第二話
第二話
「ふげええええええええ!!!止めて止めて止めて!!!!」
この情けない声を出しているのが俺、一ノ瀬めぐる。
俺は今、赤髪のイケオジに抱えられている。
「落ち着け、もうすぐトリベスタの街に着く」
アルフレドがすごい落ち着いたイケボでそんなこと言うからほんとに少し落ち着いたじゃんか。
アルフレドの左側にリガット、そして右側に俺。両脇にそれぞれの腕で抱える形でロケットさながらに進行中。
ていうか風圧が強すぎて顔が歪む!!!リガットの魔法のおかげで軽くなった体と肉体強化の脚力で半端じゃないスピードがでている。
というかこれほぼ飛んでるような……片脚で地面を蹴るたびに数十メートルは余裕で進んでる。
リガットはというと余裕綽々……というよりなんか誇らしげなんだけど……。
あんた初心者?私はもう慣れてるわよ?と言わんばかりの鼻穴広げたドヤ顔がアルフレドの体越しに見える。
そんなことを考えていると前方に光が見えてきた。そろそろこの森林地帯も抜けるみたいだな。
「森を抜けたらもうすぐだ。もう少し踏ん張れよメギュル」
いやだからめぐるだってば!なにそのちょっとそれっぽい名前!まぁもうどっちでもいいか……。
訂正する気も起きなく心の中でツッコミを入れたのも束の間、一気に視界が開かれる。と同時に眩しい光が目に突き刺さり久しぶりの太陽を拝む。
こっちの世界に来て初太陽じゃね?と思いながら前を向き目を細めてみると、何やら街のような固まりが見えてきた。
ちょうどこちら側の方が地形的に高い位置にあり、斜め上から見下ろす形となっているためなんとなくの全体像が見える。
見る見るうちに近くなり、よく見ると街の真ん中には石造りの教会と城が合体したような大きな建造物がどっしりと構えていた。
「あれがトリベスタですかあ!?」
いかんせん走るスピードが早すぎて風圧がすごいので大声になる。
「うむ、いかにも!中々良い街じゃろう!」
あれ、アルフレドさんイケオジキャラは何処へ?
「ちょっとアルフレド!もう限界なわけ!?もう少し踏ん張ってよ!」
「いやはや、この老体10分も重りを両脇に抱えて走ると流石に足腰に……」
アルフレドはぼそっとこぼす。
「アルフレドったら……あなたそれでも元冒険者なの?あと重りって何?わたしのこと?重りって言った?」
「お嬢様……舌を噛んでしまいますぞ」
2人のやりとりが面白く少し笑った。2人ともなんかいい関係性だな。見た感じ執事と貴族のお嬢様って感じだけど、2人とも服装は小汚い冒険者風だし、あぁやっぱりお金持ちだから形から入るってこと?それとも貧乏貴族……?
そんなこんなでリガットの魔法の効果もどうやらここまでのようだ。
先ほどのスピードも徐々にゆっくりになり、その後すぐに抱えていた腕が解かれ2人とも地面に座り込む。
腰を曲げて半分にするように抱えられていたからか、すこし鬱血して思うように下半身に力が入らない。
「ここからは歩いて行きましょうぞ、若人諸君」
「はぁーい」
リガットが残念そうに返事をする。
「ありがとうございました。めちゃくちゃ早かったですね。魔法ってすごいなぁ……」
しまった。これは失言かも知れない。魔法が当たり前っぽい世界だし異世界人ってバレるんじゃ……。
「へへーん、私これでもエクスーシアイなのよ。すごいでしょ?」
そんなことはなかった!そしてまた鼻穴あけてドヤ顔してる。えく、えく寿司ー愛?なんだそれ、おいしいのか?愛情たっぷりなのか?
