなくても、何とも思わない。

どんな他人の評価も無意味。ただ願うのは……

「加羅、俺の事で怒ってくれたの?」

距離を縮め、顔を下から覗き込む。

「自分の中で、大和の評価が高いのが許せない。何だ、コレ……自分以外、自分の事さえ無頓着だったのに……責任を取ってもらうからな。」

複雑そうな戸惑いを見せ、想いを赤裸々に……それも無意識で告げた。

俺は心奪われ、全て手に入れたい欲望を更に募らせる。

「ははっ。それ、加羅からのプロポーズだと思って良い?」

人気のない空き教室を見つけ、加羅を抱き寄せた。

拒絶は無い。いつになく良い雰囲気で、強引になるのを抑えつつ、キスを落とす。

受け入れる加羅……上手く行きすぎて不安になるのも、どうなんだろうか。

「大和が相手の意見を覆すのかと思った。いつも自信に満ち、何物にも左右されない……私は取り残される気分だ。」

あぁ……俺のプライドなど、加羅の前では無意味だと思っていたのに。

加羅は、俺のプライドが他人から傷つけられたと感じて、どう反応するのか俺を観察した。

お互いに、まだ知らない事を知りたいと願い、想いも同じ。

「加羅、俺達は未来を垣間見た。これから拭えぬ不安もあるだろう。全てを頂戴、俺も全てを託すから。」




タイトル『墓穴』

Side:加羅から・登場人物:ヤマさん


放課後、いつもの化学室に寄ると……

「加羅、遅かったね!」

ニッコリ笑顔の他校生……

「ヤマ、授業が終わるのは変わらない時間のはずだよな?」

私の質問に、首を傾げて無言の笑顔。

誤魔化しやがった……サボリだよな、確実に。

「約束を忘れたとは言わせない。」

何でもこなすヤマに、先生方も甘い……だからと言って、他校生の出入りは別だろう?

「何、加羅……俺と会うのが嫌なの?」

面倒臭い質問きた!!

「……約束を守れない男は嫌い。」

流されて、後が困るのは私だ……

「加羅?ね、俺の事……邪魔なの?」

はっきり言ってしまえば、邪魔者以外の何者でもない。

「ヤマ?約束は……」

話し合おうとする私を抱き寄せ、目は閉じ気味で唇を近づける。

流されてはダメだ!!

顔を押し退け、苛立ちに本音がポロリ。

「邪魔!」

はっ!しまった、話し合うつもりが……

「愛情が足りない!だから会いに来るんだよ?」

ゾワゾワ……背中に流れる寒気。

身の危険を察知するが、逃げられない……奴の腕の中。

「話し合おう!」

冷静なんだよね、コイツも。怖いぐらいに!!

「ヤマ、私は約束を守って欲しい。」

会うのは、学校の外だと約束した。

その約束の為、恥ずかしい事も……あんな……うわぁあぁあ~~

思い出して、赤面と居た堪れない感情が苦しめる。この場から逃げたいほど。

「加羅?」

思考を読もうとする視線に、話し合いなど無理な話だ。

嫌いじゃない……好意を示されるのも嬉しいけど……流されては駄目だ。

自分が崩れていく気がするから……

「ふふ。くすくすくす……」

不気味な笑顔を私に向け、企んだ眼。

ここで言葉を間違えると危険度アップ。

「ヤマ?帰ろうか、今日は……その……」

とにかく、学校を出よう。ここでは不味い……

「加羅?いい度胸だよね……」

冷静さを通り越した何かを含んだ言葉に、覚悟を決める。

「俺が悪いの?ねぇ、許して欲しいなぁ。何をすれば、許してくれる?ふふ……俺の愛情を注ごうか……嫌ってほど、味わうと良いよ。遠慮しないで……」

床に押し倒し、乱暴ではないにしても触れる手や身体が熱を発する。

「俺を拒めると思わないでね?」

墓穴……





end

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