①バレンタイン企画‘11(短編)
【情報屋】
恵・荊
「ね、恵?」
「荊、任務は終わったの?……こっちに来て。」
結南の制服姿で、冬北にいると目立つような気がして周りを見てしまう。
慌てて、木陰に手を引いて移動した。
荊は、視線を落としたまま……
「どうしたの?体調が悪い??」
俺の声に、身体が固まる。
え?何だ??……別れとか……??
「あの、その……うっ……」
顔を上げたと思ったら、涙を零し……俺に抱き着いた。
ええぇ~~??何?何、何なの??どうすればいい??
「荊、何があったのか教えて?どうしていいか、分からないよ?」
混乱しながら、荊を抱き寄せ……頭を撫でる。
「ぐすっ……どうしても、無理。」
無理?今日の任務は、そんなにハードでは……
「恵……嫌わないで。」
「嫌わないよ。無理なら、しなくていい。荊が嫌なら、俺……他に頼むし……」
「うあぁ~~ん!!酷い!浮気者~~!!」
浮気……者……!?!!?
「酷いよ……他の子に、そんなおねだりするなんて!不潔ぅ~~!!」
おねだり??不潔????
「あの、荊。落ち着いて?俺が好きなのは荊だけだよ。」
「うぅ……嘘だぁ~~。」
酷いや……
「話が見えないんだ。どうしたのか、ちゃんと教えてよ。」
荊は、涙を浮かべ俺を見つめる。
「だって、今日はバレンタインでしょう?」
チョコを期待していたけど、荊の様子がおかしかったから……もらえないかと思った。
チョコと関係が??
「うん。俺は、任務の話をしていると思ったけど?」
「任務は、夏希君が片づけてたの。」
「夏希……?まさか?!ちょ、待って……」
携帯で、敬一に連絡をする。
出た途端、夏希の闇討ちで救急車を呼んだと聞かされた。
「……あぁ、後を頼む。」
「でね、夏希君が……去年と同じじゃ、ダメだって……ぐすっ……でも、そんな大胆な事……出来ないよぅ~~!!!!」
……夏希、何を??
「荊、チョコは持ってる?」
「うん。普通のだよ?」
……顔が引きつってしまう。
「大丈夫、それを頂戴。一緒に食べよう?」
「本当に、しなくていいの??」
……何を吹き込んだのか、気になるけど……聞くのが怖い。
「荊、今年は俺がキスをしても良いかな?」
「うん……良いよ。甘いのを頂戴……」
口にチョコをはさみ、荊の口に運ぶ。
荊の熱で溶けるチョコは、去年よりも甘い……
【花冠】
凌子・武
武の家に、お邪魔する。
「ふふ。今日は、母さん……飲み会で遅いんだ。」
頬を染め、嬉しそうに笑う。
そんな武が愛しい♪
「イチャイチャ、出来る?」
「へへっ!出来る♪てか、邪魔者は励二のところ?」
「うん。昨日から、出張先に追いかけて行ったわ。邪魔は入らないよ?」
武に、甘えるようにすり寄る。
「良い匂いがする。」
「ん?チョコ、手作りしたからかな。匂いが付いてる?」
「甘い香り……ね、味わっても良い?」
「まだダメ。先に、チョコを食べて?」
「……じゃ、キスしても良い?我慢が出来ないよ……」
「チョコが先♪」
「……何で?いつもと違う……」
「ふふふ……くすすっ……焦らしてるの♪」
「酷いよ。邪魔が入って、俺……いつも我慢してるだろ?」
「……怖いのよ?本当は……」
何度も触れる少しの抱擁じゃない……今日は……
「あ……そっか……へへ?ごめんな……優しくする。チョコ、先に食べる!!」
顔を真っ赤に、チョコを受け取り……包みを開けた。
「美味そう♪戴きます!!」
チョコを口に入れ、モグモグ。
武は私から離れてベッドに座り、チョコの箱を自分の横に置く。
立ったままの私に微笑んで、二粒目を口に入れた。
無意識で、そこに座ったんだ……
「美味しい?」
「うん、うまひ……」
次の一粒を、口に入れた。
鈍いところがあるよね……武。
「頂戴?」
膝に手を載せ、片手を頬に当てる。
唇を重ね、口に入ったチョコを奪う。
「凌子……?」
「ね、私も……甘いかな?」
武の唇についたチョコをペロリ。そして、自分の唇を舐める。
武の眼が、真剣で……いつもと違う熱い視線。
「甘いか……食べても良い?」
膝に乗せた手を引かれ、腰に腕が回る。
ドキドキして身体が熱い。
この熱は、私?それとも……
「凌子、好き。良い匂いだ……イタダキマス♪」
【君は】
優貴・綾(伏せます)
相手は小学生……どこまで、OKなのかな?
ずっと、頭にあるのはそんなこと……
「優貴!ごめんね、待った?」
小学生にしては、高めの背……普段着で出かけると、年の差に違和感はない。
「いや、ボスに呼ばれていたから。新体操は、お休みなの?」
「うぅん、お休みしちゃった♪」
任務に巻き込まれ、共に過ごす時間が増え……膨らむ欲望。
「どこか、行きたいところはある?」
「あ……」
どこかに思い当たり、口を閉ざした。
「どこ?」
問う俺から、視線を逸らす。
「……太西高校。制服デートがしたい。」
小さな声……
【ズキッ】
可愛いお願いに胸が痛むのは、年の差を気にした綾の想いが伝わるから。
「じゃ、待っているから。更衣室に、行っておいで……制服デートしよう?」
視線を少し、俺に向け……微妙な笑顔。
手を綾の頬に当てる。
綾は甘えるように、俺の手に頬の柔らかさと温もりを伝える。
【きゅぅ~~ん】
可愛い……愛しさに、望むまま触れたい。俺の思いのまま……
もう片手で綾の腰に触れ、引き寄せる。
流し目で、顔を逸らしたままの綾。頬にキスを落とす。
反応して目を閉じた綾の力が抜け、俺の手に動かされるまま……
顔が正面に向く。綾は一度 目を開け、俺を見つめる。
「綾……好きだ。年の差は、気にしない。君は、気になる……よね?」
「今の一時を、大事にしたい……」
綾の目に、涙が溜まる。
「うん。一分も無駄にしたくない……」
顔を近づける俺に、受け入れる視線。
閉じ気味に、ギリギリまで閉じることのない目を見つめながら。
君に囚われる……溺れるような感覚……
重ねる唇は、冷たい??
目を見開いて、唇を離す。
綾は目を細め、唇に小さな板チョコを当てていた。
「チョコ……あ、バレンタイン??」
驚いた俺に、綾も驚いた顔。
「優貴、他の子からチョコもらっていないの?」
「あぁ、太西はチョコ禁止だから。今日は、任務にも行ったし……。」
俺がもらっていないことが、そんなに嬉しいのか最高の笑顔。
「食べて?キスを頂戴……私に、甘さを与えて……」
俺の口にチョコを入れ、頬に手を当ててキスをする。
甘い……一時も、無駄じゃない。
キスを受けるのも、キスをするのも……君とだけ。
分かつ甘さは、チョコだけじゃない……君は、本当に小学生?
気にならない……気にしない。したくない……
貪欲な俺が、汚す……
「綾……好きだ。もっと、甘さを頂戴……君も、味わって……」
溶けるチョコ……甘い香りに誘われるままに……