「へ、へぇ!そうなんだぁ!すごいじゃん!」
元いた世界で培った"シッタカ"スキルを駆使し切り抜けようと試みる。
ここで、え?なんですかそれ?なんて聞いてみた日には非常識ど田舎お坊ちゃまのレッテルを貼られるか、それこそ異世界人と疑われるかも知れない。
一応記憶喪失なんです自分、的な感じにはなってるが念には念を入れよ、だ。
現状は当たり障りなく、ある程度の距離を保った方がいい気がする。
「な、なんかムカつくわねその反応……バカにしてるわけ?」
ギクッ!意外と鋭いよなぁこの子。
「いやいや、純粋にすごいなと……」
「まぁいいわ。いっても魔法階級なんて今の時代そこまで重要じゃないもの」
「そうなんですか?」
「謙虚で良いですぞお嬢様」
アルフレドの高速フォローさすがです。それにしても魔法階級か。魔力とか魔法の実力とかで強さにランク付けされるみたいな感じかな?まさに貴族っぽいぞ。
「お嬢様がエクスーシアイ級の魔法使いになったのは最近のことでしたな。」
「ちょ、それは言わないでよ」
「これは失礼、次の階級デュナメイスになるにはそれ なりに実績を積まなければなりませんな。実務でも座学でも。いやはや、これからが楽しみにございます」
「ところでメギュ……メグルは魔法は使わないの?」
ちゃんと言い直してくれて嬉しい!それよりも唐突に聞かれてあたふたする。うん、教訓にしよう。
「生まれながらにして魔力を持つものもおれば、持たぬものもおりますからな。あまり無邪気に聞くものでもないですぞお嬢様」
「そ、そうね……悪かったわメグル!」
セーフ、なのか?アルフレドに助け舟を出された気もする。
歩きながらアルフレドが話す。
「ちなみに……生まれ持った魔力で言えば、アサイラム王国フェリカブレイク地方、ウィスターバレーにおいて最も優れた魔法使い――」
「ウィスターおじいさまね!」
「ご名答ですお嬢様。そのウィスター様が切り開いたのが我々が住むウィスターバレー、名前にもなってますね。すなわちリガットお嬢様のお父上のお父様のお父様のそのまたお父様と言うわけです」
「ちなみにウィスターおじいさまはトロノイ級だったのよね!アサイラムの中でも1、2を争うほどの魔力量でエイジャルバン国立魔法学校にクリスタル像も建ってるんだから!」
自慢げに言いながらこちらをチラッと屈託のない顔で見てくる。わからない単語だらけだ。知らんがな。「へぇ〜」と軽く頷く。
でも結構歴史のありそうな家系だ。しかもめちゃくちゃすごそうな魔法使い家系?
魔法学校とやらに像が建つくらいだからかなり偉いのかな。
リガットはそのウィスターさんのひ孫?玄孫?ってやつにあたるのか。
えんもたけなわ、そうこう話しているうちにトリベスタの街の外壁――4,5メートルほどの高さの石造り――が目の前に迫る。
入り口には門兵というのか、槍を持った兵士のような風貌の人間が大きな門の両サイドに立っていた。
「めぐるさん、ちょっとこちらへよろしいですかな」
アルフレドは門に近づく前にリガットから少し離れて俺を呼び出した。なんだろう。あとちゃんと覚えてるじゃんか名前。
「あまり深くは詮索致しません。あのような場所で見た目にはほぼ無傷で倒れていたわけですからな。のっぴきならない理由があった――のかと」
「え、えぇ……」
話を合わせるように相槌をうつ。
「記憶はまだ戻られませんか?」
「そ、そうですね。まだあんまり……」
「そうです、か……。まぁあまり思い悩まず、今後の事について少しご提案させていただきたく」
ふむふむ、確かにどうしようかと思っていたところだ。この感じだとトリベスタに入っても途方に暮れそうだった。
「ありがとうございます。正直どうしたらいいかと思ってまして……いつ記憶が戻るかもわかりませんし……」
「いえいえ。ゆっくり思い出してくださいませ。トリベスタにツテのある宿がございます。私がそちらの部屋を手配いたしますから落ち着くまでどうぞお休みになられて下さい」
お、意外と手厚いぞ?宿まで手配してくれるのか。別に恩があるわけでもあるまいし……妙に励まされるし、なんか勘違いされてないか……
「ありがとうございます。でもなぜそこまでしていただけるのですか?」
気になることは聞いておく。
「なに、我が家の人間なら従者も含めてみなそうするでしょうな。それにめぐるさんは悪い人ではないでしょう?先ほどリガット様と私のやりとりを聞いて笑っておられた。そういう笑顔を持つ人に悪い人はおりませんよ」
「そう……ですか」
「宿の人間には融通してくれるように話しておきますので、これからのことは追々。まずは休まれる事を優先していただけましたら」
「ちょっといつまで話してるの〜!」
リガットが口を膨らませて急かす。
「アルフレドさん、ありがとうございます」
それにしてもアルフレドさん、優しくて太っ腹でイケボのイケオジってずるく無いか?こんなおじさんになりたいものだ。
「さ、入りましょ!」
2人に連れられてトリベスタの門をくぐる。




