【巡る】
【巡る】タイトル『相互』
Side:大和・登場人物:加羅
姉妹校で、優秀な生徒を集めての研修。
感化を掲げてはいるが、実際は競争心を煽る醜い数日間。
毎年、不参加だったが……加羅の出席を聞いて、騙しに乗ることにした。
変にプライドの高い奴は、自分に見合う相手を補完する傾向にある。
そんなのに加羅が目を付けられた日には厄介だ。
自分の外見を気にしない加羅は、どんなに注意をしても危機感などない。
実際、顔合わせに集まった数人が加羅に心奪われているようだしな。
ちっ、どうしてくれようか。
「では、学園側が選んだリーダーを紹介します。学業や統制力などを考慮し……」
加羅の視線が俺に向いた。
あれ?俺と目が合って視線を逸らし、気まずそうな表情。
あぁ、リーダーが俺だと思ってくれたのか?
かわいいじゃねぇ~か!ちくしょう……
素直じゃない分、素で俺の評価が目に見える日がくるなんて。
参加に悔いなし!
残念ながら俺じゃない。
参加が無理やりだしね、下手に役割を負わされて時間を奪われるなんて御免だ。
口元が緩んで、ニヤニヤと加羅を見つめる。
加羅は視線を逸らしたまま……
「では、桜野さん。後で残って頂けますか?」
解散なのか、数人が部屋を出て行く中……リーダーの厄介な男に目を付けられた加羅。
首を傾げ、何も分かっていない危機感0の様子。
俺は席を立ち、加羅の首に腕を回して後ろから圧し掛かり睨んだ。
「俺は、桜野さんに用事を頼みたいんだ。部外者は出てくれ。」
「俺の加羅を、何に利用する気なの?」
一触即発状態。
それなのに、加羅は俺の腕を退けようともがいている。
「ヤマ、重い……」
ムッカァ~
苛立つなぁ、ホント。
「桜野さん。そんな劣った奴を選ぶとか、言いませんよね。」
自信過剰だな。ま、人の事は言えないけど。
加羅は、視線を後ろの俺に向けて無表情。
何を考えたのか理解できない。悔しいなぁ、言葉にしてくれよ。
加羅の価値観に俺の願いなど、ないのかもしれない。
想いは俺の方が勝って、愛情を感じるのは難しく……情けない気持ちになる。
俺をこんな感情に突き落すのは、加羅だけなんだよ。
どうすればいいのか、模索も尽きる。
加羅は視線を俺から逸らし、立ち上がった。
腕が離れ、もう一度自分から抱き着く勇気などない。
「悪いが、私以外で相応しい人を探すべきだ。行こう、ヤマ……自分が次の授業で講師をするのを忘れているのか?」
避けられなかった役割分担……ん?俺の予定……
「加羅?」
俺の呼びかけに顔を逸らし、耳まで赤くなっている。
あぁ、俺以上に加羅の方が不器用なんだ。
分かっていたくせに、自信を無くし、愛情を自覚して喜びを味わう繰り返し。
「なっ、お前……まさか毎年、不参加の?」
他人が俺を知らなくても、何とも思わない。
どんな他人の評価も無意味。ただ願うのは……
「加羅、俺の事で怒ってくれたの?」
距離を縮め、顔を下から覗き込む。
「自分の中で、大和の評価が高いのが許せない。何だ、コレ……自分以外、自分の事さえ無頓着だったのに……責任を取ってもらうからな。」
複雑そうな戸惑いを見せ、想いを赤裸々に……それも無意識で告げた。
俺は心奪われ、全て手に入れたい欲望を更に募らせる。
「ははっ。それ、加羅からのプロポーズだと思って良い?」
人気のない空き教室を見つけ、加羅を抱き寄せた。
拒絶は無い。いつになく良い雰囲気で、強引になるのを抑えつつ、キスを落とす。
受け入れる加羅……上手く行きすぎて不安になるのも、どうなんだろうか。
「大和が相手の意見を覆すのかと思った。いつも自信に満ち、何物にも左右されない……私は取り残される気分だ。」
あぁ……俺のプライドなど、加羅の前では無意味だと思っていたのに。
加羅は、俺のプライドが他人から傷つけられたと感じて、どう反応するのか俺を観察した。
お互いに、まだ知らない事を知りたいと願い、想いも同じ。
「加羅、俺達は未来を垣間見た。これから拭えぬ不安もあるだろう。全てを頂戴、俺も全てを託すから。」
タイトル『墓穴』
Side:加羅・登場人物:ヤマさん
放課後、いつもの化学室に寄ると……
「加羅、遅かったね!」
ニッコリ笑顔の他校生……
「ヤマ、授業が終わるのは変わらない時間のはずだよな?」
私の質問に、首を傾げて無言の笑顔。
誤魔化しやがった……サボリだよな、確実に。
「約束を忘れたとは言わせない。」
何でもこなすヤマに、先生方も甘い……だからと言って、他校生の出入りは別だろう?
「何、加羅……俺と会うのが嫌なの?」
面倒臭い質問きた!!
「……約束を守れない男は嫌い。」
流されて、後が困るのは私だ……
「加羅?ね、俺の事……邪魔なの?」
はっきり言ってしまえば、邪魔者以外の何者でもない。
「ヤマ?約束は……」
話し合おうとする私を抱き寄せ、目は閉じ気味で唇を近づける。
流されてはダメだ!!
顔を押し退け、苛立ちに本音がポロリ。
「邪魔!」
はっ!しまった、話し合うつもりが……
「愛情が足りない!だから会いに来るんだよ?」
ゾワゾワ……背中に流れる寒気。
身の危険を察知するが、逃げられない……奴の腕の中。
「話し合おう!」
冷静なんだよね、コイツも。怖いぐらいに!!
「ヤマ、私は約束を守って欲しい。」
会うのは、学校の外だと約束した。
その約束の為、恥ずかしい事も……あんな……うわぁあぁあ~~
思い出して、赤面と居た堪れない感情が苦しめる。この場から逃げたいほど。
「加羅?」
思考を読もうとする視線に、話し合いなど無理な話だ。
嫌いじゃない……好意を示されるのも嬉しいけど……流されては駄目だ。
自分が崩れていく気がするから……
「ふふ。くすくすくす……」
不気味な笑顔を私に向け、企んだ眼。
ここで言葉を間違えると危険度アップ。
「ヤマ?帰ろうか、今日は……その……」
とにかく、学校を出よう。ここでは不味い……
「加羅?いい度胸だよね……」
冷静さを通り越した何かを含んだ言葉に、覚悟を決める。
「俺が悪いの?ねぇ、許して欲しいなぁ。何をすれば、許してくれる?ふふ……俺の愛情を注ごうか……嫌ってほど、味わうと良いよ。遠慮しないで……」
床に押し倒し、乱暴ではないにしても触れる手や身体が熱を発する。
「俺を拒めると思わないでね?」
墓穴……
end




